7-18.「そのときはもう目のまえ」
事件があったのは、それから数日後のことだ。
当初は1週間くらいで帰ってくる予定だったゼノンさんだけど、どうも長引きそうな気配があるらしい。それだから1人でずっとお留守番してるのも寂しいだろうということで、今日からリクニさんやルゥちゃんのお宅に一時、ホームステイさせてもらうことになった私である。
ゼノンさんの帰宅が遠のいてしまったのは残念だけれど。
ひとまず無事を知れて一安心だったし、何より友だちのお家にお泊りというのも生まれて初めてのことで、なんだかんだルンルンとお泊りセットを用意していたのだけれど。
そこにコンコンとノック音がする。
なんぞと見やれば、窓の外にワシみたいな大きな鳥さんがとまっていた。
何事と目を丸くしたところ、よく見れば鉤づめのところに何かが括り付けられているではないか。
最初はゼノンさんにお届け物かと思ったのだが。
受け取ってみれば、それは以外にも私宛ての封書だった。
差出人のところに『魔女狩り協会』などと書いてあって何かと思ったけれど、すぐにアッとなる。
それすなわち、魔女狩り試験の合否通知書だったのだ。
そうと分かって、これは大変と途端にアワアワしだす私だった。
そういえばそうじゃん!みたいな感じになる。
試験を受けたら結果がくるなんて、至極当たり前のことなのに。
すっかり忘れていたのだ。
いろいろありすぎたせいか、なんかもう私の中ではすっかり過ぎ去った出来事に昇華されていて。
とにかく落ち着けいったん落ち着けと気を取り直してから、ごくりと喉を鳴らす私だった。つまりここにはあの試験の結果が書いてあるわけだが、その判定やいかにと。
差し当たって迷ったのは、これを開封するタイミングだ。
できればゼノンさんが帰ってから、一緒に開けたいと気持ちはある。
だけど長引きそうって連絡が、昨日あったばかりだし。
何より、勿体ぶるほどのことが書いてあるとも思えなかった。
いろいろこちらの都合で出させてもらった魔女狩り試験だけれど。
私、魔女だし。
そりゃもし本当に魔女狩りになれて、ゼノンさんの後輩みたくなれたらすごく嬉しいけど。
私、魔女だし。
覆そうにも覆せない、致命的な前提エラーがそこにあった。
ということでさっさと中身を開けて、スカッとしてしまうことにする。
封筒をビリビリやって、入っていたメッセージカードみたいな奴をパカンと開いて。けれど、まったく想定外の事態に見舞われたのが次の瞬間だ。
「え……?」
そこに書いてあった不思議な紋様は、たぶん何かの魔法陣だったのだろう。
それが高度な空間転移の術式だったと気付いたのは、もう少し遅れてのことになるけれど。
とにかく光が溢れて、私を中心としてギュインと魔法陣が展開する。
眩しいくらいバチバチとなって、気付いたら――。
どこか薄暗い、とても広い石造りの空間にヒュッと降り立っていた。
いったい何が起きたのか。
ここが何処なのかと、周囲の状況を確認する猶予もない。
「――ああ、そうかい。やっぱり、そういうことだったんだねぇ。アタシの睨んだ通りじゃないのさ」
そんな唸るような低い声は、思いがけず頭上から。
えっ?と見上げて、言葉を失う。
思考が停滞する。
だって、そうだろう。
そこにあったのは常識では考えられないほど大きな、とても大きな人の顔だ。
ギョロリとぎらつく眼光に、ずんぐりとした巨体。
嘲笑うかのようにニタリと吊り上がった口元、その奥に垣間見えるすり潰すみたいな臼歯は、本能的な畏怖さえ掻き立てられるほどに大きくて。
ともすれば相手が誰かなんて、すぐに分かった。
なにせそんな規格外な体躯の持ち主なんて、セレスディア全土でみてもたった1人しかいない。
その圧倒的な存在感と、肌がピリつくほどの威圧感は初めて会ったときのまま健在に。血に飢えた野獣のような、恐ろしい形相で私を見下ろす――。
「アンタが、アリスだったんだねぇ……」
リリーラ・グランソニアさんが、そこにいたのだから。
パート7ここまでです。
パート5~7で第2部という感じでしょうか。
ということで、次のパート8から第3部・・物語の最終部分に入っていきます!
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