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7-14.「お年頃かと思いきや」


 なぁんか、妙なんだよなぁ……。

 漠然としたその違和は今朝、セレスディアを発ったときからゼノンがずっと感じていたものになる。


 何がと聞かれると、うまくは言えないのだが。

 何かおかしい気がするのだ、さっきから。

 久しぶりの遠出だからと連れてきた、アリシアの様子が。


 出発したときこそ分かりやすくウキウキして、鼻唄交じりにスキップまで踏むと、すっかりいつも通りの呑気な浮かれ具合を見せていたが。いざ魔獣との交戦が始まると、これがどうしたと思わず二度見してしまうほどのヘッポコぶりを次々と披露ひろうするのである。


 最初はまぁ、無理ないかとも思った。

 言われてみれば確かに、それくらいブランクも空いていたから。


 なんだかんだ、こうして一緒にクエストに出かけるのも数週間ぶりのことになる。本音を言えばもう少し、せっかく手間ヒマかけて教えたことが身になっていてほしいと懇望はないでもなかったが。


 そこはまぁ致し方ないだろうと呑み込んだ。

 だんだん危なっかしくなってきたところで、おいおい何やってんだよとフォローに回る。(まさかお得意のはずの魔力砲までスカらせるとは思わず、心の中でズルりとなりながら。)

 

 ところがその顛末として発生してしまったのが微細びさいなアクシデントだ。

 なんか、イヤがられた。


 危なげなく空中キャッチで救出したところまでは良しとして。

 着地してから「大丈夫か?」と安否確認をしたところ、なんでか「わわっ!?」と肩を突き飛ばすみたいに、ワタワタ一人で降りられてしまったのである。


「…………」


 そのときの心境を素直に言えば、戸惑った。

 いやだって私重いですしとか、すぐに申し開きはあったけれど。


 ちょっと無理があるだろう。

 だってどう考えても、今のはそういう感じではなかったではないか。

 触らないでって拒否反応が前面に出ていたように思うし、何よりすごい慌てぶりだった。


 なんだか疎外そがい感を覚えつつ、「ぜんぜん軽かったんだが」と浮かんだ率直な感想も、口に出すのは何となく控えておく。あくまで平静は装いつつも。


「そ、そうか……?」


 まったく想定していなかった状況に直面して、いったい何事かと。

 内心でそこそこオロオロ、狼狽うろたえたりもしているゼノンだった。



 ◆



 あらゆる可能性は加味したのだ。


 俺なんか嫌われるようなことしたか……?

 から始まって、昨日一昨日と記憶を遡るも思い当たるようなふしは何もなく、でも今朝はご機嫌そうだったから何かあったとすればやっぱ今日だよなと思い直して、挙句にはまさか変な臭いでもしてるのかと袖や襟にクンクン鼻を鳴らしたりもした。


 されど原因の特定には至らず、次に浮かんだのは思春期とか年頃とか、あまり馴染み深いとは言えないワードたち。「……あいつが?」とたまらず首を傾げたくなったが、そこはいやいやと首を振って思い直す。


 決してないとは言い切れないだろう。

 ボチボチ、そういう年頃を迎えつつあるのだから。


 はて、そういえばいくつだったか。

 そうだ確かと、前に聞いたときの年数としかずを思い出してみる。


「…………」


 まぁ立派なガキンチョだった。

 百歩譲ってあったとしても、反抗期がいいところとしか思えないが。


 だけどすぐに、あれ待てよともなる。

 考えてみれば、それはまだ出会ったばかりの頃に聞いたことではないか。

 そういえば施設の人が決めてくれた誕生日だかがあって、もうすぐなんですよともその時点で言っていた気がする。


 ということは、すでにプラス1歳はされているわけか。

 いや待てよ。それにしたって、ついこないだの話というわけでもない。

 ということは、つまり……?

 あと数か月もしないうちにプラス2……?

 

 マジかよと、発覚した驚愕の事実に心の中で青ざめた。

 見てくれも中身も、あの日からほとんど変わっていないようにさえ思えてしまうが。(いくら何でも、さすがにそれは言いすぎか?)


 時の流れが平等である以上、どうやらそれが事実らしい。

 だったらまぁ確かに、そろそろガキンチョとも言えなくなってくる、のか……?


 最後の最後でクエスチョンマークはぬぐいきれなかったものの、やや早めのそれと考えればさっきのアレにも説明は付けられると。いったんその説が有力そうだと留め置くゼノンだった。


 つまるところ、距離感がいただけなかったのだろう。

 私だってもう子どもじゃないんですからちょっとはそういうの考えてくださいよ的な、あの拒否反応にはそういう切実なメッセージが込められていたのかもしれない。


「…………」


 そう考えてみると存外、かえりみるべき点はポツポツ浮かんだ。

 思えばその辺り、これまでまったく気にしてこなかったのである。


 普段から気兼ねなく頭をポムポムして、ひどいときにはアイアンクローまでかましている。あるいは自分が思っている以上に申し訳ないことをしてきたのかもしれないと、ちょっと真剣に居たたまれなさまで感じつつあるゼノンだった。


『もうゼノン、あなたったらほんと女心ってものに無頓着むとんちゃくよね。せっかく背も高いし強いんだから、少しは勉強してみたらいいのに。ひょっとしたら、リクニさんとは別方向にモテちゃうかもよ? そうだ! それなら私が教えてあげよっか!? 名案じゃない!?』


 かつて知己ちきから呈されてしまった、そんな苦言が思い返されたりもしたが――。


「――?」


 それはふいの気付きになる。

 いやだとしてもあの場面じゃ仕方なかったろとか、だったらあのタイミングで攻撃外すなよとか、こちらとしても言い分というものが~みたいな反論から考え巡って。


 にしてもアイツ、なんで今日はこんなに魔力が不安定なんだ?と。

 さっきは久しぶりの実戦で緊張していたのかとも思ったが、何なら今もザワついているような……?


 それに気づいて、ハタと足を止めてから振り返る。

 するとやや距離を置いた後方、トボトボと後ろからついてきていたアリシアがにへりと、力ない誤魔化し笑いを浮かべてくるわけだが。


「……?」


 心なしか、その顔はやや火照ほてっているようにも見えた。

 単に疲れているだけとも取れるが。


 いや待てそういえばあのときと、付随ふずいして想起されたのはさっきアリシアの体を受け止めたときの感触になる。妙な反応をされたせいでただし損ねていたが、そのとき確かに思ったのだ。なんか熱くね、と。


 まさか――。

 考えるほどに疑惑は深まるばかりで、こうなったら問答無用と詰め寄り検温してみればそのまさかだった。モニュと掌で挟んだアリシアの顔は、少なくとも平熱と呼べる範囲にはない。


 おいこらと問う。

 鎖でジャラジャラにされ、魔力まで封じられたことが不服だったか。

 ずるいですよぉなどと今さらの抗議もあったが。


「いま言おうか迷ってたんです……」


 最後はこれぽっちも信用ならないことを言いながらヘタリ、諦めたようにその場にくずおれるアリシアだった。

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