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アイツの恋の契約更新

作者: JUN





   小学1年生の時だった


  その日は私の誕生日、幼馴染であるアイツが私に綺麗なビー玉を渡しながら言った


  「アヤちゃんだいすきだよ とりあえず10年」


  「なんで10年なの?」


  「ずっととかってしんようないんだってバアちゃんがいってた。」


  「それで10年?」


  「だって1年ずつってめんどうじゃん だから10年」


  「わかった ありがとう」


  「そこはわたしもだいすきじゃあないのかよ」


  「だってわたしアンタのことそんなにすきじゃあないかも」


  「わかった、じゃあいい、とりあえずぼくはだいすきっていっておきたかった」


  「ふーん、まあわるい気はしないからいい」


   私は初めて受けた異性からの告白をずいぶんと高慢に受けたものだと思う


  もちろん幼かった事もあったのだが




  

  「オレはメジャーリーグのピッチャーになる。」


   それがアイツの口癖だった。こんな小さな田舎町、リトルリーグすらない町で


  大人に混じって草野球ばっかりやっていた。時間が空けば筋トレかランニング、


  完全なる脳筋でその様子を唯一の幼馴染であった私はずっとそれを見ていた。



   小学5年生の時、転校生が来た。


  柚香という大人しく俯き加減な猫背で口数も少ない女の子だったが、


  なんせアイツ以外同級生が近所にはいなかったので、私は彼女を誘って一緒にアイツの練習を


  見る事にした。ヒマにならない様に携帯ゲームしながらだけど


  それでも彼女は付き合ってくれた。ギャラリーが増えてアイツも嬉しそうだった




   中学生になっても野球部がなかったアイツはひたすら1人で練習してた


  もう練習に毎回付き合う事はなくなったがたまには見に行っていた。


  行けばアイツは喜んでいたし、いいとこ見せるぜって張り切っていた


  柚香はまだアイツの練習に毎回付き合っていた様だった


  行けば必ずいたし、口数少ないながらもそれなりにアイツと仲良くしてる感じだった



   そして3人とも同じ高校に進学した。選べるほど近所に高校はなかった


  アイツはメジャーリーガーになるなら英語が出来ないと、という事で英語だけはすごかった


  他は見事にバカだったが


  私はそこそこ出来る子だったが、柚香はかなり出来る子だった。勉強では彼女には勝てない


  しかしこう言っては何だが、彼女にも問題があった。


  地味な感じで大人しく人見知りなので都会だったらイジメの的になりそうな娘だった、


  こんな田舎町じゃあイジメなんてないのだが


   まあ私もそんないい女とは思わないが、アイツは可愛いと言ってくれるし、


  性格もまあ明るい方だろう。高校に入ってから告白もされた事もあるし、断ったけど


    

  高校に入って念願の野球部に入って甲子園を目指す事にしたアイツは私と柚香にマネージャーに


  なってくれといい出した。部員もそんなにいない田舎の野球部にマネージャーなんて要るのか、

  

  とも思ったが特にやる事もなかった私は了承する事にした。


  柚香もやるようだし2人なら心強いし、頼りになると思った


  一年生からエースになったアイツは初めての甲子園予選は初戦で敗れた。


  ロッカーで悔しくて泣いていたアイツを見て、初めてアイツに胸が震えた。


  アイツを支えてあげたい、と素直に思った



  そしてその年の私の誕生日、オルゴールのプレゼントを渡しながらアイツがまた言い出した


  「彩、大好きです、とりあえずまた10年」


  「えっ、何?アンタ私の事好きなの?野球ばっかで私の事そんな風に見てないと思ってた」


  「何言ってんだ、ちゃんと前にも好きだって言ったじゃん」


  「あんな子供の時の話無効みたいなもんじゃないって思うわよ、誰だって」


  「言った言葉は責任持つ、当たり前だ」


  「そう、 ありがとう 嬉しいよ」


  「おう、返事は要らないからな」


  「はぁ、私達付き合うんじゃないの?」


  「オレは野球の練習あるから、付き合ってもらっても満足にデートもしてやれないし

  彩に我慢させるつもりもない。オレの思いを知ってて欲しかっただけ」


  「何よそれ?自己満?」


  「まぁ、そんなもんだ」


  「呆れた、随分勝手ね」


  「勝手ついでに頼みがあるのだが?」


  「何?」


  「キスさせてくれ」


  「はぁ?アンタ何言ってるの?バカなの?」


  「ダメか?」


  「別にダメじゃあないけど」


  言った瞬間キスされた。


  ちょっとだけアイツのカサついた唇の感触がした


  でもやっぱり胸はときめいた。この時の私は間違いなく幸せだった


  


   しかしそれきり全く進展もなくアイツはますます野球に没頭して、練習にのめり込んだ


  私はマネージャーとしてアイツを支えた


  クリスマスとかお正月とかのイベントも野球部全員でやって、ロマンチックには程遠かった


  

   そして最後の夏、3回戦でアイツの甲子園への夢は敗れた


  夏が終わればいよいよ次の進路である。プロはおろか、大学、ノンプロからも誘いのなかった


  アイツはどうするのか、とりあえず聞いてみた そしたら冗談みたいな返事が返ってきた


  父親の知人にメジャーリーグに携わる人がいる。


  その人を頼ってメジャーのルーキーリーグに入るらしい


  私は反対した、もう夢諦めて働こう、それでこれからちゃんと付き合って、一緒に頑張ろうって


  だいたいどこのスカウトも来なかったのにメジャーなんか無理だよって、現実を見て欲しかった


  しかしアイツは頷かない、これはオレの夢なんだって聞かない


  私は凄くショックだった。


  確かにアイツは無茶苦茶練習した、投手としていい球投げていたとも思う


  でもこんな田舎町じゃあスカウトなんて来ない、誰も評価してくれていないのだから諦めて


  欲しかった。私との未来を考えて欲しかった


   


   結局アイツは卒業式を待たずにアメリカに行った




   アイツが行った夜、私の初恋も終わった




   私は卒業後、大学に行く事にした。アイツが一緒なら働こうと思ったがいないなら


  学生でもして少しはエンジョイしようと思ったのだ


  私は初めてあの田舎町を出て大学近くで1人暮らしを始めた


  都会と呼べる大学生活は楽しかった。直ぐに彼氏も出来た、毎日が面白かった


   大学2回生になった時、彼氏の子供を妊娠した。


  そのまま彼氏と大学を中退して結婚する事になった。


  結婚式も挙げられなかったが、しょうがないと諦めた


   そして翌年、長女を産んで子育てに悪戦苦闘している時、旦那の浮気が判明した


  私は裏切られた思いで逆上した。証拠を突きつけ慰謝料を請求して離婚した。


   慰謝料は養育費込みの分割になったが、それだけでは生活出来ない


  子供を見てもらう為にも私はあの田舎町に戻る事にした。


  三年ぶりの故郷だが見事に変わり映えがなかった。


   途端に生活が色あせた感じがした


  帰って来ても両親は暖かく迎えてくれた。ゆっくり就職も探せばいいと言ってくれた、


  深く追求とかする訳もなく、見守ってくれた、ありがたかった



   しばらくして私は柚香に会いに行く事にした、


  彼女は短大に行って就職は地元の図書館に勤めていた


  久しぶり、元気だった?という定番の挨拶から近況報告した後、アイツの話題になった


  アイツはまだクビにならないで、頑張っているという


  それどころかルーキーリーグから三年で3Aまで上がってメジャー間近だと言う


  びっくりした。正直ダメだろうと思ってた。


  でもここまで来たら一度くらいはメジャーのマウンドに上がって欲しいと思う。


  やはりかつては好きだった男の子なのだ、幼馴染だし


   とりあえず久しぶりの明るいニュースに気を良くした私は家に帰ると就職活動を頑張った


  程なくそれなりの会社の事務員として雇って貰える事になった私は育児と仕事を両親の助けの元


  何とかこなしていった。当分、男は懲り懲りだと思った私は、両親が偶に持って来る見合い話も


  断っていた。正直、再婚の見合い話にいい相手なんていなかったし



  そしてアイツは次のシーズン、メジャー初昇格を決めた。


  アイツは先発ローテーション投手として頑張っていた


  勝ったり負けたりとオセロみたいな感じだったが、テレビのニュースでたまに取り上げられて


  私はそのニュースを楽しみに日々を頑張った



  私は毎日を忙しなく過ごした。


  


  地元に帰って2回目の誕生日、柚香がお祝いに尋ねて来てくれた


  アイツが今シーズンのオフにアメリカに招待してくれると喜んでいた。


  思えば彼女は常にアイツの味方であり、応援者だった


  転校して来た時から、アイツの練習を見守り、高校ではマネージャーもしてた


  そしてアイツがアメリカに行っても、ネットでアイツの情報を集め、携帯を持たないアイツに


  励ましの手紙を出していたらしい


  アイツの事を思い出しもしなかった時期もある私とはエライ違いだ。


  そんなことでアイツもずっと応援してくれる柚香に報いたくなったのだろう


  しかもアイツは今やメジャーリーガー、報いるぐらいのお金ぐらいどうって事はないのだろう


  柚香は私にも一緒に行かないか?と誘ってくれたが、パスポートなんて持ってないし金銭的にも


  余裕なんてない。当然断った



   柚香はその年のシーズンオフから毎年同じ時期にアメリカに行く様になった



   そして私の26歳の誕生日の翌日、柚香はいつもと違う時期にアメリカに行った



  その年の暮れ、高校の時の同窓生をするので参加して欲しいと連絡があった


  聞けばアイツも参加するという、懐かしい思いで私も参加する事にした


  久しぶりにアイツと会う、テレビ越しなら見ていたが生のアイツは8年ぶりだろうか


  今や立派なメジャーリーガー、盛大にからかってやろうと意気込んだ



  そして当日私は久しぶりにアイツと再会した。


  柚香と一緒に入って来たアイツは身体つきも随分と大きくなっていたが、


  メジャーリーガーと言う割には性格的にはあまり変わってない気がした

  

  懐かしい感じが少し胸を切なくさせた


  幹事の同窓生が、アイツと柚香の結婚を告げた。


  「うわぁ、マジで?結婚するの?おめでとう」


  「あぁ、ずっと応援してくれてたし、オレの片思い契約も終わったしな」


  「何それ、アンタまだ言ってたの」


  「この前の彩の誕生日で切れた、いくら今はフリーとは言え、結婚もしてた彩との更新は流石に

   出来なかったからな」


  「そんなの気にしないでよかったのに、相変わらずアンタは律儀ね」


  「約束は守る、当たり前だ」


  「で、今度は柚香に言うの?10年好きだって」


  「いや、流石に結婚なら永遠を誓わないとダメだろう」

  

  「アンタなら別に問題ないんじゃない」


  「まぁ、自信はある」


  「柚香、幸せにしてやりなよ、ずっとアンタの事好きだったんだから」


  「あぁ、任せとけ」


  「じゃあ私、柚香のとこ行くわ、アンタと話たい人いっぱいいるだろうし」


  「ん、じゃあ、また  あ、そうだ! 彩!」


  「え、何?」


  「俺、メジャーリーガーになったぞ!」


  「今更何言ってるの、知ってるよ、そんな事」


  「夢叶えたんだ、少しは褒めてくれよ」


  「あぁ、言ってなかったね、おめでとう。アンタの頑張りは私も見てたから嬉しいよ」


  「彩のおかげだ、ありがとう それから20年、オレの片思いの相手してくれてありがとう」


  「どういたしまして、でもそれ柚香に言っちゃあダメだよ」


  「もう知ってる、オレが話した」


  「呆れた、柚香は何て?」


  「気づいてた、ってオレが彩の事好きな事なんて丸わかりって笑ってた」


  「柚香はアンタに似合いのいい奥さんになるね」


  「ありがとう、そんだけだ」


  「ん、じゃあまた」


  今度は柚香の所へ行く、彼女の周りにも人だかりが出来ていた

  

  「柚香!おめでとう!」 心から言えた、私はエライって自分で思った


  「ありがとう、彩ちゃんに祝福されるの凄く嬉しい」


  人も多いし、あまり込み入った話も出来ないだろうと思って、この場は挨拶だけにしておいた


  他に特別言いたい事もなかったし、逆に柚香の方が私に言いたい事があったかもしれないが


  

  しばらく、他の同窓生と世間話をして同窓会は終わった。終始幸せムードでいい同窓会だった


  私はアイツにも会えたし、結婚話も聞けて大満足だった


  決して強がりではない、当然の帰結と思ったのだ


  確かに私はアイツの20年にも渡る片思いの相手だったかもしれない


  しかし、私はアイツの夢を否定した。絶対無理とまで言い切ったのに今更成功したアイツの隣に


  居れる訳なんかない。当然ずっと夢を信じて応援していた柚香が隣に居るべきだと思った


  後悔だってないアイツの件に関しては


  どっちかと言うと前の旦那だった男に対しての方が後悔はあった



  

  だけど、たまに思い出す



  カサついた唇と不器用なキス


  幸せを感じたあの時


  あの時私は確かに恋する乙女だったのだ





  

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