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乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
最終章
73/74

オワリ その2

 敬之兄さんが運転する車は、只今貸切の『桜絨毯』に辿り着きました。店の入り口には、美しい胡蝶蘭がたくさん並び、華々しく飾りつけられています。これは、瞳ちゃんの仕業です。

 私と敬之兄さんは、車から降りると、店の引き戸を両方から開け放ち、初々しいカップルを招き入れます。葉月さんがその背をぐいぐい押して、歩かせています。迷路のような店内の暗い廊下をずんずん押し進み、最奥の部屋の前まで辿り着きました。再び兄さんと私によって、しずしずと襖は開かれました。

 途端に! 私達は籠に入った白やピンクの花びらを、好き勝手に二人に向かって放ちます。フラワーシャワーです。


「なんだこれ……?」


 みんなの大きな祝福の大合唱です。座敷は、花・花・花!花のオンパレードです。

 千堂は、夏生ちゃんの肩に手を廻します。


「やるなあ、白鷹。案外、(おとこ)だな」


 瞳ちゃんも夏生ちゃんのぱちくりした顔を見ながら言います。


「……ったく。ヘタレもこの程度で済んでよかったわよ」

「僕凄く心配しましたよう。おめでどうございばすなづぎざ~ん、貴方は僕の恩人ですから!」


 中川愁一くんも、目を真っ赤にして声を掛けました。恩人ってなんです?


「オイ、……どういうことだ? これ」

 

 殿宮さんは花婿衣装であることも忘れているのでしょう、頭をぐしゃりと握ってセットを潰してしまいます。


「わ、分かりません。流れに乗ってここまで来ちゃいましたけど、」

「なんだ、夏生、お前グルじゃなかったのか!?」

「……全部葉月さんのお陰ですよ、お二方」


 私は困惑している二人に教えました。葉月さんは、のしっと私に身体を預けます。


「夏生、時雨さん、本当にバカ。僕らがここまでお膳立てしてあげなけりゃ素直にならないんだから。……もう、強がらなくていいんだから、」


 葉月さんは、少し陰のある微笑を浮かべます。


「……葉月、お前が黒幕か。信用してたのにな」


 殿宮さんは、葉月さんに「生意気」と言いながら小突きました。それでも、気持ち良さそうに清々しく笑います。


「とんでもねえ事しちまった、いい大人が」


 そして二人の目線は、花びらの雨の向こうから、私を捉えます。


「……やめてください。幸せな二人に哀れっぽく見られたくはありません。おめでとう御座います。さぁ、笑って!」


 それでも二人は笑いません。私はぷう、と呆れのため息を吐き出しました。私は身を引いたつもりなんてミジンもありませんし、哀れまれる気などさらさらありません!


「ねえ、殿宮さん。夏生ちゃんの姫君の座は貴方に譲りましょう。それでも、泣かしたり傷つけたりすることがあれば、許しません。さしずめ私は、夏生ちゃんの従者です。いつまでも貴方達の幸せを祈るのです」


 高らかに宣言します。


「さあ、誓いのキスを!」


 誓ってください。貴方が一生、彼を守ることを。彼に守られることを。

 一生愛し続けることを。愛を誰かに伝えることを。

 開かれた愛であらんことを。優しい愛であることを。

「僕」のくじかれた恋が、どうか安らかに眠れるよう、君たちの愛を見せてください。


 こうして、『桜絨毯』の最奥の座敷では、白とピンクの花びらが幾度と無く降るのです。

 ああ、苦しいです。私はこっそり泣きました。癒されなかった私の傷を思って、私は私のために泣きました。

 ああ、花びらは桜のようです。それは、初めて夏生ちゃんと出合った日の桜吹雪を思い出させるのでした。桜を見るたびに、貴方を思い出さない年は無いことでしょう。






『それから二人は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ』。

 だなんて、私にそんな確定的なことが言えましょうか。そんなの、幸せになってからの方が大変に決まっています。惨めな育ちのシンデレラは、お姫様生活に馴染むよう努力したことでしょう。美貌で王子をとりこにした白雪姫は、美貌を維持することを怠らなかったでしょう。夏生王子は、『白鷹』のお城を放り出されながらも、『殿宮探偵事務所』という新たなお城に受け止められるのです。二人の御伽噺は続く、それが私の言えることです。

 そして、最後に、語り手に甘んじた哀れな私に拍手を………


 誰かを強く愛すること。その深い悲しみから顔をあげた時、強靭な芯が築かれているのです。私のそいつの表象は夏生ちゃんと出会った日に咲いていた、『桜』なのでした。

 ああ、私の心に桜が咲いています! その泥の大地に根を張る一本の堂々たる満開の桜。これから誰を好きになろうとも、不可侵の心の領域、夏生ちゃんのための場所です。「僕」の挫かれた恋は、そこで夢を見るのです。

 私が恋に落ちるとき、その桜は、あの日の桜吹雪のようにヒラヒラと花びらを舞わせるでしょう。さぁ、乙女になる時だ、頑張れ、と夏生ちゃんの声が響くのでしょう。


 甘く切ない、……この恋の痛みを思い出させながら。










 オワリ。

 


最後まで読んでいただいてありがとうございます。

思い切り書き散らして、もう、話の筋は出鱈目で、文としても未熟な部分が一杯で、どうしようって死にそうなのですが……

初めて長いものを最後まで書いた、っていう記憶だけは持てそうです。



数名の方に毎日読んでいただけたこと、それが全ての励みで救いでした。

本当にありがとうございました。

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