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乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
第六章
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引越し準備の昼下がりに

 貴方を待つとは申しましたが。最近、更に夏生ちゃんに触れる時間は激減です。終業後、週の大半彼は都内へ行くのです。ま、まぁ、いいことなのです。仕方ないです。

 そんな中、遂に白鷹兄弟はマンションを11月の頭に撤退することになりました。連休が上手い具合に続いていて、引越し日和なのだそうです。本当は、全て業者さんに来てもらうべきなのでしょうが、私どもは片付けのお手伝いに参りました。お別れを惜しむ意味も込めて。その面子、私甘川穣に、中川愁一、そしてあの白鷹睦月。なーんーでー、貴方が居るんですか。


「俺、葉月の部下だし。手伝いしたっていいだろ」

「へぇ、随分大人しく部下の椅子に納まるんですね!」


 途端に、白鷹睦月は傷ついたようなナイーブな表情を見せます。


「俺の傷を大きくするなよな。これから巻き返すところだったんだ。突然だ、突然の宣告だぞ? 葉月の凱旋なんて聞いてなかったんだ!」

「ははは……君のその野心は買いますよ」

「買うな!」


 オヤジっぽい私の笑いに、白鷹睦月は青筋を立てて怒ります。


「二人とも喧嘩しなーい!」


 流石の彼も、葉月さんの命令には服従です。葉月さんは中川くんと仲良くキッチンのお掃除をしています。ちょっとだけ、オカンとオトンっぽい、こなれた雰囲気です。夫婦っぽいです。

 一方で夏生ちゃんは、自室にこもって整理をしています。手伝おうと思ったら、「ベッドの下見られたくないから。」と言いました。いちおう、それは彼なりの冗談です。

 そんな調子で、お昼時も近づいた時。葉月さんはぴょこんと自室から顔を出しました。


「お昼そろそろだね~。ね、穣、一緒に買いに行かない」

「あ、構いませんが。でも、中川くんは?」

「愁一は、僕の部屋、続けて整理しててくれる」

「あ、ハイ。行ってらっしゃい、お願いします。僕は、そぼろ弁当と明太子おにぎりで」

「解ってる」葉月さんは幸せそうにくすくすと笑いました。


 エレベーターの中で、葉月さんはゆらゆらと身体を揺らして目を瞑っていました。


「……もうココとはお別れかぁ。半年くらいしか住んでないのに。敷金礼金が勿体無かったなぁ」


 静かに戸は開き、マンションの外へ歩き出します。近くのコンビニまで行くのです。葉月さんは、縁石の上を歩き、ふわふわした鼻歌を歌っています。


「葉月さん、僕、夏生ちゃんと付き合っています」

「知ってるよ~」歌うのをやめると、彼は私の目を覗き込んできたのです。「穣、それでよかったの。夏生の気持ちは知っているでしょう?」

「知っています。それでも、僕は、殿宮時雨の態度も知っているから尚更です。あの人では、夏生ちゃんの今の気持ちを受け止められません」


 葉月さんは宴席から降りて、目を丸くしました。


「え、穣、時雨さんを知ってるの!?」

「ハイ。実は、夏休み前、写真展覧会の時にお会いしたんです」

「ああ、あの時か……。随分昔だね。僕、全然気付かなかった」


 葉月さんは頭を抱え、大げさに驚いて見せました。


「それに、最近彼は僕を訪ねてきたんです。『兄弟はどうしてるか』って。なんで直接あなたたちに聞きに行かないんです」

「……穣を訪ねたの?」


 今度は胡散臭そうに眉根を寄せます。少しこわい表情でした。しかし、すぐに呆れ顔に変わりました。


「……ばかだなぁ、本当にあの人は。あのね、これは白鷹のゴタゴタだから、人に言うコトじゃないかもしれないけど、そうだけど、こうなった以上譲も無関係じゃないよね、」


 葉月さんはなにやらひとりでに納得し、語り始めたのです。わかっていない私を置き去りにしたまま。いえ、引っ張り上げようとしてくださっているのでしょう。


「時雨さんは、『夏生に』会うのを禁止されてたんだ。ま、名目的には『僕らに』だけど。だからきっと、僕にも聞いてこないんだ。」

「禁止『された』?」


 彼は真面目くさってうなずきました。


「そうさ。……ね、今から昔話に付き合ってくれる?」


次回、回想に入りますね(..)


男だらけの回になりますのでご注意を…

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