表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
第五章
52/74

衝撃的な言葉はいつも突然なのです

 これは巷で噂の「デート」ってやつですよね。まごうことなきデエトですよね? 何着て行けばいいんでしょうか。いやいや、いつも通りで良いか。そうか。

 という気持ちのまま、瞳ちゃんに電話したら、《ウルサイアホユズル!》と言われました。


《念のため言っておくけど、それ、アンタを女の子として誘ったんじゃないからね?》

「またまたぁ。『アタシを差し置いて何で穣が!』とか思ってるんでしょう?」


 うわ、舌打ちしましたよ、この女。


《……ウザイ。だから、アタシは夏生に興味無いってえの》

「ははは。負け惜しみ」


 瞳ちゃんの薄ら寒い怒り顔が目に浮かびます。


《……切るよ》


 ああ、嘘です、冗談です! 今度はオバサンくさいため息をついてから、彼女は切り出しました。


《……ったく。アタシは心配してるの。変に期待してアンタが落ち込まないように釘さしてるんだから》


 そうです。夏生ちゃんは、決して恋愛対象として私を見ません。今回のことも、友達として、ごく自然に、成り行きとして誘っただけなのです。そんなの、解ってますよ。解ってるからこそです、はしゃがせてくださいよ。

 という、かわいそうな自分の状況を理解しつつ、瞳ちゃんの心配も私を愛するが故だということも解っています。アリガトウ、瞳ちゃん。


《ふん。一々言わないとアタシの気持ちが分からないわけ? アンタが男だったら絶対願い下げ》


 ちょっとでも下手に出ると、すぐこうです。


「……こっちから丁重にお断りしますよ」

《殴るよ? 電話越しに。》

「冗談です。愛してますよ」

《ぷっ。気持ち悪い》





 そんなこんなで迎えたファッションショー当日。宵浜駅で私たちは待ち合わせしました。

 葉月さん風のよそおいで現れた夏生ちゃん。ストレートの紺色パンツに、白い無地のTシャツってだけなのに、非常にお洒落で上品なのです。ファッションセンス皆無の私に語らせるのは危険極まりないことですが、彼の身に着けているものは、千円で買えそうでいて、実はウン万円もするものなのでしょう。縫製や生地の質はもちろん、パターンからしていいものに違いありません。敬之兄さんは学生時代、そんなもののためにお給料を使い果たすこともありました。

 しかし、こういうド単調な服ほど人を選びます。夏生ちゃんの場合、見事としか言いようがありません。骨格や首の形が綺麗だからでしょうか。斜め後ろ四十五度から見た彼は、世界の美しさの権化です。暗めに染め直した髪色と、葉月さんのカットが彼の素敵さを更に押し上げます。「……昨夜葉月に染められた……」だそうです。

 そうして、私は夏生ちゃんの腕を掴もうとし、それを何度も叩きつけられ、避けられながら、アウトレットに向かって歩を進めます。

 宵浜アウトレットのイベントステージは、いよいよ開幕の高まり、って所でした。客は意外にも大勢いて、学生が多いようです。詳細を見るに、慶浜の団体だけでなく、他の大学との合同イベントだそうな。めちゃくちゃ奇抜なファッショニスタがどんどん集います。


「葉月らの団体はモード系の既製服っぽい雰囲気だったけど……ここはコレクションみたいな雰囲気だな」

「お客を見ているだけでファッションショーですわ……ヒッ!」


 私の肩に、爪を食い込ませてきた不埒な輩がおりました。そろそろと振り向くと、そこには、

「睦月。来てたのか」夏生ちゃんはため息混じりに言いました。白鷹睦月。憎きアンチクショウの再登場です。彼は生意気そうに目を吊り上げてぐいと頭を近づけます。


「お前が呼んだんだろ」

「だってお前、模試だって言ってただろう」


 ということは、模試をサボってここに来ているとでも言うのですか。とんだ悪ガキです! 模試だってお金がかかっているのに。


「そういう気分じゃな無かったんだよ。別に、見たいから来たわけじゃねえよ」

「……ふうん。わざわざ都内から宵浜まで。ご苦労なことだな」


 夏生ちゃんには珍しく、含みのある言いようです。案の定、白鷹睦月は食いつきました。


「何が言いてえんだよ」

「父の秘蔵っ子がそんなことしてて良いのかな、と思った」


「……あのう」なにやら打ちやられている私が声を発すると、白鷹睦月は睨みつけてきました。「なんだよ、邪魔すんな」とか。いや、あの、肩にきみの爪が刺さってるんですけどね。


「なんでお前がいるんだよ。夏生にまとわりつくなって言っただろ。目障りだ、ブス」

「ははは。凛聖学園の生徒で、白鷹のおぼっちゃまともあろう君が、小学生の罵りみたいな真似はよしなさい。……デートに決まってるじゃないですか」


 ふんぞり返って宣告します。なんかもう、君はカワイイのです。それはもう、悪い意味で。


「そう言う訳だ。お子様は行った行った」

「夏生てめぇ、話を誤魔化してんじゃねえぞ。さっきのどういう意味だよ」

「つっかかるなよ。別に、おまえと話してるつもりは無いから」


 辛辣! そばにいる私も、一瞬寒さを感じました。


「白鷹何してんだよ。って、あ、夏生先輩じゃないですか!」「マジだ! 夏生先輩だ」

 そこに、凛聖の制服を着たお坊ちゃま方がわらわらと集まって来ました。白鷹睦月を見た後だと、彼らが天使のように見えます。ま、歳は一つしか変わりませんが。トラッドな制服マジックです。

 夏生ちゃんは辛うじて笑みを浮かべました。

 

「……ええと……久しぶり。葉月を見に来たの?」

「そうです。白鷹が、……睦月が教えてくれたんですけどね。葉月先輩って聞いたらもう、行くしかないですよ」

「そう、俺らのアイドル!」

「模試なんか受けてる場合じゃないです」


 こらこらこら、それは違うと思うぜ。

 なるほど、中高一貫校だから、先輩とも馴染みが深いってわけですね。しかも、話題は葉月さんです。どんな場所にいても顔が広いに決まっています。


「でも、こんな所で夏生先輩に会えるなんて、ラッキーです!」

「だって、お前、『葉月有る所に夏生有り、逆も又然り』だろ。今でもそうなんですね?」


 なんです、その格言みたいな素敵な言葉は。高校生たちは、理知的な顔を輝かせて夏生ちゃんに詰め寄ります。


「来てくれてありがとうって、葉月も喜ぶよ。帰ったら、君らが見にきてたことも伝えるし……、」


 彼らはパタパタと頭を垂れます。


「じゃ、行こうぜ白鷹。お友達いらっしゃるだろ、邪魔になっちゃうぜ」彼らの中の一人が、むんずと白鷹睦月の腕を掴みます。彼は腕を振り切ろうとぶんぶんと上下させますが、離してくれない様子。


「黙れよ、俺はコイツに言いたいことがあるんだよ!」


 哀れ、白鷹睦月はずるずると引っ張られていきました。そのざまを、疎ましそうに夏生ちゃんは見ていました。


「甘川もあの生意気野郎と同じ宿で苦労しただろう」

「ええ、そりゃあ。まつげ全部抜いてやろうと何度思ったことか。……ところで、夏生ちゃんにしては珍しく刺々しい態度でしたね」

「……俺、あいつ嫌いだから」


 ぶっきら棒にそう言う夏生ちゃんは、いつに無く厳しい表情で前を向いていました。「そうですね」と私も返し、ステージに目を向けました。


 ファッションショーはいよいよ始まります。イベントステージ付近の照明は紫色になって段々と落ちていきます。それに伴い、会場も静かに、かつ、興奮がじわりじわりとせりあがってきます。

 ――その瞬間でした。私を0,5日(『普通だ』という意見は却下する所存です)食事不可にした言葉を夏生ちゃんは発します。



「……甘川、俺と付き合ってみる?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ