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乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
第四章
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お土産選びは旅の苦労

 長かった京都の旅もあっという間に終わってしまいました。姐さんたちは、涙ながらのハグをして別れを惜しんでくださり、瞳ちゃんも涙でぐずぐずになっていました。


「ミヤ姐、サキ姐、身体には気をつけてね……、」

「ああ、あんたらも気をつけなよ」


 タンクトップのミヤ姐は闊達に笑って私たちの肩を叩きました。


「君らおらんようなるとさみしなるなぁ。また()いやぁ~?」


 結局、彼は「正体不明の店番」のままでした。彼の実態はようとして知れません。


「ヒメ、カワ、元気でな」


 スズは、相方の白鷹睦月が居なくなって少し寂しそうです。それでも、彼が居なくなったおかげでしょうか、前に比べて友好的になってくれたのです。彼は少し声を潜めて私を傍に寄らせます。「な。カワ。ちょっと」


「……シロなぁ、よう分からんけど、テッペンになりとうても成れん、言うてしょぼくれとったんじゃ」


 彼はしばしためた後、言いにくそうに切り出しました。彼が伝えてきた事実に驚いたのは言うまでもありません。睦月少年は跡取りになるんじゃなかったのでしょうか。


「詳しいこたぁ知らん。なぁ、お前に突っかかったんも許したってな。あいつ、歳の割りにガキじゃけん、」


 そういう君は、若いくせに老成……いや、何も言うまい。私は、隠しきれない嬉しさを押し留めて、今は白鷹睦月のために哀れみます。

 いつまでも店先でみんなは手を振っていてくれました。ちょっと驚きの出会いはあったものの、収穫上々の旅でした。

 ――白鷹睦月は養子候補ではない? ということは、白鷹兄弟は跡取りとしてまだ期待されているということでしょうか。



 無事に新宵浜に着くと、なんとなくほっとしました。この潮っぽい空気。此処はまだ海には遠いけど、私には感じます。

 迎えに来ていた瞳ママの車で、私も送って頂きました。非常に素敵なママさんでした。瞳ちゃんの、「ねぇママ、」発言には爆笑しそうになりましたが、寸でのところで押し留めました。まぁ、荊木学院時代の同級生はみんな「ママ」と言っていたし、笑うことではありませんが。瞳ちゃんが言うからオカシイのです。『馬鹿親父』に対して『ママ』ってあんまりです。

 それからの数日は、お宮参り……イヤイヤ……お土産配りに没頭しました。

 母には、蕎麦ぼうろと抹茶プリン。質素なものです。「まぁぁ、可愛いプリン」

 敬之兄さんには頼まれていた、京都発のデニムブランドのデニムと桜茶。「いい子だ穣。お使いが出来たね」

 夢野さんには木苺の生八橋。「おや、木苺ですね。好きです。有り難う御座います」

 千堂の分は瞳ちゃんに任せてあります。あの二人がこっそり仲がいいのが気に食わないです。

 さて、最期は葉月さんと夏生ちゃんです。夏生ちゃんは、「おいで。葉月は家空けちゃったけど」と言って呼んでくださいました。





 夏生ちゃんは、先日パーリーで会った時と同じように、どことなく沈んだ様子で私を招き入れてくださいました。

 私は勝手に合点しました。なんだかんだ言って、殿宮時雨の奴、夏生ちゃんに白状したんじゃないか? と疑いつつも、『男の約束』なので知らん振りを決め込みました。そんなことより、悲しいと言ってくれたなら、いくらでも君を慰めるのに、夏生ちゃん。

『イイノネコーヒー』の深煎り珈琲豆を渡すと、ちょっと目を輝かせました。夏生ちゃんは、ミルで珈琲豆を挽くと、ゆっくりと珈琲を淹れてくれます。お湯を含んだ粉がぷうう、とこんもり膨らんでいく様は可愛らしいです。それと同時に、お腹が空くような香ばしい深煎り珈琲の香りが居間に充満します。そうっと、細口からお湯を継ぎ足す手付きには惚れ惚れします。ああ、珈琲屋で働いたらあなたは絶対モテるのでしょうね。


「夏生ちゃんは珈琲が好きなんですね。随分愛おしそうに淹れています」

「うん。なんか、落ち着く」

「深煎りが好きなんですか」

「ん。葉月は砂糖とミルク入りじゃないと駄目だから、香りと味が負けないように深煎り」

「折衷案ですか。仲良しですね」

「あ、嘘。なんとなく今回は深煎りが良かっただけ」


 もこもことふくらむ粉を見下ろしながら、夏生ちゃんはあっさりと白状します。


「夏生ちゃんは時々微妙な嘘を言いますね」

「はは。意味無いやつね」


 やっと笑ってくれました。やっぱり、王子様の微笑みです。

 そして、次の一言で、彼は私を数日間アホの子にしたのです。(『いつもだ阿呆だ』という意見は却下する所存です。)


「ね、甘川。葉月たちのファッションショー、一緒に行かない?」



もちろん、イイノネコーヒーは架空です^^

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