女豹というか女獅子
さて、時間は少々進みます。
夕日がほほを照らすなか、イキイキして喋る瞳ちゃん。
「私は、男の子とだけ、一緒にいたいの」
ナツキちゃんはげんなりとして、手に持ったコーヒーカップを滑らせそうです。
私は、本当は、瞳ちゃんのことなんか話したくないんです。
私は、ナツキちゃんについて話したいのです。
小さい顔に、形のいい頭。ナチュラルにさらりとした豊かなヘアスタイル。すべすべお肌に、バランスよく具が乗った、凛々しげな顔……。ああ、なんて格好良く、かつ可愛いのでしょう。
でも、姫草瞳嬢のワガママ思考回路を話さないことには、先へ進めません。
半日で「私の自慢の友人」の座から「カマトト女」へと滑り落ちたオカシな子。かくいう私も、彼女の「素敵な男友達」から「変態男装女」に成り下がったわけですが。まあ、ソレはいいでしょう。
瞳ちゃんは、どうして我々を友人として認めたのでしょうか。
ちょっと時間を巻き戻しながら、話しましょう。
◇
本日のスケジュールが終わって、私たちは学校から開放されました。
謎にまみれたまま帰宅するには、あんまりにも目覚めが悪いので、三人でお茶会という名の親睦会を催しました。
大学の西門を出て、最寄駅に向かう道路沿いにコーヒーチェーン店を見つけて入りました。店内は、大学一年生らしき人たちが和気藹々(わきあいあい)です。
瞳ちゃんを先頭に、注文に並びます。レジのお兄さんも、素敵です。黒髪に緑のエプロンがよくお似合い。
「どれにしよぉー。何がいいかなぁ」
「気色悪いしゃべり方しないでくださイタッ!」
足踏んだよこの女狐! 水面下でのイジワル!
私はこそっと夏生ちゃんに寄り添いました。
「今の見ました、ナツキちゃん? 彼女、私の足こっそり踏みましたよ」
「見た。あんまり刺激してやるな」
「ねぇ、二人は何にするの?」
急に振り向くのでビクッ! としてしまいました。
そんなこんなで、まったり、とは言いがたい雰囲気でお茶をはじめました。そんな折、瞳ちゃんが上記の「男と一緒にいたい」宣言をしたのです。
「大学生になったら、男の子としか友好関係は持たない、って決めてたの。昔から色々あったんだから。ホラ、あたしビックリするほど可愛いでしょう?」
と、困った顔でほざくのです。あなたの場合、冗談じゃなくて本気だからタチが悪い。
確かに私も、今日の午前中まではかわいいと思ってましたよ。
「だから、周りに集まってくる女子の友達って、計算高いっていうか、女豹っていうか……」
失笑です。貴女それ自己紹介ですか。
そして、「まあ、他にもいろいろあってさあ」と、言葉を濁すのです。「いろいろ」の中身は、言わずとも知れましょう。世間一般、色事の悩みは共通しているもんですよ。わざわざ彼女の濁した言葉の真意をかっさばく必要なんざありません。
「女なんて信用できないのよ。だから、入学式で隣に座った男、……ユズルと仲良くなろうと思ったの。男の子なら、可愛くしてれば可愛がってくれるもん」
ここで、黙っていたナツキちゃんが口を開きます。
「君も面倒くさい人だね。女の子がみんなそういう子ってわけじゃないし、男もそんなに甘くない。それになんて言うか……、男と女は、女の子同士みたいにべったりしないもんだったけど。少なくとも、俺のまわりの場合では」
「あたしだってそう思うわ。結局、男はいくつになっても男どうしてバカやる生き物だってね」そういって、カップを両手で握り締めます。「男の子には、放って置かれて寂しい思いをするのは覚悟してた。でも、ユズルは女だった」
瞳ちゃんは何かを確かめるように頷きます。
「女の子なら、一緒にいてくれるでしょう? そして、ナツキをめぐってあたし達が取り合うなんてしない」
「ええ、瞳ちゃんにナツキちゃんは渡すつもりはないですから」
「こんなモヤシっ子、いらないって言ってるでしょ」
夏生ちゃんの顔に、ぐっと厭な笑みが張り付きます。
「……ほんと失礼だよね。甘川さんの支配下に甘んじるつもりもないし」
「甘川さん、じゃなくて、穣って呼んでください」
瞳ちゃんは不機嫌そうにたたん、と机を指でたたきます。話題を元に戻せ、のサインです。
「呼び方なんてお互い好きにすればいいじゃない。……とにかく、ユズルはさ、たぶん、この二日間、男としてじゃなくて、女としてアタシに優しくしてくれたみたい。そんな変な奴だからこそ、まともに友達になれそうな気がしたの」
クサイことを述べた瞳ちゃんは、クリームたっぷりの飲み物をずずずとすすりました。
顔はあっち見てるけど、絶対、ほっぺ赤いだろうな、と考えて、私はにやけます。
ナツキちゃんも、なにやらはにかんだ顔で微笑んでいます。……ああ可愛い。あっちの継母よりも断然可愛い。
とか言って。瞳ちゃん、本当は普通に女の子の友達が欲しかったんじゃないんですか?
「……もういいよ」ナツキちゃんがふとため息をつきました。「いろいろ考えるからややこしくなる。もうここまできたら、俺たちは友達だろう」
ふと見せた、その懐の深さ。男前じゃあありませんか。
彼は、はた、と顔を上げました。
「でも、甘川が男装を続ける意味は無いだろ」
「いやいや、ナツキちゃん、コレは私の修行と言うか、決め事と言うか。ここは譲れないわけでして」
しかし、瞳ちゃんは動じずに言いました。
「もちろん、ユズルはそのままよ。だって、美男子二人を引き連れてるかわゆーい女の子、って注目の的じゃない」
夏生ちゃんと私、二人そろいで怪訝な顔になりました。姫草嬢が一体なにを言っているのかちょっとよくわからないのですもの。いやむしろ、わかる気がするからこそ、何も言えなくなるのです。呆れて。
「それから、二人の男友達はアタシの男友達でもある。積もり積もって、逆ハーレム。素敵でしょ?」
まだ何かごにょごにょ言ってる瞳ちゃんの言葉は、耳がキャッチしてくれません。最低の人食い乙女です。いやいや、この娘に乙女の称号なんて与えたくもありません。
我々は、この女豹もとい、女獅子を、言葉無く怯えるしか出来ませんでした。




