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乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
第四章
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パーティープランは『桜絨毯』にお任せ!

「では~! 白鷹兄弟の誕生を祝ってェ~……乾杯!」


 乾杯なのです。夏休みでなのす! 我々は無事にテスト期間を乗り切り、(実は結構前から)夏休みを迎えることが出来ました。

 二人の誕生日である8月5日と10日の間を取って、8月7日に『夏生・葉月誕生パーティー』を開催することにしました。いやぁ、お友達の誕生パーティーなんていつぶりでしょうか……。と言っても、数ヶ月前まで所属していた荊木グループ時代は、お嬢様が多いものでしたから、幾度と無くパーティーに御呼ばれしたものです。

 今回は、千堂のアルバイト先の『桜絨毯』にて、パーティープランを組んでもらうことにしました。夏生ちゃん、葉月さん以外に、姫草嬢、そして私が来ることになっていました。千堂は労働しているなか、私たちは悠々と食事って訳です……へへ。いやいや、これは千堂の提案したプランだから、私の意地悪ではありません! ……と、思っていたのですが、千堂は何故かエプロンを着て、仕事着のまま、私たちの座敷に上がりこんで、しかも音頭をとっています。

 そう、先程の『乾杯』は奴の掛け声です。


「なんで貴方がここで酒を飲んでいるんですか!」


 彼はグラスを机に戻し、こちらを向きました。


「ん? 店長がよぉ、そういうことなら上がってもいいぜ、って」


 オイ、てんちょおおおおお! なにしてくれとるんですか。働かせろ、こいつろ馬車馬のように働かせろおおお!


「いいじゃないの。義也が居たほうが楽しいわよ」


 そうやってすぐ、瞳ちゃんは千堂をかばいます。なんなんですか。この二人の微妙な親交が腹立たしいです。しかし、「いっぱいいてくれて何よりだよ」と葉月さんが、和みの笑顔でいいます。葉月さんが喜ぶなら、まあ、……いいんですけどね。

「……ありがとう」夏生ちゃんはいつもと変わらぬローテンションで、でも感謝の気持ちを表します。

 私は、あの日(殿宮時雨との対面)からまともに言葉を交わしていません。(四日の日は、殆ど兄さんが喋っていましたから)なんとなくナーバスになり、いつものように話せるか不安です。その上、夏生ちゃんはふさぎこんでいるようで、話しかけづらいオーラが漂っています。

 見つめていると、彼の口がひゅっと開いたので、ドキッとさせられました。


「……あのさ、俺たちのおめでたいのに重ねて、おめでたい報告がもう一つ。ええと。ご存知のように、俺のバイト先の、ケーキ屋がリニューアルすることになりました。それと共に、パティシエの元春さんと従業員の桃子さんが9月に結婚することに」

「よかったわね。と言うか、あんた意外と根性あるんじゃないの」


 瞳ちゃんはいつだって上から目線です。夏生ちゃんも、負けじと胸を張りました。


「……当然」


 すこし、たくましくなりましたか?


 そんなことで、宴は楽しく進んでいき、私はどうやらいつものペースを取り戻しました。確かに、千堂が居てよかったです。彼の阿呆さ加減は、人を救うのです。それでも、夏生ちゃんだけは、いつもと違い、努めて終始穏やかな笑みのままで固まっていました。





 その帰り道のことです。私は瞳ちゃんと歩いていました。

 男子諸君は、いまからスーパー銭湯で裸の付き合いをしてくるそうです。羨ましいもんだ。酒の入った身体で、おぼれないことを祈ります。


「ねぇ、穣、アタシと京都に旅行しない?」


 急に彼女は切り出すのです。悪くはない、と言ってやると、「じゃ、決まりね! どうせ、バイトは自由が利くんでしょ?」と、パンフレットをずい、と差し出しました。

 そこには、シャランラ~と効果音が聞こえてきそうな白くて綺麗な部屋の写真が。風呂には薔薇の花びらが散っていますが、なんの少女マンガですか?

 その隣の料金表が目に飛び込み、戦慄しました。


「……これ、高級ホテルじゃないですか」

「そうだけど?」

 

 うおお! 実にあっさりとした回答です!


「本当は、予約困難な旅館が良かったんだけどね~。やっぱり、なかなか予約なんて取れりゃしない。だからかなり前に勝手にホテルの方予約しちゃった」

「勝手にってちょっと、一体いくらです。私の経済事情は配慮ナシなんだ」


 私の必死の訴えを、ちょっと眉毛を下げただけでいなしてしまいます。


「馬鹿ねえ。せっかくの旅行よ? どうせ貯金溜め込んでるんでしょ、使いなさいよこんな時こそ」

「駄目ですよ! バイト代は車の免許取得のために貯めているんですから。あなたのうちと違って、我が家はカツカツなんですよ!」

「免許のためのお金なんて……そんなの親に出してもらいなさいよ」


 この子はもうー! 頼れば親が助けてくれると思ってからに。誰も彼もが、姫草家や白鷹家と同じような経済状況だと思ったら大間違いです。馬鹿娘ですか! 


「ああ決めました。ホテルはキャンセルです。私が学生にふさわしい宿をとってやんよ!」

「やだ! ほら、エステもあるし、ルームサービスも充実だし、女に優しい宿よ。……どう、魅力的じゃない?」


 そんな魅力を語られても、不動の状況があるんです。たまには泥臭いものを知るがいいわ!

 

 ……いやいやしかし、マジメに語って、彼女も不遇です。というか、阿呆です。

 大学なんて、彼女の価値観に見合った方……お洒落好きで流行りもの好き、セレブ志向な女学生は掃いて捨てるほどいます。にもかかわらず、彼女はその輪に加わることなく、私や夏生ちゃんのような変人に組しています。普通の女の子と一緒にいれば、旅行の際に高級ホテルに泊まることも可能ですし、彼女の進学の目的である「男漁り」に適合する、合コンにもいくらでも参加できます。

 それらを断念してでも、彼女は他に友人を作りません。それほどまでに、彼女は女の子を信用しないのでしょうか。それほどまでに、彼女がかつて出会ってきた女の子たちは、醜いものだったのでしょうか。

 時々、私はこうして瞳ちゃんの過去を邪推します。

 ――でも、そんなことどうでもいいです。瞳ちゃんは瞳ちゃんです。生意気で男好き、そして可愛いのです。……絶対言ってやらんけどな!


 何とか説き伏せて、私が見つけたバックパッカー御用達の宿で滞在することになりました。

 繁華街から外れて、不便なところですが、近くには銭湯やレンタル自転車屋があって便利そうです。なんだか楽しみになってきました。

 え? どうやってお嬢様をそんな宿で納得させたかって?

「同じ屋根の下、かっこよくてタフなバックパッカーと仲良くなれるかもよ」って言ったらイチコロでした。ちょろいちょろい。


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