八月は兄弟の誕生日。
「……とういうことなんです……。兄さんになら話しても良いですよね? モチロン内緒ですよ?」
「ああ。俺は誰にも言わないよ。そうか……夏生くんがねぇ……」
敬之兄さんは、フカフカした羽根のハタキを教鞭のように持って小さくため息をつきます。キッチリと着こなしたイギリス製のポロシャツがどうしようもなく似合うのです。
私はまたもや、三日月商店の敬之兄さんの元で精神の健康向上を図っていました。
白鷹兄弟の叔父、殿宮時雨との対峙のあと、私は魂が抜けたように帰宅しました。ええ。恐ろしい人間でした。
葉月さんにも、私があの男と会話したことは言わないでおきました。葉月さんも葉月さんで、私は本当に通りかかっただけだと思っているようなので、何も言いません。
いささか私はショックが強かったので、「テスト勉強をする」という名目で、ここ最近、夏生ちゃんとも会える昼休みの集合にも参加していません。私の心はグラグラしたまま、学校は試験期間に突入しました。
そう考えれば、あれからまともにみんなと顔を合わせていないなぁ。
「何かただならぬ因縁があるようだね、あのお家には。穣、頭を突っ込んじゃあいけないよ。そっと見ててあげなさい」
殿宮時雨が結婚すると、夏生ちゃんと結ばれることは無いのです。そうです。そのほうが私にとっても都合がいいのかもしれません。でも、それでいいのでしょうか。私は思ったはずです。
友達でもいい、と。
浅ましい私の奥底は、未だ彼の特別な場所を願っているとでも言うのでしょうか。
「ま・それじゃ、コレ、見なさい!」
兄さんは、急に明るい声を出し、赤いベロアのカーテンをジャーンっと豪快にめくりました。そこには、きらきらと光るように上等なスーツとスラックスが掛かっています。なんですかこれ!
「穣。夏生くん、もうすぐ誕生日だぞ? 俺と月川さんから、プレゼント。いつもご贔屓してもらってるし、なにより穣のお友達だからねぇ。……まあ、本当は高いのかもしれないけど、我々の経路ではお手ごろだったのだよ!」
「あ、そうか、夏ですものね! いつですか?」
「ええと、確か……」兄さんは、金色装丁の顧客名簿をぺらぺら捲っています。
「……それ、外商用ファイルでは……?」
「だって夏生くんてば、あの白鷹の御子息だそうじゃないか。……念のため、ね」
ばっちりとウィンクしてみせる兄さんは、抜かり無いです。
「ああ、8月5日だ。穣はどうするんだ?」
「兄さんがスーツなら、タイかタイピンにしようかしら」
「いいじゃないか。これに合うのを都内に出て一緒に探してみようか。お休みを貰ってみるよ。穣はテスト終わったら暇だろう? よし決まり!」
私が返事をする前に、膝を打って明るい笑顔を振りまきます。兄さんは、優しいです。そんなふうに、私の落ち込みを励まそうとしてくれるのです。そして、ぐしゃぐしゃと私の髪をかき混ぜます。
「おや、伸びたね、髪」
「あとで葉月さんに切ってもらうのです。これで最近は美容室いらずです」
「夏生くんのお兄さんだね? 彼も確か誕生日が近くて……うん。8月10日だ」
……だから何故控えているんですか。
夏生ちゃんの誕生日前日つまり4日に、私と兄さんは、白鷹兄弟の家へお邪魔しました。
葉月さんは家を空けていて居ませんでした。が、私に対しては迷惑そうに、敬之兄さんに対しては嬉しそうに接する、そんな夏生ちゃんは見ていて面白かったのです。




