自称お姫様
これが三すくみと言うやつでしょうか。
王子的な男子学生の右腕を私が、左腕を瞳ちゃんが引っ張ります。逃げ出そうとしていた彼は動けず、無気力にゆらゆら左右に揺らされます。
「貴方、私に一目惚れをしたと言いましたね。私の姿が貴方の心を打ったということです。この際、性別は関係ありません。貴方が男性であろうが私は気にしません!」
アレ。
私の言っていること、なんかおかしいぞ。
普通に気にする必要なくない?
「アンタ……場を混乱させるだけさせといて退散しようって、どういう事よ。私をおいて逃げるっての?」
ホラー映画の特殊効果が効いたような、すら恐ろしい表情で、瞳ちゃんは彼に囁きます。
「このわけ分からん変態女と二人っきりにさせないでよ!」
ひどい言われようです、私。あっというまに、親友予備軍から「わけわからん変態女」に格下げです。ベンチ入りどころか、戦力外通知です。
しかし、私の王子様はひたすら目を合わせないようにと、顔を背けてげんなりしています。
「ごめんなさい。もう、帰してください」
「「駄目!」」
私と瞳ちゃんは、くわっと二人してハモるのです。不本意ながら。
「俺、本当はこういうことする人間じゃないんです。ちょっと平常じゃなかったんです」
「恥じることはありません。告白とは勇気ある行動で、称えられてしかるべきです」
「あんたの事情は聞いてない。とにかく収拾つけるのに協力しなさいよ」
この女狐め……。黙って聞いていれば、先から脇からぴいぴいと。好き勝手言いおって。そういう自分こそ、猫かぶりではないですか! だまされたのはこっちだと言いたいですよ。
「とりあえず、……その……昼時なんで、食堂行きたいです」
「それなら問題ないです。お弁当を用意してあります。たんまりと。一緒に食べたまえ」
退路を封じられた彼は、絶望的な表情で机上を眺めます。我々が着席していた席には、女の子らしい風呂敷に包まれた弁当が鎮座しているのです。そうです、女狐が作ったお弁当です。
お弁当に罪はないのです、食されてしかるべきです。
◇
結局、彼は私たちに引きずられるようにして席に着きました。ふんぞり返った瞳ちゃんと、花を飛ばしてる私に挟まれて戸惑っています。瞳ちゃんは完全に乙女を捨てていました。
あの可愛らしさが演技だったことが恐怖です。共学って怖い。
「さあ、王子。遠慮なさらずに食べてください」
「何その王子って……。白鷹夏生っていう名前があるから」
瞳ちゃんは、目の端で私たちを捕らえ、小憎たらしく、フン、と鼻を鳴らしました。
「あたしは、姫草瞳。姫草だから、姫と呼びなさい」
私の従兄は言っておりました。「私」を「あたし」と発音する女と、「姫」というあだ名で呼ばれて平気な顔をしている女には注意しろ、と。この人の場合、「姫と呼べ」とせがんでますから、たちの悪さは十倍増しと見たほうがいいでしょう。さっそく、従兄の警告が役に立ちそうです。
「……初対面では、『好きに呼んでね』って言ってたくせに」
「う~る~さ~い~」
文句を言った私に対して、親指を私のほっぺにぐりぐりねじ込みます。いたたたた。ネイル、ネイル刺さるよ! 人差し指じゃないところに憎悪を感じます。
「白鷹君のことは、なんと呼べばいいですか?」
「俺のことは、構わないでください」
「じゃあ、ナツキって呼ぶ」と、瞳ちゃん。
「じゃぁ、私は王子と呼ばせていただきます」
「だから、白鷹夏生だって。どうしてそうなるんだよ」
彼はうんざりした様子で、卵焼きを口に運びました。瞬間、ぱっとうれしそうに瞳が輝きました。おいしいのでしょうか?
「では、百歩譲ってナツキちゃんとお呼びします」
「すべてを譲ってこれから俺を無視してほしい」
「……ってゆうか何でユズルは男の格好してるわけ?」
瞳ちゃんが首を突き出して私に聞きました。
まさか貴女、ほんと~に私を男だと思ってずっと接してたのでしょうか。笑っちゃいます。
「あなた本当に私を男性だと思ってたんですか。声とか仕草とか様子で分かるでしょう。普通、男子は『私』って自分を呼びません」
「ウチの馬鹿親父は『ワタシ』って言ってるの」
親父は男子の範囲に入りませんよ。私の見解では。
「確かに、近づけば女だってすぐ分かるのに。どうして俺は……、」
彼、白鷹君も今度はじいっと私を見ました。陶器のようなすべすべお肌。フルーツ風呂にでも入ってるのかしら。
男装のおかげで貴方と出会えたというのなら、それこそ私の本望です。私の乙女オーラは男性の装束に身を包もうと溢れてしまうものと諦めていましたが。
ああ、ならば瞳ちゃんは、私を男性だと決めてかかった上で接近してきたということであります。
つまりです。
「悪いのは私だったんでしょうね。認めたくありませんが。瞳ちゃん、勘違いさせてしまってごめんなさい。格好良い私に惚れてしまったということですか?」
「違う」
かっと叫んだかと思うと、興ざめしたような三白眼になって背もたれに上半身を預けます。
「あーあ、キャンパスライフのスタートでしくじるとはね。台無し。友達作り直さなきゃ」
「どうして。もう友達じゃないですか、我々は」
「お断りよぉ、こんな変な女」
「そんなつれないことを申しなさるな。今ならこの白鷹氏とセットです」
へろへろとした彼を腕に抱えると、ものっすごく厭そうな顔をします。
「一緒にしないでくれる」
そんな温度差甚だしい我々を冷めた目で見ていた瞳ちゃんが、ふと、「いいよ」と呟きました。何に対しての、「いいよ」でしょうか。
「だから。あんたたちの友達になってあげるって言ってんの」
場は静まり返りました。私としては、「なってあげる」というもったいぶった言い方をされなくとも、もう友人のつもりなのですが。
しかし、白鷹君は違うようです。胡散臭い顔のまま、首を横に振ります。
「俺は別に、きみたちとは友達にならなくても……」
無駄口を叩く王子の口を封じました。
お気持ちはわからないでもないです。確かに腹の立つ言い方をされましたが、話は単純ではないですか。友情を結びましょう、という、ありふれたもの。
なんでしょう、この気持ちは。
瞳ちゃんが話しかけてきてくれてなかったら、私は今、きっと一人です。ぶりっ子だって、バイオレンスだって、面白いから友達は瞳ちゃんがいいです。そう思ったのです。
「友達になってあげげる。その代わり、」ビシリ、と彼女は人差し指を私につきたてます。「ユズルは男装をし続けること。するからには、乙女くさい行為はやめなさい」と、そのまま指を王子に向けます。「アンタも私たちのお友達になりなさい。嫌って言うなら、アンタが好きになった男にちょっかい出して邪魔してやるから。……四年間ずっと」
私の腕の中でちょっぴり王子の体温が下がった気がしました。堂々と告白してみせたわりに、意外とへたれ王子で可愛いです。我々が情けない返事をすると、彼女は嬉しそうに楽しそうに腕を組みます。
「これからよろしくね」
不敵に微笑むこの人は、絶対お姫様なんかじゃありません。邪悪な継母そのものです。毒りんごとか、平気でこしらえてしまいそうです。




