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乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
第三章
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独白、重かった気持ち。

「今日はロールケーキとプリンですか」

 

 私は、足で部屋のドアを開けます。夏生ちゃんも起きていて、ローテーブルについています。


「甘川んち遊びに行くって言ったら、マダムがロールケーキ持たせてくれた」

「桃子さん、ニコニコしてたね~」


 私が座ろうとすると、葉月さんはこぼれそうなジュースをお盆から机の上に移動させてくれました。


「嫌がらせは終わったんですか」

「探偵っぽい変な人が店に来た次の日から、何も言わなくなったし、されなくなった」


 探偵さんですか? 一座は一瞬、「ううん」と首を傾げる雰囲気になりました。


「まぁ、またちゃんと働けるようになってよかったじゃないか、夏生!」


 葉月さんは空気を換えるように声を張りました。私もなんとか次の話題を探します。といっても、目線は洋菓子なので必然的にその話へ。


「そうですね。さて、お二人はプリンが好きなんですか?」


 ヒットした模様。夏生ちゃんは、「葉月がね……」と、意味ありげな目線で見ています。


「違うでしょ! 夏生が甘すぎるのが駄目だからプリンにしたんでしょ」


 なぜか、赤くなった葉月さんは夏生ちゃんに食って掛かります。


「あのね、甘川、こいつ、恋人できたんだよ」


 こいつ、と指先をは葉月さんに向けています。というか、恋人ですか、本当ですか!

 勝手に言わないでと葉月さんは怒りましたが、夏生ちゃんも夏生ちゃんで、ちょっとぶすっとしました。


「お前だって俺のこと、何かとバラしてるだろ。バイト先のゴタゴタだってお前が勝手に……、」


 確かに、夏生ちゃんの恋路も葉月さんから聞きましたが。お互い様って事で、いいじゃないですか。なにより、めでたいことです。しかし、みんなには言わないでねときっとした顔をするのです。


「何中学生みたいなこと言ってるんだよ」

「だって……僕、恋してるんだよ。恥ずかしいよ」


 私と夏生ちゃんは、言葉を失って葉月さんを呆けて見てしまいました。なんて無垢な言い分でしょう。

 葉月さんは、真っ赤な顔のまま、切り分けられたロールケーキにズブリとフォークを付きたて、ぺろりと食べてしまいました。そのまま、弟のロールケーキにも手を付けます。


「葉月はもしかして初恋?」

「……まひゃか!」


 食べながら否定します。喉元がこくりと上下して、すっきりしてから再び口を開きます。


「でも、付き合うのは初めてだよ」


 夏生ちゃんはその言葉を補足します。


「遊んではいたけどな。そうそう、葉月の恋人がプリン好きなんだよ。だから最近プリン率が高くてさあ。その葉月の彼氏、甘川も知ってるはずだよ」


 私も知ってて、かつ夏生ちゃんも知ってる。そして葉月さんも。三人の共通の男とは……!


「まさか、せんど……」

「違うだろ」


 夏生ちゃんがピシャリと突っ込みました。


「覚えてない? 姫草と千堂のデートの時、甘川をナンパした高校生。中川愁一くんだって」


 紅茶を上品にすすり、夏生ちゃんは嬉しそうに目を細めて微笑みます。

 ビビッと、背の高く、清潔そうな高校生が目に浮かびました。そして、かつて、葉月さんと中央広場で寝転びながら語った時のことを思い出しました。


「あの夜、うっかり、ちょっと手を出しただけなのにさ、す、『好きだ』なんて言うんだから、困っちゃったよ」


 夏生ちゃんはニヤニヤします。ローテーブルの下で、葉月さんは夏生ちゃんをゲシゲシと激しく蹴っていました。葉月さんはああいった子がタイプだったんですね。わりと地味で特徴の無い……、


「愁一ってね、邦画のぱっとしない主人公みたいなんだよね」


 いわゆる地味メンです。ああ、地味に関して私は人のことを言えませんが。


「でもさ、映画見ているうちに、最初はしょうも無いのに、段々格好良く感じてくるでしょ? そんな感じの子。段々、格好良くなって、どんどん……」


 はっと、私たちを見て、真っ赤になって、葉月さんはそっぽを向きました。


「お、お手洗い行ってくる!」


 私と夏生ちゃんの生暖かい視線に耐えられなくなったのか、席を立ちました。私は、指だけでトイレの方を指し示しました。

 部屋に夏生ちゃんと二人きりになって、ふと、思いました。貴方も、その、好きな人を思うとき、あのように真っ赤になったりするのでしょうか。

 ああ、私はそのようにマジメに恥らうことなど出来ません。


「あの……、」

「なに?」

「襲っていいですか?」

「……殴るよ?」





「……僕が他の誰かを好きになるなんてなぁ」

 僕は、夏生がずっと、ずっと大事だった。どう言う名前をつけたらいいかわからないほどデカイ感情だった。簡単に、好きだとか恋だとか言えるものじゃない。

 守らなければいけない気がしたし、誰にも渡したくないような気持ちでもあって、とにかく苦しかった。時に憎くさえあった。

 でも、夏生は、時雨(しぐれ)さんを想い、時雨さんも、夏生をきっと同じように想ってる。

 それでも、時雨さんは何も語らない。僕の気持ちを、時雨さんは知っていたからなんだ。

 僕が夏生のことで何度突っかかっても、時雨さんは、はぐらかした。でも、ズルイ時雨さんを僕はもう許す。だから、夏生を迎えに来てほしい。

 僕は、好きな人が出来た。好きと言ってくれる人が出来た。

 だけど、愁一に深く溺れるのは夏生を救い出してからじゃないと駄目だ。

 時雨さんには、どうあっても夏生を受け止めてもらわなきゃ、駄目だ。

「ごめんね、穣。……僕は、夏生には幸せになってもらいたい……」



葉月と愁一のいきさつは、『少年地獄でサクラサク!』にて展開しております。

非公開仕様なので、このURLからお飛びください。→http://ncode.syosetu.com/n6450i/

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