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乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
第三章
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穣の昔話は長かった

「それに、言わせていただくと、私、モテモテでしたよ!」

「ああ。女子にな」

「今思い出しても、恥ずかしい日々…あれは私が中等部だった時のこと……」

「ああ。回想いらない。」


 二人は淡白すぎます、はんぺんより淡白です。それでも半ば強引に回想をさせていただきます。



 荊木(いばらき)女学院グループは、実に厳格な規律で生徒を管理していました。

 当時、男性との出会いはほとんどありません。男女交際禁止の規則さえあったのです。しかし、思春期ですから、異性に興味を持つのは当然と言えましょう。一部のおませな生徒たちは、荊木グループの男子部、荊木男子中等・高等学校の殿方と交際を持っていたそうです。

 当然、その他大勢の慎みある女生徒たちは、欲を抑えて勉学・文化・スポーツに打ち込んだものです。昇華ってやつでしょうか。

 私もご多聞にもれず、その他大勢の中の一人で、主に読書に身を沈めていました。そこで、現実に出来ない恋愛を、本の中のヒロインに投影していたのです。同一化ってやつでしょうか。

 ――かくして私の王子様への異常な憧れは強まったのです。

 

 ところが。

 その私の乙女心、人は露知らず、です。

 私は、華奢でペッたらで、女性的な二次成長が顕著ではなく、少年のような外見は目立ってしまったのです。その私の当時のあだ名は「ユーリ」でした。何故か解りますか。

 名作として名高い昭和の少女マンガの主人公の南欧系黒髪美少年「ユリスモール」、彼の愛称「ユーリ」からとられたものです。お姫様を夢見る少女、甘川穣は、広々とした恋愛が出来ず鬱屈した女生徒たちによって、少年としてまつりあげられてしまったのです。置き換えってやつでしょうか。

 髪を肩より伸ばそうものならば、ファンクラブが署名をかき集めて切るよう懇願してきます。体育でジャージになろうものなら、カメラで撮られます。

「僕」という一人称を強要されたのも、当時からのことです。

「ユーリ」が委員長だから、という理由で委員長を押し付けられたりしたものです。

「オスカー」の座抗争も行われたものです。親友の地位って勝ち取るものなんですか?

 バレンタインデーともなれば、前後一週間は嵐のようなチョコレート戦線です。いや、ディスコとか可愛いもんじゃないですから。


 私は、こういった周りの扱いに、だんだんと耐え切れなくなってきました。

 ぷっつん、切れたときに、私は、考えが変わっていたのです。啓けた、と言った方がいいのです。

 そうです。今の私の考えが生まれたのは、そこからなのでした。合理化ってやつでしょうか。

 私は、少年として生きることで、逆に誰よりも乙女であるということです。誰よりも、王子様を理解する心がある、お姫様になる素質があると!

 ……まぁ、啓いてからの方がもっと酷く女子にモテたのは間違いありません。私のリボンタイ争奪戦の禍々しさは言葉では再現不可能です。


 乙女地獄。私の人生は、今も昔も、自他の乙女性に悩まされる、まさに乙女地獄です。



「とまぁ、こんな過去がありましてね……」


 と、ベッドの二人を振り向くと、お約束です。すやすや、うつぶせのまま夏生ちゃんは寝ていました。

葉月さんがその髪をさらさらと撫でています。


「穣は、そいういう女の子だったんだね」


 にっこりと私を見上げました。


「はい。それにしても、なんて可愛い寝顔なんでしょう。子犬のようです」

「寝ているときはね、可愛いんだけど。憎らしい口も聞かないし」


 葉月さんが兄らしい言葉をはじめて聞いたような気がします。微笑ましいことです。


 ケーキの準備ができたから運びなさぁい、という階下からの母の声に、私はピョンピョンと階段をおりて、マダムの店のケーキを運びに行きました。





 葉月は、夏生の後頭部にコツンと額を当てて、「穣が本当に男の子だったらね」と、呟いた。

「……いや。俺が女を好きになれたら、ね」と夏生は目を閉じたまま、掠れた声で言った。

  下の階で母子が話している声を遠くに聞きながら、葉月は、夏生の唇にそっと自分のそれを重ねた。

 夏生は押し飛ばすことも嫌がることもしなかった。その代わり、無意識に触れられた唇をなぞるように拭った。そして目をパチクリさせる。

「……はは。子供の頃以来だな、こんなの」

「今ので最後だよ」

 葉月は、にっこりと笑った。

「?」

 長い月日、自分を苦しめていた夏生への重く苦しい形容し難い感情が、淡雪のように柔らかい感情に変わっていくのを、葉月は感じていた。



夏生と葉月、犬猫のじゃれあいみたいなものなのです。

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