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乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
第三章
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甘川家へ堕天使兄弟がやってきた

 ブルーベルベットのマダムとの混戦期の間のことに戻りましょう。

 夢野さんが暗躍してる間にも、私たちは日常を過ごしていたのです。そんな、梅雨も終わろうとする、久しぶりに晴れた日のことです。

 華奢な兄弟が、甘川家のドアの前で並んで待っているところ、「ガチャリ」と我が家のドアが開かれます。極甘でほわほわの母が二人を出迎えました。


「まぁぁぁ、可愛い子たち。どっちが夏生くんで葉月くんかしら~?」

 

 そんな母のテンションに引きずられるように、三者はそれぞれ自己紹介的なことをしている声がきこえてきます。


「穣の言ってた通り、とっても可愛いご兄弟ね」

「先日は、美味しいお菓子をありがとうございます。ご馳走様でした」


 とのしっかりした声は夏生ちゃん。

 私は、トイレから飛び出して玄関へダッシュします。あ、その前に手は洗わないと。


「母! 二人に変なことは言ってませんね!?」

「あら、穣、上がっていただいたわ」


 玄関先で膝を突く母の前、靴を脱いで前かがみになっている夏生ちゃんと、一足先にあがった葉月さんがそこにいました。我々は、ほんのすこし改まってこんにちわと挨拶をします。


「……甘川、急いで挨拶に来てくれたのはいいけど、ズボンのチャックは閉めろよ……」


 呆れたような夏生ちゃんの指先が指し示したものは、私の緩みきった社会の窓でした。


「うふ。穣ッたら……」


 母よ、「うふ」の騒ぎではない。



 気を取り直して。

 そうです。

 今日は、葉月さんと夏生ちゃんが我が家に遊びに来る日でした。先日、母が作った洋菓子を白鷹兄弟の家に差し入れに行った時、お誘いしたのです。家に友達が遊びに来るなんて、幼い子どもになったような気持ちがするのです。

 夏生ちゃんは手土産を持参してくださいました。例のアルバイト先のケーキ屋、その青の箱を母に手渡します。(この頃はまだ、マダムの店です。)


「まぁ。夏生くん、ここで働いているの? 美味しいお店よね」


 母はとろけるように嬉しそうな顔を見せました。


「頂く前に、ちょっと仏前にあげさせてもらうわね」


 どうぞ、ときりりと返事したわりに、夏生ちゃんは「?」と疑問符を浮かべます。私は彼に言っていなかったでしょうか。甘川家の大黒柱はとうの昔に他界しているのです、と。

 母の設えた父の仏壇に捧げます。白鷹兄弟も、線香をあげに来ました。


「……甘川は父親が亡くなってたんだな」

「はい。ずいぶん昔ですが」


 夏生ちゃんは、父の遺影を見つめています。


「……あんまり似てないな」


 ぽつりと呟きました。


「そうですか? 僕は父に良く似ていると言われますが……、」

「あ、いや。……甘川に似てる知り合いがいるんだけど、でも、甘川には似ていても、お前の父さんには似てないな、って意味で。……余計なことだよな、変なこと言って悪い」


 隣に座っていた葉月さんが、ピョンと私に飛び掛ります。


「ねえ。僕、卒業アルバムとか見たいな」


 ……エッ。なかなか鋭い要求ですね。お決まりではありますが。覚悟は少ししていましたが。

 二人をマイルームへ招き入れました。二人は、迷い無く・遠慮無しにベッドにばふん、と腰掛け、きょろきょろ見渡していました。


「甘川の部屋って思ったよりシンプルだな」


 ベッドの縁をさすりながら夏生ちゃんは頬の内側を噛みました。ヒトの部屋について、どんな想像してたって言うんです。


「ピンクとかぷりぷりの部屋かな~って話してたんだよね」

「いや、葉月、彼女は乙女というより、お子様だよ」

「たしかにぃ」


 二人は顎に手を当てて、分析するような目線を突き刺してきます。ちょ、ちょっと二人とも。やめてください。大人の目で私を見るのはやめてください!

 二人は好き勝手に私の部屋を詮索しています。机をあけたり、ベッドの下を覗いたり、クローゼットを開けたり。……本当容赦ないです、この堕天使兄弟は。


「あったよ穣の卒アル!」


 葉月さんは禁断の書を発見してしまいます。それ、はっきり言って凶器ですよ。私にとっては、いまだ生傷ですよ。それを開けようと言うのですか。

 二人は、私のベッドに並んでうつぶせに寝転がって、まるで寝る前に絵本を読む子どものように卒業アルバムを掲げました。


「あ、あの、馬鹿にしてもいいので、無言で見るのやめません? て、開いてないじゃないですか」

「……穣」葉月さんが、アルバムに顔を向けたまま私を呼びます。「女子高だったの?」

「というか、小等部から女子校ですね。ほら、荊木女学院グループの」

「……冗談だろ」


 ……どういう意味ですか、夏生ちゃん。


「甘川さ、見た目が全然今と変わってないんですけど」


 夏生ちゃんは、目を細くして個人写真を見つめます。恥ずかしいですよ。昔の自分なんて恥ずかしくて見たくもないですから、そんなこと意識したことありません。


「僕ちょっとがっかりかも~。だって、こういう時普通は、『かつては可憐なモテモテ美少女でした~』ってオチがあるもんだよ?」

「葉月。それは失礼だから思ってても言っちゃ駄目」


 夏生ちゃん。貴方もばっちり失礼ですよ。聞こえてますからね?


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