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乙女地獄で桜咲けり!  作者: 黒檀
第二章
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千堂という男、取り扱い注意

※夏生一人称





 前言撤回させていただく。

 千堂(せんどう)義也(よしや)、この男、相当厄介な奴だった。今日もまた、俺たちにまとわりついてくる。といっても、別に俺は困っていなかったが、酷く迷惑がっている人間が一名、いた。その原因を作ったのが自分だと思うと少々心苦しい。


「ねぇ、瞳ちゃん、いいでしょ? ね? ね!?」

「い・や・で・す! 絶対イヤ!」


 そう、この男、まともな奴かと思ったら、姫草狙いの小悪党だった。どうも自分の観察眼は、男に対しては甘く働くらしい。いいやつそう、という俺の直感は外れだったのか。


「瞳ちゃん、電話番号くらいいいじゃないですか。この人、教えないといつまでも付きまといますよ?」


 甘川もいささかうんざり気味だ。甘川をうんざりさせるとはなかなかの厄介者だとわかってもらえたと思う。


「何言ってんのよ。個人情報だからね。教えたら、ノイローゼになるくらい電話かけてくるに決まってる!」

「毎日おはようとおやすみのコールしてあげるし」

「ほら! こういうこと言ってくる時点でもう無理。心の底から気持ち悪い」

「このひ弱そうな二人にはベタベタなのに、俺は駄目なの?」


 彼は、目標の姫草と話せるようになってからというもの、あからさまに俺と甘川には憎たらしい口をきくようになった。姫草も油断していて、こいつの正体を見破ることが出来ずにこの状態を引き起こしたことが屈辱なようだった。

 姫草としては、いつだって主導権は自分にあってほしいものなのだろう。男は

支配するもの。可愛がってもらうと言っていたけれど、彼女にとってそれはコントロールすることと同義だ。だから、自分の思い通りにならない阿呆犬のような奴はお断り。そういう認識でオッケー?


「ったく、何のために二人もボディーガードつけたと思ってるのよ」

「え、我々は瞳ちゃんのボディーガードだったんですか?」

「……そんなわけないだろ」


 守る気どころか、団体行動する気もないよ。でも、なんとなく一緒に居るのは事実だ。


「だから言ってるでしょ、瞳ちゃん。そんなモヤシじゃ駄目だって。体を守りたいなら、俺みたいな男をそばに置けってば」


 千堂は姫草の腰に手を置く。そういうことを平気でやってのける男らしい。うぶさは皆無だ。それがいいっていう子もどこかにはいるのだろうから、そのほうにむかえば良いものを。


「『体』とか気持ち悪い言い方しないでよね。第一、好みじゃないんだってば」


 パシンと小気味良い音を立てて手を叩き落とした。まるで蝿か蚊を殺すような感じで。

 意外にも、流行最先端を行く、「イマドキ大学生」は姫草の好みではないらしい。

 明るく染めた動きのある髪を、綺麗にスタイリングした様は、さながら美容室のモデルのようだ。全身に抜かりなく、男らしさとやらが溢れている。いかにも「雄」って感じの顔だ。女子には困っていないだろうに。あしらわれると落としたくなる、って手合いなのか。



 いつでもどこでも、暇さえあれば口説き落とそうとする千堂攻撃によって、姫草は余裕が無くなって、猫かぶりできなくなりつつあり、ボロが出始めていた。

 ま、それはそれで面白いので放って置く。だいたい、自分はこういった自分勝手人間に耐性があるのだ。時雨(しぐれ)といい、葉月(はづき)といい。俺は傍観者の立場を、貫かせていただく。


 ――が、やはりそれもうまくはいかないのだ。甘川がいたのでは、穏やかに過ごせるものも過ごせなくなる。


「では、こうしませんか?」

「んだよ地味男(ジミオ)


 黒髪で色白の甘川は、「地味男(ジミオ)」というあだ名が与えられた。ちなみに俺は、なぜか「お坊ちゃま」。


「瞳ちゃんは、千堂君がまとわりつくのがイヤなんですね? それでも、千堂君はどうしても瞳ちゃんとの仲を深めたいと」


 自ら頷いて納得する甘川。


「では、一度だけチャンスをあげて、デートしましょう」

「何でそうなるのよ」


 姫草は顔を歪める。


「ただし。その一度きりのチャンスで格上げが出来なかった千堂君は、男らしく、金輪際、瞳ちゃんへのアプローチは諦めること!」

「何でお前が仕切ってんだよ」


 千堂が醒めた目を見せる。


「不満ですか。『男らしさ』、一体君は君の平生の主張をどうするつもりですか」


 あ、なんか有名なセリフだ。

 しかし、千堂はしめたとばかりに大きくにやける。たしかに、男らしさをアピールして俺たちとの差別化を図っているんだ。見た目だけじゃないくて、行動でもそれを示してほしいもんだね。できれば、そのまましくじってお引取り願いたい。やかましいのは甘川だけで足りてるので。


「いい度胸だ地味男君よ……。願ったりだね」

「あたし、一回でもイヤだ……」


(当然のごとく)駄々をこねる姫草には、甘川が厳しくしつける。


「駄目です。拒絶してばっかりは千堂君に対してフェアじゃないです。むしろコイツに退場していただくチャンスじゃないですか!」

「余裕だねえ、地味男くん」

「やめてください、そのよくわからないライバル視。僕はこんな邪悪な女の子なんてこっちから願い下げですから」


 ふざけんな、と激昂した姫草と千堂は、息がぴったりだった。

 ……いや、まてよ。

 激昂した姫草にも引かないのだから、この千堂という男、なかなか見上げた面食いの鑑なのかもしれない。


「あとでほえ面かくなよ、女顔の用心棒ども」

「お前もな! バーカバーカ、ベーッだ!」


 本当に、甘川は端整な顔で変な表情ばかりする。性格と面構えの落差が激しいんだよなぁ……。





 そこまでは(ある程度)いいとして、何故か。俺と甘川で千堂たちのデートを尾行をすることになった。

 そのXデーの前日、作戦会議と銘打って、甘川が俺の家にやってきた。

 くだらないこの件の話は、まだつづく。





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