小さな恋と、大いなる恋の物語
私は乙女です。
誰かが乙女の名乗りをあげることを恥じる間にも、
この私は、「私は乙女である」と十回は言って差し上げましょう。
甘い夢見も、少女のごとき妄想も結構。
ですが、
乙女であることにかまけ、何もしないわけにはいきますまい。
「王子様が前に現れて、連れて行ってくれる」
誰もが夢見るこのシチュエーション。
でも、連れて行かれたあとはどうなるというんです。
ほんとうに知りたいのはそこなのに。
惨めな育ちのシンデレラが、
価値観の違いで捨てられやしないのか……!
美貌で王子をとりこにした白雪姫が、
飽きられたりしやしないのか……!
そんなもろい幸せならば、「いらないです」とお返しします。
結ばれた後こそずっとずっと、永遠に幸せでいたいのですから。
だから私は、ただ口をあけているわけには参りません。
だから私は、いっそのこと殿方になりましょう。
その決意を胸刻んで、私こと、甘川 穣はいよいよ大学生になります。
ああ、今度こそ、王子の何たるかを理解してみせるとも。
さすれば現れん、私の王子様。
そして心置きなく、私は姫になれることでしょう。
ただし、私は知ることになります。
世界は殿と姫とだけで回っているわけではなかったことを。
なんと、王子様が王子様に恋することもあり得るのです。
それでも私は暢気に恋に落ちるのです。
そんな私の恋物語。
さあ、今よりしばし語り手にお付き合いくださいませ!
これより始まる小さな恋の一部始終に、
昔々より抱かれた大いなる恋の終着点まで……