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架空世界-下腦-  作者: しかバトン
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春の東洋

1970年代の神華で革命が起きたifです。

朝、目覚めると、革命が始まっていた。

眠眼を擦りながら、夜間付けっ放しにしていたラジオ放送を聞く。

皇京で大規模な暴動が起きていると解説員が伝えた。

特段驚きもしなかったが、このお祭りに私も参加したい、と思った。会社はどうせ休みだろう。

午前七時半頃、私は稲井線の新橋行に乗った。混雑帯で電車内は満員だった。

いつもこの時間帯の乗客は皆通勤服か学生服を着ていたが、今日はそういう人を見かけない。

客達は騒いでいて、ラジオで話された内容を話し合っていた。

私は新橋の駅で降り、バス停留所にずらりと並んだ列の最後尾に立った。

そこで私は待っている間に周囲で騒がれている話を盗み聞きすることにした。

「左翼が暴動を起こしたんです?」

私の一つ前の列に立っている作業服を着た労働者風の若者が、その隣の中年男に聞くと、その人は、

「暴動じゃない。革命だよ。今の政府を倒して、もっと良い神華をつくらないと」

と言うのだ。

私は神華という言葉が心底嫌いで、癪に障ったので、

「もうウンザリだよ。神華なんて国は」

と、私はその二人の会話に割って入った。

すると、その中年男は、

「そう怒るなよ、君。国が変われば国の名前も変わるんじゃないか?」

と言って、私の肩をポンと叩いた。そういう問題じゃあないんだが。

そんなことを言っているうちに、向こうの方からバスが来て停留所に停まった。

そうすると並んでいた人達がバスに乗り込み、運転手を引き摺り降ろすと、別の人が運転してバスが進み出した。

「あのバスはどこに?」

さっきの中年男に聞くと、

「今、武治警(武装治安警察)とやり合っているから、その応援だよ」

と教えてくれた。

「えぇ?!武治警とですか。それは不味いんじゃ?」

と私が返すと、

「心配ない。武治警も、下等士官と兵卒は我らの味方で、同じ行動をしている。反抗しているのは幹部らで、今そいつらと撃ち合ってるんだよ」

と言った。

「わぁ、我らにも武器があるんです?」

と聞くと、

「もちろん。拳銃も機関銃も爆弾も、たくさんあるそうだ」

と言った。

「それなら安心ですね。しかし、どこからそんな武器を?」

と聞くと、

「各国が支援してくれたんだよ。トイティアや、靈榮や、天臺から。あと、共産党の方々からも」

「神華共産党?」

「そう」

私はこの革命が成功しようが失敗しようが、正直どうでも良かった。

成功したとしても、西洋かぶれの左華人(左翼の神華人)による新しい国が作られるだけだ。

私は神華という民族や文化そのものが大嫌いなので、武装戦線(東洋反神華武装戦線)の方々に頑張ってもらいたかった。

私は數駿の唱える反華撃滅論を支持していた。彼の下で悪魔の神華を滅ぼしたい人生だった。

そんなことを思っていると、またバスが来て停留所に停まった。

またも皆が乗り込み運転手を引き摺り降ろし、バスが動き出した。

「あのバスはどこに?」

中年男に聞くと、

「あれは国防軍を迎えに行ったよ」

と言うので驚いた。

「国防軍も味方なんです?」

私が聞くと、

「そう。軍も我らと協同していて、反抗しているのは幹部だけで、下っ端は皆尽力しているよ」

と言った。

「君も次のバスに乗るかい?」

中年男が誘ってくれた。

「大丈夫です?」

と私は急に怖気づいたが、

「大丈夫だよ。次のバスは、総統官邸に乗り込んで...」

と言うので、私は大いに喜んだ。

「官邸に乗り込むんですか!それじゃあ、ぜひ連れて行ってください」

と私は頼み込んだ。

しばらくすると、周りの人達の話題は、

「総統官邸はもう完全に占拠されている」

ということになっていた。

私は戦いに参加できなかったことに落胆したが、今泉游の死に様くらいは拝めるだろうと思った。

「もう戦いは終わっているみたいだけど、それでも来るかい?」

中年男が顔を覗き込んで聞いてきた。

「もちろん」

私がそう答えると、ほどなくしてバスが来て目の前に停まった。

私と他の人達は騒ぎながら乗り込み、運転手を引き摺り降ろすと、満席になったバスは官邸に向かって走り出した。

しばらくの間走っていくと、バスは大総統官邸前広場に到着した。

官邸広場にはたくさんの出店が出ていた。

私達はバスから降り、人波を掻き分けて屋台がずらりと並んだ広場の中央部に行き着いた。

そこには、周りを群衆に取り囲まれた台があり、その上にはまだ十一歳の今の長男坊・海平が、仰向けに寝かされていて、ちょうど殺されるところだった。

振り上げられた軍刀が勢いよく振り下ろされ、海平の首がコロコロと転がっていった。

見物していた群衆から歓喜の声が上がった。

台の上には、礼服を来た子供の胴体がお行儀よく寝転んでいる。

数十分後、今度は今泉游と華藍夫人が親衛軍の兵士達に連れられ、新衛兵が彼らを二つの断頭台の二本の柱の間にそれぞれうつ伏せ状態にさせた。

「この愚民ども!国家がお前達に与えた恩恵を忘れたか!恩を仇で返すのか!」

血が混ざった唾を吐き散らしながら今が叫んだ。

夫人の方は落ち着き払っていて、羊のような澄んだ目をしていた。

見物客からは怒号が飛び、あらゆる物が今夫妻に投げつけられた。私もそれに加勢した。

すると、群衆の中の誰かが、「殺せ!」と叫んだ。そして、それを聞いた別の誰かが、「早く首を刎ねろ!」と叫んだ。

それはやがて、大きな大合唱へとつながっていった。

殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!

「お前達、神の裁きを受けろ!」

今が叫んだそのとき、重く鋭い刃が落ちた。

刑が執行され、それまで散々怒号を浴びせていた数千という群衆は、しばらくの間万歳!と叫び続けた。

午前十二時を回った頃、交差点の信号機には今と夫人の首なし胴体が吊るし上げられていた。

その下では交通整理の警官が血の滝行をしながら立っていて、吊るされた胴体を眺めながら人混みは秩序よく蠢いていた。

そういえば、と私は今の死に際に放った言葉を思い返す。

神の裁きとか言っていたが、今は無神論者ではなかったか。

こんな状況でも、私はそんなことを考えていたのだった。

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