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架空世界-下腦-  作者: しかバトン
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ある神華人一般男性の話

一般神華人であるSは今日も今日とて支給パソコンの前に座り、匿名電子掲示板に熱心に書き込んでいる。

"犠牲になった竪野の人々のために祈ろう。我々は今、一つにならなければ"

神護国軍が竪野共和国の領土に侵入し、一般市民を虐殺した。

これには神華政府も猛烈な非難を行い、山城で行われた両国の外交会談の内容を無視するようなその卑劣な行動に、神華国内でも神護に対する怒りの声が上がっている。Sもその内の一人だ。

神護国は東洋州でも数少ない核保有国だ。

対して竪野は核を保有していないことに加え、軍もそれほど強くない。

同盟国の危機に、Sはさっきの大総統府外交代表部 王部長のテレビ演説を思い出した。

神護軍の悪虐極まる蛮行により、多くの竪野人の一般市民が犠牲になったこと、その行為は未だに国境付近で行われていることを、涙ぐみながらも芯の通った猛然たる声で、神護を強く非難し、軍事行動も辞さないとした。

絶対に許せない、とSは思った。

テレビには他に、神護軍の攻撃から生き残り竪野軍に保護された一人の竪野人少年の姿が映っていた。まだ幼い彼はこう言った。両親を殺した神護軍を許せないと。大人になったら神護人を殺してやると。

Sの目には薄っすらと涙が浮かんだ。

なかなか言えることじゃないだろう。

10歳前後の子供にそんな思いを抱かせるなんて。

神護軍の悪行は多くの無関係の人々の人生を狂わせ、壊したのだ。許されるべきではない。

犠牲となった竪野人の慰霊碑を建てる寄付運動が国民医療会主導で皇京で始まったらしい。金の無駄だから寄付はしない。声で応援すれば彼らも多少は救われるだろうとSは思う。

だがその前に、この軍事介入に反対する馬鹿左翼を一人一人攻撃しなければならない。

Sは待ち針のような細い指でキーボードをカタカタ打ち込み、国敵を探し始めた。だが敵は一向に見つからない。いつもなら政府の足を引っ張る売国屋が居るはずなのに。人権がどうだの多様性がどうだの偉そうなことを言う薄っぺらい正義屋どもが、どいつもこいつも押し黙っていやがる。

Sは政府が正式に認めている電脳後援戦士隊の会員証を持っている。

電脳後援戦士隊とは、国家をネット上で応援する組織で、神華国籍を持っていれば、希望すれば誰でも会員になれ、国家を批判するような輩を見つけ出しては日々個人攻撃している。

Sは見当たらない反戦主義者への攻撃を諦め、近年問題視されている神華国内の移民に矛先を向けた。

"移民は消え去れ。奴らは働いて得た金を本国に送っている!雇用を奪われ、今度は金も奪われている!"

"神護からの移民を見つけ次第吊るし上げろ!穢れた血を滅ぼせ!"

書き込みはどんどんエスカレートしていく。この穢れた土人どもを自殺に追いやらねばならない。

敵国神護やその側についている国から来ている移民達を探し出し、徹底的に攻撃せねばこの気持ちは抑えられない。

"殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。工作員を殺せ。痛めつけて殺せ。女もガキも殺せ"

恍惚な感情がSを支配する。

S以外にも移民を中傷する旨の書き込みが多く行われ、その活動は現実世界にも波及した。コソコソと生活する移民達を街中の人々が撮影し、住所や学校がネット上に晒上げられ、直接その場所に行き暴行を加える者まで現れた。


神華人はネット上でも現実でも一体化し、巨大な塊となってそれらを攻撃していた。

そして...

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