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28.魔法少女とダンジョン・アタック

 先行調査という名目でオケアノス級二番艦「オールト」を中心とした艦隊が四国に差し向けられたのは、差し当たり佐渡ヶ島奪還戦における陸戦隊の報告の中にあったものを、諏訪部が危惧していたからだった。

 オケアノス級を動かすのには上層部との折衝が必要で、そこには相応の苦労が伴っていたものの、果たして艦隊を率いて飛び込んだ四国の地は、魔境と呼ぶのが相応しい地獄に変わっていた。

 結果論ではあるものの、諏訪部が危惧していた通り、大艦隊を率いての実地調査となったのは正解だったといえる。

 蔓延る敵星体を、呪術回路によって魔力的な補強がなされた陽電子衝撃砲塔で撃ち落としながら、陸戦隊と、その随伴として編成された魔法少女隊──主に第三世代魔法少女からなる三人一組のユニットを乗せた艦隊は、旧松山市に突き刺さっていたその物体に向けて運んでいく。


「こいつは……なんだ? 塔か?」


 オケアノス級航宙戦艦二番艦「オールト」のカタパルトに、78式呪術甲冑を装備して待機していた内藤は、佐渡ヶ島で見たものとよく似ていながらも、まだ「欠片」としての面影があったそれとは異なり、螺旋を描くその構造は彼が呟いた通り、一つの塔にも見える。


「そいつを今から調査しにいくんですよ、隊長」

「んなこたぁ知ってらあ! いいかお前ら、ここから先は多数の敵星体との遭遇が予想される、特に魔法少女隊! お前らは絶対に生き残ることを考えて、教えられた通りに動け! それでもダメそうなら、俺らのところまで逃げてこい!」


 部下から突っ込まれたことを切って捨てると、内藤はこの調査任務において最前衛を務めることになる三人の少女たち──いずれも戦後に生まれた第三世代魔法少女である──へと、そう言い聞かせた。

 呪術甲冑は魔法少女の代替兵器であり、その力は対星装備が完全であるのなら第二世代魔法少女にも匹敵するとされている。

 ならば、第二世代魔法少女と比較して魔力量で劣っているところが目立つ第三世代魔法少女は、どう運用すべきなのか。

 それを考えて、答えに行き着いた時、内藤はあまりの怒りに打ち震えて殴りつけたロッカーを一つダメにしたが、連邦防衛軍に戦力を遊ばせておく余裕もなく、かつ第三世代魔法少女であっても最低限、タイプ・キャンディと渡り合えるのなら、その戦力を活用しないという手は人類に残されていない。

 その結果としてもたらされたのが、この未知の構造物調査における最前衛、という役割であったなら、それは大人として、軍人としてとてもやり切れるものではない。

 自分たちは年端もいかない少女たちに死んでこいといっているようなものなのだ。

 そして、上層部に巣食っているタカ派はその現実を容認しようとせず、美辞麗句で飾り立てて、第三世代魔法少女たちを前線へと駆り立てているのだから、度し難いという話では済まされない。

 これでは本末転倒だと嘆きをぶつけたくなるのは内藤だけではなく、部下たちも同じであり、三人一組で最前衛を務める魔法少女たち──「トライアングル・ユニット」には、哀れみや悲しみが入り混じった視線が向けられている。

 それは相手の戦士としての誇りを損なうことだとわかっていても、誇りで飯は食べられない上に、相手は年端もいかない少女たちなのだ。

 悲しむなという方が無理筋だと、呪術甲冑のパイロットたちは沈痛な面持ちで、発進の時を待ち続けていた。


「ありがとうございます、内藤曹長。私たち、絶対に前衛としての戦果を挙げて、この調査を成功させてみせます」


 しかし、健気にもその、ミディアムロングの栗毛を二つ結びに括った少女──「オールト」に配属された「トライアングル・ユニット」の代表者である、霧崎希美はぴしっとした敬礼を内藤へと捧げて、自らの内側に芽生えた恐怖を踏み倒すかのようにそう言い切ってみせる。

 健気な子だ、とは、思っても口には出せなかった。

 内藤はその頭を撫でてやりたくなったのを堪えて奥歯を噛み、「健闘を祈る」と、紋切り型の答えを返すことしかできなかった。

 それがどれだけ無力であるとしても、無意味なものになると予想できても。

 それだけが、戦地へと赴く者の誇りへと捧げられる祈りに他ならないのだから。




◇◆◇




 塔のように聳え立つ構造物については周辺空域に駐留する「オールト」率いる連邦艦隊が観測し、調査しているものの、その下にあるものについては、呪術甲冑陸戦隊と魔法少女隊が直接赴いて調査する他にない。

 文字通りに湧き出てくるタイプ・キャンディを「オールト」の魔力補強が施されたパルスレーザーが撃ち抜いていく中で、討ち漏らした個体を呪術甲冑隊が降下しながら殲滅する形で、幸いにもその「孔」へと降り立つ時に、欠員は発生しなかった。

 だが、そこからが地獄であることを内藤たちは、立ち込める瘴気とでも呼ぶべき、忌避する戦場の香りと熟練の勘から悟っている。

 恐らく敵星体は自らの生産プラントを作り上げているのではないだろうか。

 それがこの一ヶ月、「ラボラトリィ」が佐渡ヶ島から持ち帰った調査結果を検討した結果、導き出された仮説だった。

 残存する敵星体は従来、「赫星一号」の欠片から何らかのプロセスを経て発生しているというのが一般的な認識だった。

 だが、そのプロセスが変化して、「欠片」を内包した「巣」とでも呼ぶべきものを地下に構築しようとしたが、何らかのリソースが不足していたか中断された結果が、あの佐渡ヶ島の出来損ないのような「孔」だったのではないだろうか、というのが現状における「ラボラトリィ」の見解だ。

 連邦政府はこの仮説を公には発表してはいないものの、その可能性は大いに考えられる、という立場は取っている。

 だからこそ、内藤たちが実地調査のためにこうして、今や敵地と化した四国へと派遣されたのだ。

 78式呪術甲冑の探照灯に照らされて、希美を筆頭にする第三世代魔法少女三人組が先頭を務める形で、「巣」の中を歩いていく。

 複数の通路や小部屋など、地下に作られたものとしては極めて頑強かつ、複雑な作りをしている辺り、巣というよりは迷宮、ダンジョンと呼ぶ方が相応しいのではないか。

 内藤は湧き出てくるタイプ・キャンディを撃ち落としながら、そんなことを考える。

 彼は粗暴な人間でこそあったが、無教養ではなかった。

 だが、呪術甲冑のそれをダウンサイジングしたアサルトライフルやシールドといった呪術礼装を支給されていても、どこか落ち着き払っている内藤たちと違って、希美たちの足は竦み、引き金にかけた指先もかたかたと怯えも露わに震えている。


「嫌な時代になったもんだぜ……いや、元に戻っただけか」


 それでも、呪術甲冑という、魔法少女に頼ることなく敵星体と渡り合える手段が支給されているだけある程度は進歩しているといえるのかもしれないが、身一つで戦わなければいけない魔法少女たちにはほとんど関係のない話だ。

 内藤のHUDを警告が埋め尽くしたのは、小部屋に集っていたタイプ・キャンディを制圧して、更なる地下へと続く穴に通じると考えられる開けた部屋へと出たその時だった。


「隊長!」

「タイプ・クッキーが6つ、キャンディは相変わらず数えるのがめんどくせぇぐらいいるってか……こいつは骨だな!」


 地下へと繋がっていると思しきその穴を守るかのように、這い出てきた敵星体、特にタイプ・クッキーの見た目は異形としか形容できない変異を遂げている。

 地球上の生き物で近いものを挙げるならば、カマキリがそれに近いだろうか。

 本来持っているはずの「爪」を鎌の形に変えて、背中から昆虫のそれとよく似た羽を生やした異形は、わずか六匹という数にもかかわらず、生理的な嫌悪感と絶望を内藤たちにさえ感じさせていた。


「わ、私……どうすれば……」

「落ち着けお嬢ちゃんたち! いいか、三人一組だ! 防御担当は呪術礼装の盾で敵の攻撃を受け止めて、アタッカーが敵を倒せ! 遊撃手は俺らと一緒に敵の撹乱だ! 支援は惜しむつもりはねえ、死ぬんじゃねえぞ!」


 敵を前に足が竦んでしまった希美を叱咤するように内藤は言い放つと、同じように盾を構えて固まっている魔法少女と、鉈のような魔法星装を手に震えている魔法少女へと喝を入れて、弾丸をばら撒きながら突撃していく。

 タイプ・クッキー、その変異体も極めて厄介なことに違いはないが、敵星体の中で最弱にして、最も侮れないのは物量で押してくるタイプ・キャンディだ。

 呪術甲冑に支給されているアサルトライフルは、あの忌々しい飴玉と深海魚のキメラを撃ち落とすために最適化されている。

 ならば、回路自体は小さくなっても、呪術礼装ならやれるようにできているはずだ。


「っ、ああああああッ!!!」


 希美は恐怖に滴る涙を堪えて自らにそう言い聞かせ、アサルトライフルを構えると、役割である遊撃と撹乱を果たすべく、敵星体へと突撃していくのだった。

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