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18.魔法少女と佐渡ヶ島奪還戦

 佐渡ヶ島に落着していた「赫星一号」の破片は、オケアノス級航宙戦艦「オケアノス」「オールト」「オラシオン」の三隻による火力投射で完膚なきまでに破壊され、地上に蔓延っていた敵星体も、概ね呪術甲冑を身に纏った陸戦隊の活躍によって排除されつつあった。

 包み紙に抱かれた飴玉と魚を融合させたようなタイプ・キャンディの群れを、呪術礼装として再定義されたアサルトライフルの一斉射撃が葬って、先日は苦渋を舐めさせられたタイプ・クッキーの変異体には、背中に装備しているロングレンジキャノンから放たれる徹甲弾が、これでもかとばかりにご馳走される。


「へっ、どうだ星屑ども! 装備が揃えばなぁ、てめぇらなんざ地球から叩き出してやれんだよ!」


 陸戦隊の一番槍、最前線を務めている内藤が咆哮と共に引き金を引くと、HUDと連動したカメラアイが搭載されているバイザー型の頭部が、闘志の炎を宿したかのように勇ましく煌めく。

 最早この戦場に魔法少女の出番などないと、そこまで驕った考えを抱いているわけではないにしろ、3年前はただ囮になることしかできなかった兵士たちにとって、まともな反撃ができるというのは、士気の向上へと大いに貢献していた。

 呪術回路だの魔力だの、当てにならないようなオカルトを無理やり人類の法則に当て嵌めさせたそれは、名付けという呪いを根幹にしているものだったが、前線に立つ内藤たちのような人間からすれば、それがオカルトだろうが理路整然とした科学の産物だろうが、あの憎い敵星体を叩き出せるということだけで十分だった。

 十分な数と装備を揃えた呪術甲冑は、魔法少女の代替を名乗るのに相応しい活躍を見せているが、それでも餅は餅屋だという場面は戦局においては往々にして存在する。


『警告! この反応は……タイプ・ショコラータです!』

「なんだと!? 話が違うじゃねえか!」


 内藤に届けられたその報せはまさしく、戦場における不確定要素を体現するものであり、そしてフル装備の呪術甲冑をもってしても敵うかどうか、まともに戦えば相応の犠牲を覚悟しなければならないという凶報だった。

 地平線を埋め尽くすタイプ・キャンディとそれらを従えるタイプ・クッキー、そして彼らを統括する変異体をその腹から吐き出しながら、ショコラータという可愛らしい名前に見合わないその「蟲」は二匹、ビルにも匹敵する体躯を唸らせて、戦場に地響きを起こす。


「畜生、奴ら『母艦』型か! 破片しか残ってねえってのに、よくもまあこんなもんを守ろうと……! おい、マジカル・ユニットの支援はどうなってる!?」


 通信を飛ばしてきた「オケアノス」のオペレーターに向けて、内藤は戦闘行動を継続しつつラインを下げながらそう問いかける。

 佐渡ヶ島攻略作戦にも、マジカル・ユニットが投入されるというのは諏訪部の手回しで周知されていたことだった。

 悔しいが、今の78式呪術甲冑が一機で戦うために想定している相手は精々タイプ・クッキーが限界であり、それを超えるとなれば、犠牲覚悟の特攻戦か、そうでなければちょうど今のように餅は餅屋として魔法少女への救援を頼む他に道は残されていない。

 しかし、事前に偵察衛星から送られてきた情報では佐渡ヶ島に落着した「赫星一号」周辺には最大でもタイプ・クッキーしか確認されておらず、そもそも変異体がいること自体がイレギュラーであったというのに、その上で「母艦」型のタイプ・ショコラータまで出てくるとなればこの数日で佐渡ヶ島は敵星体のテーマパークにでも改装されたということになる。

 ふざけた話だと思いながらも、長い承認を経なければ出撃できない魔法少女たちに再び頼らざるを得ないという忸怩たる思いを抱きながらも、内藤たちのような前線の陸戦隊は歯を食いしばって、敵星体の進撃を食い止めていた。


『各省庁及び連邦政府からの承認を確認、マジカル・ユニット、戦線に投入します!』

「やっとか! お姫さんたち、悪いがあの蟲野郎共は任せたぜ! それまでは雑魚どもを食い止めるのが俺たちの仕事だ! いくぜ野郎共ぉ!」

『応!』


 内藤の呼びかけに応じて、後方で待機している「オケアノス」のカタパルトから、今回の戦線に投入された魔法少女が到着するのを待つ傍で、激励の声を上げた彼の言葉に従って、陸戦隊はあくまで波濤のように押し寄せてくるタイプ・キャンディやタイプ・クッキーへと手持ちの火器による一斉射撃を放つ。

 呪術回路による魔力のオーバーコートが施された弾頭は容易く敵星体の障壁を貫き、四散させるが、佐渡ヶ島に投入された78式呪術甲冑の数をもってしても、戦局が押し返されつつある辺り、あの「母艦」級の存在は相当厄介だ。

 そろそろ弾切れが見え始めてきたという、HUDに表示される警告を一瞥して、内藤が舌打ちをしたその時だった。


「よっしゃ! そんじゃいっちょ始めますか!」

「わたくしの初陣を飾るのがタイプ・ショコラータ……相手にとって不足はありませんわ!」

「来たか!」


 前線へと猛スピードで合流してきた、フリルがふんだんにあしらわれている、いわゆるゴシックロリータと呼ばれるような衣装に身を包んだ二人の少女は、内藤の言葉通り押し寄せてくる敵星体の群れに見向きもせず、最低限立ちはだかる変異体だけをそれぞれの得物で処理しながら、「母艦」級の前に立ちはだかる。

 一人の少女が持つ装備は、誰が見ても異様なものだった。

 オレンジ色に近い色合いの髪の毛に、似たような色を持つ瞳をした少女、三上美柑がその得物としているのは、歪なまでに弾倉とバレルが肥大化しているリボルバー拳銃──もはやそれは拳銃ではなくキャノン砲と呼ぶべきものだ──と、一振りの直刀というレンジがちぐはぐな武装、魔法少女たちにそれぞれ星から分け与えられた魔法星装だ。

 対して、その隣に並び立つ、金髪に青い瞳と赤い瞳のオッドアイという出で立ちの魔法少女、「原初の七人」ではなく、戦後に生まれた「第二世代魔法少女」の第一号たるアンジェリカ・A・西園寺の魔法星装は、ハサミのような形状をした、というよりも巨大なハサミそのものと言い切れるようなものだった。


「行きがけの駄賃だよ、アタシからのサービスだから取っといてね、っと!」


 美柑はリボルバーカノンに魔力を込めると、陸戦隊に襲い掛かろうとしている敵星体の中心に魔力を込めた炸裂弾の一撃を発射して、その全てを殲滅すると、それを合図にして、右手に保持した直刀で、今も敵星体を生み出し続けているタイプ・ショコラータ、「母艦」級へと果敢に切り掛かっていく。

 相も変わらず「原初の七人」が持つ魔力は桁外れだと、同じ魔法少女であるはずのアンジェリカもまたどこかで呆れたような想いを抱きつつも、今まで受けてきた訓練を思い返し、気を引き締めて「母艦」級へと果敢に切り掛かる。

 最大クラスの敵星体であるタイプ・ショコラータ、その中でも「母艦」級とエンカウントしたことは不幸かもしれなかったが、同時に幸いでもあった。

 何故なら、「母艦」級は敵星体を生み出すことだけに特化していて、単体の戦闘能力は、魔法少女から見れば大したことはないからだ。


「よっしゃ、行くよ! 魔力解放! これがアタシの……『シュテルンダイト』だっ!」

「魔力解放! わたくしに力を示しなさい、『ズヴェズダユーズ』!」


 二人の魔法少女が同時に叫びを上げて己の得物、魔法星装を振りかざしたかと思えば、そこに顕現するのは純然たる「力」の発露であり、「星の悲鳴」を聞き届けた者にしか出力することができない、魂をバイパスとして現世に出力された高次元からのエネルギーが、ビルにも匹敵する巨体を持つ敵星体をいとも容易く灰燼に帰せしめる。


「なんだぁ、ありゃあ……」


 魔法少女は戦略級兵器に匹敵する存在であると聞いていて、3年前の戦場でも、数日前の池袋でもその実力を目の当たりにしてきた内藤だったが、そんな彼でも未だに不条理だと思えるほど、魔法少女の持つ力は凄まじい。

 結果として、佐渡ヶ島奪還戦を人類の勝利へと導いたのは、連邦が威信をかけて開発した新兵器ではなく、遅れて戦線に投入された魔法少女だったということだ。

 それをどこまで諏訪部が見抜いていたかはわからない。もしかすれば、本当にお守り程度の意味で再編されたマジカル・ユニットは投入されたのかもしれない。

 だが──結果が示すものは、無慈悲な救済であると同時に、メディアの報道に反して、人類がまだまだ魔法少女という属人化した戦力に頼らざるを得ない現実であることに、他ならないのだった。

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