VSイノシシ
チュートリアルはありません。ご了承ください。
人目を避けて走り続け、やっとクロマが我に返ったのは街の東門から出て人気のない草原にたどり着いた時だった。
「ハァ、ハァ……お、思わず街から出ちゃった。もう見られてないよね?」
肩で息をするクロマが、深呼吸を行い、改めて周囲を見回す。
目の前に広がっているのは普通の草原だが、遠目にぽつぽつとモンスターらしき動物がいるのが見えている。
「あ!あっちはイノシシ……あれは牛かな?ヤバイなぁ、久しぶりのモンスターにちょっとワクワクしてきちゃった」
すぐにでもモンスターに駆け出したい気持ちを抑え、周囲を確認する。
「うーん、武器になりそうなもの、木の棒すら落ちてないなー」
クロマの体格は小学生低学年相当である。見た目よりは筋力があるものの、そもそもの体重が無ければ格闘戦ではダメージを与えにくい。
そのため、何かしらの武器が欲しい所だった。
「最悪、素手でもいいんだけど、効率悪いよね……武器とか、なんか持ってないのかな?」
自分のアイドル衣装をぺたぺたと触る。
無駄にひらひらしている衣装ではあるものの、ポケットすらついていないようだ。
「あ、そうだ!遊び方のメモに書いてあった……困ったら『メニューオープン』!」
言葉と同時、自身の目の前の空間にメッセージが書かれた半透明の薄い板が現れる。
「おぉ、この魔法はリガルドには無かったなぁ……えーと何々?『まずはキャラクターネームを設定しましょう』。名前入れればいいんだよね、ク、ロ、マっと」
タッチパネルから名前を打ち込み終わると、視界の端に名前とHP,MPの文字と、2本のバーが表示される。
「HP、MPってなんだろう……まぁ、いいか、次は?」
『始まりの広場でギルドに加入し、チュートリアルを受けましょう』
「広場って最初のところかな?戻るの恥ずかしいんだけど……あ、飛ばせるっぽい、飛ばしちゃえ」
クロマはパネルの端の『SKIPして完了』のボタンをタッチする。
「これでもモンスター討伐に関しては素人じゃないし、大丈夫だよね」
もちろん、チュートリアルでは色々なシステムの説明等が主であり、全然大丈夫ではないのだが、早くモンスターと戦いたいクロマはまったく気づいていない。
『報酬の初心者装備一式と500Gがアイテムボックスに送られました』
「やった!こっちの500Gはお金かな?それより武器武器!」
メニューの中からアイテムボックス、と書かれたパネルをタッチすると、いくつかの装備が表示される。
・初心者の剣
・初心者の杖
・初心者の弓
・初心者の帽子
・初心者の服
・初心者の靴
「防具もあるってことは、やっとこの服着替えられるんだね!」
急いで装備メニューから初心者シリーズの防具をセットしていく。
が、クロマの外見には何も変化がなかった。
「あれぇー!?なんでー!?」
チュートリアルを受けていないクロマは知らぬ事だったが、外部から取り込んだ服飾データを使う場合、装備よりも服飾データが優先されるという仕様であった。
「うぅ、しょうがない。モンスターを倒して気を紛らわそう……とりあえず武器は剣でいいか」
装備メニューから剣を設定するとクロマの腰に鞘に納められた剣が出現する。
軽く抜いて一振り、感触を確かめる。
「うん、刃の状態もいいし、頑丈そうでいい感じ。重心ちゃんとしてて振ってもブレない。いい片手剣だ」
一体何が初心者用なんだろう、とクロマが首をかしげる。
「まぁ、いいか。早速モンスター狩っちゃおう!」
周囲を見渡し、一番近いイノシシ型のモンスターへ走りだす。
『レッドボア Lv18』
あと20m程度の距離まで近づいた時点でモンスターの上部に名前とレベルが表示される。
同時に、赤いイノシシ型のモンスター、レッドボアもクロマの方へ向きを変え、前足で土を掻き始める。
シューッ、と威嚇するように鳴き声を上げ、クロマをジッと見つめている。
大きさは高さで2m弱、野生動物としては化け物のようなサイズであったが、クロマにとっては一般的なイノシシ型の魔物と大差なかった。
「また良く分かんないアルファベットが……Lvってなんだろう……まぁいいや、来い!」
『Lv1』のクロマは足を止め、剣を下段に構える。
一瞬、両者の動きが止まり、そしてレッドボアが、クロマへと駆け出した。
一瞬でトップスピードに乗ったレッドボアがクロマへ到達するその直前、クロマの右足が地面を強く蹴る。
「よい――」
姿勢を低くして牙を避け、踏み込む先は斜め前、レッドボアの左側。
前足の付け根、相手の腋に刃を差し込み、相手の勢いも利用し上段へ振り抜く。
「しょっと!」
レッドボアは突進した勢いのまま空に投げ出され、数m程飛んで、背中から地面に叩きつけられる。
「足が止まればあとは止めを刺すだけ……ってあれ?」
地面に落ちたレッドボアは、足をピクピクと震えさせるばかりで、立ち上がる様子がなく、光の粒子となって消えていく。
「あっけなかったけど、街の近くのモンスターなんてこんなものか」
『レッドボアを倒しました。ドロップアイテムがアイテムボックスに送られました』
『Lvが8に上がりました。ステータスとスキルにポイントを割り振ってください』
「んんんん-!だからステータスとかスキルって何!分かんないってば!」
パネルを適当に連打して閉じる。
分からないまま適当に触ったら失敗するかもしれないのであれば、クロマは最初から触らない主義である。
ファンタジー世界の住人には機械操作は難しいのだ。
「……ええい、次、行ってみよう!今日はこの辺のモンスター全部狩るつもりでいくよ!」
次回、掲示板回の予定です。