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乙女のピンチ(お見合編8)

長編となりそうな予感。エタる可能性大。


「清潔感が最優先。ジャケパンかスーツが無難と言える・・・」


「えっ、ジャケパンかスーツ?そんなフォーマルな服装でないとダメなんでしょうか?前回の時は・・・」


「あ、失礼。これば男性版の話でした。え~~と、女性版は・・・パンツスタイルが駄目な訳ではないが、スカートは女性しか着用しないもので女性らしさを演出する武器と考え・・・」


迷走している。二人して店長の持つスマホの小さな液晶をのぞき込み迷走している。

検索の際の入力ワードは、(お見合い)、(服装)、(20~30代)、(夏)、等々。


「あ、ここ重要かも知れません。男性は女性の靴を意外に気にしているもの。あまり高いヒールはNG。5センチ程度の高さのパンプスがお勧め。菊元さん、持ってます?こんなパンプス・・・」


はい、持ってます。普段仕事に履いていくのがまさにそんな感じの靴ですから。でも、それ以前に洋服の方が、今の私的には不安です。そちらから攻めませんか?まだ末端の詰めの段階には程遠いです。


「ああ、なるほど。ニットを着用する場合は、インナーは半袖かノースリーブ。ダークな色調のアウターを着る場合、インナーは白かピンクなどの明るい色合いを選ぶ・・・アウターは夏だから必要ないですね。ニット・・・着けます?」


「ニットですか、タンスのどこかには入ってるはずですが、きっとしわくちゃで、とても今日の戦力にはならないかと・・・」


あらためて自分の女子力の低さを嘆きたくなる。

始めは目を輝かせてスマホを操作していた店長さんにも、諦観の空気が纏わりつき始めている。

ちなみにアンダーウェアのおパンツの方はと言うと、店長さん一押しの赤いスケスケで決定している。店長の話を聞いているうちに、(ちょっと冒険してみようかしら)って気になってしまったことと、(ベージュの次にアウターに透けないのが赤)というアドバイスが決め手となった。今はきっと洗濯機の中でぐるぐるしているはずだ。


「よしっ」


突然の店長さんの気合。少しびくっとなってしまった。


「抜本的にアプローチを見直しましょう」


抜本的ってなんでしょう?一体どういうことでしょう?


そんな私の疑問顔を意に介さず、店長さんが検索ワードとして追加したのが(モデル)、(画像)、そして(写真)。

小さな液晶に並んだのは、美しい女性がモデルとなった全身写真の数々。確かにこちらの方がイメージとして沸きよい。夏らしく、パステルカラーや白基調の服装が多い。参考にはなるが、でもこんな綺麗な人だったら、そりゃ、どんな服でも似合うでしょうよ、なんてひがんでしまう。みんな顔の割合が小さいし。不公平だよな、全く。


「あっ、この色・・・素敵!!」


ここで店長さんが喰い付いたのは、柿色というかオレンジ色というか、普段の私なら絶対にスルーするような派手な色のワンピース。花柄模様が大振りにプリントされている。


「昔こんな色の車に乗ってたんですよ。フェアレディって車。懐かしいなぁ~」


車の話ですか?回想ですか?車にせよ服装にせよ、やはり店長さんの趣向と感性は個性的だ。私は絶対に選びません、車でも服でも。だって派手過ぎるもの。もうすぐ三十路ですもの。


「いや~少し派手過ぎやしないかと・・・来年三十路に突入しますし。年相応に落ち着いた色合いの方が、私的には・・・」


「そうでしょうか、私は着こなす自信があります、この色。今年35ですけど、私」


それは失礼しました。へぇ~、店長さんって35才だったんですか。でも店長さんって体型がスマートだし、顔だって小さいし。三十路をおばさんのように言ってしまったことには反省しますけど。


「じゃあ、こちらの紺色のワンピはどうでしょう?少しシックな感じがしますね」


ああ、確かに柿色よりは落ち着いて見えます。でも少し体のラインが出過ぎではないでしょうか。店長さんの様な体型の人には良いかも知れませんが。出て行ったウンウンさんのおかげで、少しはお腹回りがシュッとしたとは言え、(見てよ、このボディーライン)ってシルエットとは程遠いです。それならまだ多少は輪郭りんかくを誤魔化せる柿色のワンピの方が・・・


(あれっ?)


この期に及んで私は我に返る。

いまスマホで検索しているのは、夏場お見合いに着ていく適切な服装だ。これがいい、あれが嫌とあれこれするのは勝手だが、そんな洋服を自分が持っているかどうかは、また別の問題なのだ。


「あの~、一生懸命調べて頂いてて申し訳ないんですが、あんまり私洋服持ってないというか、今調べて貰ってることが無駄になるっていうか・・・ほんと、申し訳ないんですけど。おパンツの方は、ありがたく履かせて頂こうかと思ってますが・・・あの赤いやつ」


液晶を睨みつけていた店長さんが顔を上げる。切れ長な目を細めて微笑む。


「ご心配なく。柔心会主席師範の人脈をなめて貰っては困ります。門下生55万人の天辺てっぺんですよ。ワタクシ」


はい?主席師範の人脈とは一体??


笑顔のまま店長さんがスマホを操作し始めた。

僅かにスピーカからコール音が漏れる。どこかに電話をかけたようだ。4回、5回・・・8回目のコールでお相手さんはお出になった。


「ああ、ワタシ、美波。突然なんだけど今から画像送るから。火急的速やかに送った画像のものを調達してちょうだい。何って?見たら分かる。今から送るから。はい、じゃあね」


(プチッ)


単刀直入。言いたいことだけ伝えて一方的に店長さんは電話を切った。またまたスマホを操作している。


「よし、送信!」


一体、店長さんは誰に対して何を送信したのだろう。店長さんは実に満足げな顔をしている。そして待つことほんの5~6分。店長さんのスマホが震えた。


「はいはい、美波。うんうん、そう、そんな感じの洋服を火急的速やかに見繕って持って来て。店に・・・うん、オレンジのワンピと紺色のと。ああ、あとかかと低めのヒールも欲しいな。あっ、ちょっと待って!菊元さん、靴のサイズは?」


「23.5」


反射的に答えてしまったが、これって厚かましいにも程があるのではないでしょうか。


「靴のサイズは23.5・・・ああ、23もついでに。色?それくらい適当なものを見繕いなさいな。そこらのコーデ、あんたの専門でしょう。うん、うん、火急的は火急的。分からん?そうねぇ、2~3時間以内って感じかしら・・・無理?何とかなさい。それから洋服着るのは私じゃないから・・・うん、友達。私よりは少し背が高いかな。160センチ・・・うん、そんな感じ。うん、うん、どっちも。オレンジも紺も、はい、じゃあ待ってるから。うん、うん、はい、は~い」


(プチッ)


凄まじいばかりの剛腕ジコチュウ。お相手さんは一体どんな顔で受話器の向こう側にいたのだろう。ちょっと気の毒っていうか、原因は紛れもなく私なのだ。とっても申し訳ない気分。そもそも電話の相手は一体誰なのだろう。私には知る由もない。


「洋服の件はこれで何とかなるでしょう。それじゃあ、本格的にお顔を小さくする施術を始めましょうか」


ああ、そうか。あまりのバタバタだったのですっかり忘れていました。

店長さんが、今回指名から外れた派手な色のランジェリーをベッドの下の収納棚に押し込む。


「じゃあ、うつ伏せで・・・」


やっぱり今日もうつ伏せでスタートなのです。



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― 新着の感想 ―
[一言] 師範、強すぎです…そして何故マッサージ店をやっているのか… とても気になります!
2021/08/14 17:17 退会済み
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