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EARDRUM-MASSAGE(2)

読者の方に気持ちよくなってもらうのが、今回の目的です。ハードル高いけど。


またたく間にダブチ2つを平らげた頃、やっと少し美波さんに元気が戻ったようだ。

そのダブチのカロリーが愚痴に変換され、美波さんの口先からこぼれ出る。


「まったくテレビなんかに出てしまうから、こんな事になっちゃうんですよ。もぅ」


はい、申し訳ありません。多分に私にも責任があることと存じます。認めます。


「だいたいジャ〇ーズの△△に、まるで会えなかったじゃないですか。あれから何の連絡もないし。完全に騙されました」


それについても気の毒と言うか、申し訳ないんですが。でも△△に会えると考えたのは、美波さんのただの思い込みですよ。それに連絡なんてある訳ないじゃないですか。常識的に考えても。そんなこと、絶対いま口にできないけど。ああ、でも・・・


「放送中、何度も△△さん、(こんな綺麗な人が滅茶苦茶に強いって、凄いですね~~)って発言されてましたよ」


あれから日が経ち、自分がテレビに映ったという異常事態に少し慣れてきた私は、録画した番組を、何度かは見返したのだ。△△が美波さんのことを綺麗だと言っていた事、これは嘘偽りのない事実である。

テレビの画面に映って綺麗に見える人は、実物を目にすると、とてつもなく綺麗だっていうけれど、スッピン顔で映ったはずの美波さんは、テレビの画面を介しても、本当に綺麗だったのだ。いや、ちょっと違うな。綺麗は綺麗なんだけど、何というか、そう、華があったのだ。オリンピックメダリストの溝田紀子にも引けを取らないくらいの。


「そんなの、社交辞令に決まってるじゃないですか。本当に綺麗だと思ったんなら、一度くらい連絡してくれてもよさそうなものです」


いや~それって相当無理があると言うか。美波さんって、滅茶苦茶に強いけど、整体師としても一流だけど、ちょっと社会に疎いのかしらって思ってしまう。

それでも(若い人の未来を奪う指導を指導とは認めない)なんて、たまに格好いいこというから、ホント、面白いっていうか、不思議な人だ。


「ああ、ダブチのお金を払わないと。おいくらでしたかしら?」


3つ目のダブチにかぶりつきながら、美波さんが私に問う。

私はポケットに無造作に放り入れていたマ〇ドのレシートを出す。

え~と、美波さん向けダブチが単価340円×3で1020円。自分が食べる用に買ったチーズバーガーが130円の〆て1150円(税込)なのだけれど。以前のタイ旅行の費用も、柔心会の稽古代も、全て私は踏み倒している格好なのだ。


「いえ、1000円くらいなので、お金はいいです。これまでさんざんお世話になってますし。しかも今回のテレビの件では、大変ご迷惑をお掛けしたと反省してますし」


それでもお金を払うという美波さんをぎょするのに、しばらく時間を要したのち、次にはダブチの価格設定の話となった。チー〇バーガーが1個130円。ダブチが1個340円。チー〇バーガー2個の方がずっと安い。(何で?)って私の素朴な疑問からの会話の流れだ。


「バンズとパティのバランスが違います。ダブチとチー〇バーガーは似て非なるものです。チー〇バーガーは只の食べ物。ダブチはマ〇ドの創作した芸術作品です」


う~~ん、よく分らん。でも美波さんにちょっと元気が戻って安心した。




「ほうほう、だいぶん筋肉がついてきましたね。特に広背筋と腰回りは、前回お越し頂いた時とはまるで別人です」


美波さんの施術を受けている。いま美波さんが触れているのは、いつもの如く足の指だけだ。それでも背中の筋肉の付き方までが判るらしい。さもありなん。美波さんは足の指だけを介し、背中や腰の筋肉をマッサージできるのだ。まるで魔法使いなのだ。


「週に一度、牧野さんに投げられてますから。自分でも少し体型が変わってきたのが分ります」


「それは何よりです。ただ投げられているだけでも、投げられれば、その都度立ち上がらないといけません。それに受け身は意外に全身運動ですからね。そろそろ菊元さんも投げる側の練習を始めましょうかねぇ」


そんな会話を交わしつつ、美波さんの施術が続いている。ホント、気持ちいい事この上ない。


「ああ、それから今日のお代は要らないですから、あとでちょっと実験台になってもらえないでしょうか?」


お代要らないって、またそんな。せっかくテレビ効果で増えるかも知れないお客様を表に放りっぱなしだし。大丈夫なの、整体シバヤマ&柔心会?それに実験台って何ですか?危険な香りがプンプンしますが。


「先週、柔心会の東京支部の方に指導に行ってたんです。ここがこんな有様ですからね。気分転換も兼ねて行ってきました。場所は新橋しんばしなんですけど」


そうなんですか。東京にも支部があるんですね。そりゃそうか。なにせ門下生55万人ですからね。


「でっ、新橋の駅前にあった耳かき専門って怪しい店に入りました。勉強も兼ねてです」


相変わらずの向上心と好奇心で。耳かき専門ですか。確かにそんな店、最近よく見かけます。言葉の響きはすごく気持ちよさそうです。でっ、如何でした?


「ただの風俗もどきですね。なぜか皆店員はミニスカートのナースルックでした。だらしなさそうなサラリーマン風のお兄さんが膝枕の上で、だらしない顔をしてました。あれをリラクゼーションとうたわれたのでは、ちょっとこちらとしては心外です」


はぁ、そんな感じの店なのですか。少し興味があったんですが、やっぱ行くのは止めにします。


「ただ、耳に着目するというところは、私も興味があります。耳と言う部位はとてもデリケートで、神経と血管も数多いですからね。マッサージの対象部位として、目の付処つけどころが悪い訳ではありません。そしてここで、菊元さんに実験台になってもらおうかと」


うわっ、何か、こわっ!


「では、奥の施術室へ行きましょうか」


どうかお手柔らかにお願いします。



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