乙女のピンチ(お見合い編5)
何だか暴走気味です。キャラが独り歩きを始めました。
「ご~ぉ、ろ~っく、し~ちぃ」
美波店長のカウントが続いている。何事かが起こる気配は全くない。
カウントを発する店長さんの可愛らしい唇以外、私達2人の体は、どうという動きも発生していない。ただただ私は、少し温もりを感じる美波店長の手を握っている。
何なのだろう、このゲームとやらは。そして一体、これから何を店長は起こそうとしているのだろう。そもそも今のこの状態、何かが起こるとは、私には到底想像できないのだ。
「は~ちぃ・・・」
よく理解できない10秒勝負も終盤に差し掛かった。
(あれ?)
店長の『8』のコールと同時に、何だか少し私の両膝が前に出た。ほとんど違和感程度の小さな動きだ。強制的にそうされたのか、無意識に自分が動いたのか、それすら定かでない。数瞬遅れて、今度は上体が後ろ側に倒れ始めた。ちょうど体全体がアルファベットの『S』の形になるような感じ。これははっきりと自分の体勢の変化が自覚できた。
「きゅ~ぅ」
店長が『9』を数えた瞬間、腰が砕けたように、私はペタンと床に両膝をついた。クチュっと体が重力に負けて膝を付いたのだ。私自身全く経験がないが、(腰が抜けた)ってのは、すなわちこういう状況なのだろう。でも、どうして私は腰を抜かしてしまったのだろう。
すごくビックリした時とか、強い衝撃を受けた時だとかに、こんな風になってしまうのはなんとなく分かるような気がする。経験はないが。
9つの数を数えている間、店長さんは握手している手に力を込めるようなことはしていない。姿勢もごく自然に立っていただけだ。私が一人で勝手に膝を地に着いた。何だか不思議だ。
「はい、私の勝ち~」
(お代要らないです)って言うくらいなのだから、相当に自信があったのだろう。それでも、とても嬉しそうな笑顔で店長さんが私を見下ろしている。私は膝を付き、キョトンとして店長さんを見上げている。つままれた狐だ。いや、狐はつまむ方だ。つままれたのは・・・狸だったっけ。
「ちょっと今のは不意打ちっぽかったですね。もっかい、やりましょうか」
店長が私の手を放し、笑顔で言う。本気でお代を踏み倒そうなんて、もちろん思っちゃいない。でも、今店長さんが何をしたのか、私の体に何が起こったのか、そのことを確認したい。
すっくと立ちあがった。体のどこかが痛いだとか、痺れているだとか、そんな違和感は見当たらない。
またまた差し出された店長さんの右手を握った。さっきよりは幾分力を込めて握った。腰も心持ちだが重心を下げた。それでも店長の表情にはまるで変化がない。涼やかで笑顔のまんまだ。
「じゃあ、始めますよ」
「はい」
心なしか(はい)の声が力んでいた。何だかお代を浮かせようとしていると誤解されかねない気合の入り様だ。そんなことはありませんから。ただ不思議に思っているだけですから。
「い~ちぃ、に~い」
店長さんのカウントが始まった。
(おっ?)
店長が3つ目のカウント終えた時、またまた膝が前に出た。
さっきよりかは初動が早い。
(うっ、重い!)
砕けかけた膝に自分の体重が乗っかっていく。自分の体のなんとも重いこと。
朝ベッドから起き上がる際も、少し速足で階段を駆け上がる時も、これまで一度たりとも自分の体が重いなんて感じたことはない。しかし今、どんどんと自分の体が重くなっていく感覚が増大している。
(ブッ)
膝を落とすまいと腰に力を入れた瞬間、典型的なオナラ音を立てて、空気がお尻から洩れてしまった。
「ご、ごめんなさい」
「ろ~く、し~ち」
私の放屁には全く反応せず、店長さんは笑顔のままカウントを続ける。少しは突っ込んでくれた方が、女としては救われるのに。
それにしても、カウントが重なるその度、どんどんと私の体が重くなっていく。膝ががくがくと震える。
(ぶぶっ、ぶ~~、ぶぃ)
今度のオナラは遠慮がなかった。スカートを揺する勢いで風を巻き起こした。
(きゅ~うぅ)
自分のお尻が発した音の激しさに気力が削がれ、さらに膝に乗ってくる体重の増加に耐えられず、さっきと全く同じ9カウント目に、私は床に膝を落とした。今回も私の負け。それはいいとして、何で私が膝をついてしまっているのか、そのことが全く解せない。
今度はかなり注意深く店長の動きを観察していたし、全く意味不明だった一回目と違って、体全体に緊張感を巡らせていたはずだ。それでも私は、またまた膝を落としてしまった。
その間、店長さんは一切力を込めるような動作をしていない。
おや、まだ店長さんは握った私の手を開放してくれない。
(にこっ)ともう一段階店長さんの目が細まった。(おっ!)
私の上体が背中側に倒れ込んでいく。両膝立ちの状態で後ろ側に。
中学校の体育の授業で、先生が、(太ももの柔軟)とか言ってやらされた正座した状態でそのまま後ろに倒れるあの運動に近い。
ヤバい、あの頃と比較するまでもなく私の体は老化して硬化している。このままでは、膝とか太ももが(グキっ)とか(ブチっ)とか言いかねない。
膝を横に崩し、どうにか両足が体の下敷きになる状態を回避した時には、あら不思議、
私は背中をべったりと床に付ける格好で寝そべっていた。
(ぐい)と私の顔を覗き込んだ店長さんの笑顔が見える。
「またまた私の勝ちですね。では、ちょっと失礼しま~す」
夏用で生地薄めの、私のフレアスカートの裾を左手の指で摘まみ上げた店長が、その中を覗き込んだ。スカートの中を。中を?
(えっ、何ですか?いま、私のパンツ見た??)
体の自由を奪われ、スカートの中を覗かれる。えっ、何かこのシチュエーション、ちょっと、ヤバくない?あっ、でも、なんだか興奮する。へぇ~、実はそんな気があったのか、私。29才にして新たに発見した自分の性癖。てかっ、そんなこと言ってる場合でしょうか?
「さらに失礼しま~す」
今度はおっぱいだ。なんと右のおっぱいを左手で鷲掴みにされた。(グニっ)て感じで。けっこう力強く、そして遠慮なく。
マジですか?これってホントに乙女のピンチ??乙女じゃないけど。