美波店長とタイを旅行する(5)
楽しく書いてます。
「さて菊元さん、どっちのマッサージ師がいいですか?」
私がお風呂を上がって40分後、美波さんが出てきてから15分後に、そのマッサージ師とやらのお二人は、この部屋に現れた。二人揃って大きな紙製の手提げ袋を持っている。
お1人は、失礼ながら少し小太り体型の女性。艶のあるゆで卵の様な丸顔に笑顔がよく似合う。年齢はきっと私よりもいくらか若い。おそらく20代前半。その指でマッサージされたら、さぞかし効くだろうと想像できる程に指がコロリと太い。服装は茶色いシャツに黒い短パン。足には底の薄いビーチサンダル。ホント、近所のおばさんがちょっと買い物に出てきましたって感じの服装。日本人の感覚で言えば(その軽装でホテル入ってきたの?)って感じだけど、それでも部屋に入ってきたときに見せた丁寧に両手を合わせての挨拶は、その笑顔との相乗効果もあり、なかなか好感が持てた。
その一方でもう一人のマッサージ師は、何だか奇抜な個性を放っていた。
丸顔のマッサージさんが小柄なのに対して、とても背が高い女性だ。170センチは超えているだろう。褐色の二の腕がムキっとしている。年齢は全くもって予想がつかない。派手なピンク色のミニスカートはぴっちりタイトで、彼女の腰回りの肉付きを露わにしている。シャツも窮屈な程に体に張り付いていて、突き出たおっぱいがロケットのように発射準備体勢。
彼女の個性をどう表現すればいいのだろう。陸上競技の海外女性アスリート、若しくは、『ストリートファイター』に出てくる女性キャラクター。うん、そんな感じ。ゴツイ印象だけど、鼻筋が通っていて、眼も大きくって綺麗だ。まあ美人と呼んで差支えないだろう。テレビなんかで映える外国のファッションモデルは、実際に生で見ると背が高くて迫力あるって言うし。
「で、どっちがいいですか、菊元さん」
またまた美波さんの問い掛け。えっ、どっちがいい?って、どちらかを選べってことですか?当然、ぽっちゃり普通マッサージさんを選びたい心境です。あまり昔から冒険はしないタイプです。それでも妙にゴツイマッサージさんの方が気になっているのも事実です。
そんな私の変な好奇心に、美波さんはすぐさま気づいたようだ。
「どうやら、そちらのアマゾネスタイプが菊元さんのお好みのようですね」
ホント、こんなところ勘が鋭い。アマゾネスって表現もいかにも美波さんらしい。あっ、でも好みって訳じゃなく、何だか気になるだけです。あまり日本では見かけないタイプの女性なので。
「はい、決定。アナタ、彼女。アナタ、ワタシ。オーケー?」
指差し動作でマッサージ師さん達に意向を伝える美波さん。”オーケー”以外は全部日本語。全く言葉は不要だったろう。
二人して(カー)と口にして、今もまだもうもうと湯気が立っているお風呂場に二人とも消えていった。(カー)ってどんな意味だろ?英語の(YES)って感じなのかしら。
しばらくしてお湯の出る音が聞こえてきた。えっ、もしかしてシャワーしてる?そのシャワーにどんな意味があるのだろう。ガラスが曇っていてよく中が覗えない。
「菊元さん、もしマッサージ中痛いと思ったら、“ジェッ”って言って下さい。あのアマゾネス、相当力強そうだから。ちょうどいい力加減の時に、“サヴァイ”って言ってあげると通じます」
“ジェッ”と“サバイ”ですか。了解です。ところで、今から受けるのってタイ式マッサージですよね。最近では関西でもよく店あるみたいです。本場のタイ式マッサージ、少し楽しみです。美波さんがお店でやるマッサージや整体とはだいぶん違うのでしょうか?
「足裏とストレッチ系のマッサージですね。ストレッチは(危ない!)って思ったら、迷わず“ジェッ”です。調子に乗せると、胴体ねじ切られますよ」
ええ~、ねじ切られるって、そこまで危険なマッサージなのでしょうか?
「ねじ切られるってのは冗談ですけど、相当力強いでしょうから。私のマッサージさんが少し太って見えるのは、脂肪も確かに分厚いですけど、その下にはしっかりと筋肉があります。長くマッサージの仕事している間に筋肉が付いちゃったって感じです。まあ職業体型ですね」
へぇ、一目しただけでそんなことまで分かるんですね。では私の体をマッサージしてくれるアマゾネスさんはどうなのでしょう?力が強そうなのは一目瞭然ですが。
「もっと力は強いでしょうね。なにせ元男性の力ですから」
へぇ、じゃあそれなりに覚悟してマッサージを受けます。てっ、えぇ~~?元男性??ロケットみたいにおっぱい突き出てますけど。
「まあこの国では1万バーツも出せば、世界レベルの豊胸手術が受けられますから。それに実際すごく綺麗でしょ、彼女というか彼氏っていうか。2対6対2の法則って菊元さん知ってます?」
ああ、聞いたことはあります。例えば会社なんかで例えると、2割の社員が会社の業績アップに貢献している人。6割の人が貢献もしていなければ損害も与えない人。残り2割の社員が、存在していること自体、会社にとって害のある人。そんな一般論と割合の法則だったのではないでしょうか?
「まあ、そんなところです。ここタイでの2対6対2の法則というのは、街中で女の子を10人見かけると、1番綺麗な娘と2番目の娘はすごく綺麗なレディー・ボーイ。3番目から8番目までが普通の女性。残りが見るも無残なオカマちゃん。そんな風に言われてます。それがタイでの2対6対2の法則です」
へぇ、色々とこの旅行では雑学が増えます。んっ?てことは、これから私は元男性に体を触りまくられるってことでしょうか?まあ男性の整体師の施術を受けたことはありますし、あまり気にしなくてもいいのでしょうね。げぇっ!いま私、ノーブラじゃん!!これってちょっとマズいでしょ。元男性でしょ。元男性って実際どうなのでしょう?女の子のセクシールックに心ときめいたりする訳?それとも全く興味なしなのかしら?それ以前に“元男性”の定義はナニ?どこをどこまで改造しているのでしょう?ナニを取れは何?
カルチャルディファレンスが大き過ぎて、私には想像もできません。
これはまずい。今のうちにブラ付けねばって思った矢先に、アマゾネス嬢を先頭に二人のマッサージ師がお風呂から出てきてしまった。二人ともお湯の張った大きめの洗面器を持っている。手提げ袋がやたらと大きかったのは、その洗面器が入っていたからなのね。なるほど。
「どうやら、足裏から始めるようですよ。ではベッドに腰かけましょう」
そう言って美波さんはベッドに腰を下ろし、マッサージ師さんの方に両足を突き出した。
ああ、はい、もういいです。ブラ着用を諦めた私も、同じくベッドに座り足を突き出す。
私の足元に跪いたアマゾネスマッサ-ジさんが、湯気を上げている洗面器から掌でお湯を掬い取り、私の足の甲にお湯をかけてくれる。外見とは裏腹に、その所作はとても細やかで女性らしい。お湯がかかった瞬間、少し熱いと感じたが、すぐに熱が大気に逃げていくので全く問題はなかった。逆にこれより低い温度だと、すぐにお湯の温度が下がってしまうのだろう。
お湯をかける度、マッサージさんはその女性としては大き過ぎる手で、私の足の側面や土踏まずの辺りを指圧してくれる。想像通り、力が強い。時に指の第二関節をグリグリと円を描くように足裏に擦りつける。隣のベッドに腰かけている美波さんも、同じように足の裏をマッサージされている。どうやら足から始めるのがこの国ではお約束のようだ。
「足から始めるのは、うちの店と通じるところがありますね。足裏にはツボが集中してますからね。なかなか効果が期待できます。さすが本場ってところですね。でも、このマッサージさんはコンマミリ単位でツボを外す傾向にあるようです。技術的にはまだまだという感じです」
声の聞こえた美波さんの方に視線を送ると、実に心地良さ気な顔をしている。
コンマミリ単位でツボを外しているとはいえ、やはり足裏マッサージとは心地よいものなのだろう。
そう言えば、初めて美波さんの店を訪れた時、症状は肩凝りだというのに、何故か足から施術を始めた。そして僅か10分かそこらの時間で、長年の私の悩みであった肩凝りを見事に退治したのだ。当時の私には、その施術は正に魔法だった。
「菊元さん、特に痛みは感じてませんか?」
はい、今のところは感じません。アマゾネス嬢が凄い力なので圧迫感は半端ないですが。
「それだけ強く押されても痛みを感じないということは、いま菊元さんの体には特に悪い箇所がなさそうですね」
たぶん、それも美波さんのお陰です。もう半年以上肩凝りの症状が全く出てきません。
あの頃はきっと体のあちこちが調子悪かったのでしょうね。
足裏を万遍なくマッサージされた頃、洗面器のお湯がかなり温いと感じるようになった。
申し合わせたように二人のマッサージ師が、洗面器を持ってお風呂場に消えた。
お湯を使った足のマッサージが終了したようだ。程なくしてマッサージ師がベッドに戻ってくる。
アマゾネスマッサージさんがベッドに腰を下ろしている私の後方に移動した。美波さんの側の丸顔マッサージ師さんも同じ位置取り。私の予想では、これからストレッチ系のマッサージが始まるのだろう。私の足元にしゃがみ込んで足裏を揉んでもらっている間、視界に入ってくるロケットおっぱいがずっと気になっていて正直目のやり場に迷っていたのだが、これで少しは落ち着くだろう。
アマゾネスさんが私に両手を頭の後ろで組むよう促す。もちろん言葉は通じないが、表情とボディランゲージでちゃんとそれが伝わる。いよいよ胴体をねじ切られかねないストレッチが始まる。あれ?痛いときには何と言えばいいんだったっけ?
その時アマゾネスさんが私を後方から抱きすくめた。
(うわ~~、元男性に抱きしめられてる~~ぐぇっ!!)
私の体に巻き付いている両腕が作る輪を“キュッ”とアマゾネスさんが縮めるや、背中の筋肉が“ボリボリッ”って感じの音を立てた。そして左右に捻じられる。(ぐぇ~~~)。
「菊元さん、痛かったら“ジェッ”ですよ、“ジェッ”」
(ぐぇ~~~)とはなるけど我慢できないほどの痛さではない。思った以上に私の体が捻じれる。(もうダメ)ってところからもさらに体が捩れる。
「さすがに若いだけあって体が柔らかいですね、菊元さん」
はい、自分でも意外と柔らかいじゃんって思いました。あの~~そんなことより・・・
「あの~~美波さん、さっきから背中に固いものがずっと当たってます」
一瞬、(んっ?)って怪訝な顔をした美波さんだったが、すぐに何かを察したようだ。
「はい、タイのオカマさんってキン〇マは取るんですが棒の方が残すらしいんですよ。そのことに価値があるようです。どういう価値観かは分かりませんが。そしてこれも不思議なんですが、キン〇マを取ってもちゃんと勃起機能は残るらしいです。男の性ですね。元だけど。どうやら菊元さんにちょっと興奮されたようですね。そのアマゾネスさん」
へ?一体何の話してますか?美波さん??んっ、キン〇マ?勃起??あっ!!
美波さんの言ってることの意味が分かって、少々私は慌てた。カ~と顔が熱くなる。
そうじゃなくて今私の背中に当たってる固いものは・・・
「そうじゃなくて多分当たってるのはおっぱいです。メッチャ固いです。ちょっと背中が痛いくらいに・・・」
「ああ、なんだ。そういう事ですか。どうやら安物の豊胸手術を受けたようですね。では私がクレームを代わりに伝えましょう。え~~と・・・」
伝えましょうって一体どうするのでしょう。美波さんの英語能力は、きっと私以下ですよ。もしやタイ語なら話せるとか。別にクレームって訳でもないです。どうかあまり無茶はなさらずに・・・
「ユア・フェイク・おっぱい・・・ベリー固い。固い?う~~ん、フェイク・おっぱい・・・ノーソフト・・・ビコーズ・・・彼女の背中、ベリーベリー、ジェッ、ジェッ・・・」
(おっぱい)のところで美波さんは自分の胸の前辺りに掌を当てて、おっぱいの形を表現した。英語自体はハチャメチャ。よっぽど私が英語で話した方がマシってレベルだ。
それでも恐ろしいことに、カタコト以下のこの美波さん英語&タイ語がアマゾネスマッサージさんに、しっかりと伝わってしまったのだ。
私の後方で、アマゾネスさんが気分を害したのがすぐに分かった。そりゃ~フェイクおっぱいのフェイクは余計でしょう。たぶん事実なのだろうけど。
そして一気にアマゾネスさんのストレッチに力がこもった。バキバキバキと背骨が鳴る。
「ジェッ、ジェ~~~~!!!」
自分の背骨が軋む音をかき消して、私の渾身の悲鳴がツインルームに響き渡った。




