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乙女のピンチ(ゴルフ編3)

今回の内容は、ゴルフやる人からはお金取れるような内容です。たぶん・・・


自分でもびっくらこいた会心の一打のあと、(もう一球打ってみましょう)と促された次打も、140ヤードの看板をド正面から直撃するナイスショットとなった。美波店長の言葉通り、これは魔法だ。魔法以外の何ものでもない。

ボールを見ないこと。それがナイスショットのコツだなんて、語ったところで一体誰が信じるだろう。


「はい、じゃあ、今度はティッシュなし。普通に打ってみましょうか」


はい、大丈夫です。もう自信満々です。ボールを(ぼ~~)と見つめるのがコツですね。

加奈、行きまーす。


(カシュッ)


おや~、一応前には飛んだがジャストミートとは程遠い薄いヒット。最前(さいぜん)の2球とは比べるまでもないヘナチョコショット。あれ、なんで?どうして??


「うん、まあ、そうでしょうねぇ」


意外やこうなることが予(あらかじ)め分かっていたような美波店長の口振り。コツを掴んだはずなのに一体どうしてなのでしょう?


「見えないものを見ないのは簡単です。見えるものを見ないようにするのは、言うほど簡単じゃありません」


おぉ、何だかこれからの人生に活きてきそうな含蓄(がんちく)あるお言葉。いや、でも、美波店長のアドバイス通り、(ぼ~~)っとボールを見つめてたのですけれども。決して凝視するようなことはしなかったはずです。


「それでもボールを見にいってます。でも、それは仕方がありません。例えば入学試験に臨むお子さんに、(緊張しないように)ってアドバイスしたところで、アドバイスになりません。ここぞという大事な場面では、人は緊張してしまうものなんです。それと同じです。上手に打とうと思えばボールを見てしまうものなんです。それが人間です」


瞬間沸騰の如く有頂天になっていただけに、その反動の落胆はかなり私的に大きかった。

両肩が落ちる。元々からなで肩体型だけど。


「まあ、不調の原因が少しは分かった訳ですから、それほど落胆する必要もないでしょう。いくつかボールを見ない様にする対策を考えてみましょうか」


うわ~、頼りになる。ホントよろしくお願いします。


「じゃあ一個目。まずは打つ瞬間まで、薄目(うすめ)でボールを見てみましょうか。それで打ってみて下さい」


あ、はいはい。え~と、薄目にする、薄目にする。だんだんとボールの輪郭がぼんやりしていく。こんな感じかな。せ~の、えい。


(パカ~ン)


ジャストミートとはいかないが、さっきのミスショットよりは格段に良くなった。この練習を繰り返せばいいのでしょうか?


「少しよくなりましたね。もう一つくらい試してみましょうか。今度は目を瞑(つむ)ってバットを上げて、バットを下ろす瞬間に、ぱっと目を開けてみましょう」


えぇ、いったん目を閉じるんですか。こんな感じでしょうか。

目を閉じた瞬間、なんだか平衡感覚がおかしくなって、少し立っていて気持ちが悪い。

それでもトップまで上げたクラブを、ぱっと目を見開いて打ち下ろす。ボールはここ、えぃ!


(パカン)


う~~ん、さっきとほとんど同じような当たり具合。微妙。


「ボールの飛び方自体は、2球とも似たような感じでしたけど、菊元さん的にはどっちがしっくりきましたか?」


う~~ん、やっぱり目を完全に瞑っちゃうと、何だか体がふわふわしちゃう気がします。


「そうかも知れませんね。基本、目を閉じるということは、自然界で生きる者にとっては致命的な隙を作る行為ですからね。心と体が不安を感じても致し方ありません。でも振り方自体は、目を瞑った方がいい振り方になっていたんですけどね」


ええ、そうなんですか。同じように振ってるつもりなのですけれど。


「目を瞑っている時の方が、動きがゆったりしていました。さて、え~っと、どうしようかな・・・う~~ん・・・ヨシッ」


そんな言葉と共に、何故か美波店長が床の上に直接腰を下ろした。両足を前に突き出す格好で。その挙動はなんでしょう?よくお似合いの綺麗なジーンズが汚れちゃいますよ。ジャージ姿の私がやる分には問題ないでしょうが。


「菊元さんも同じように座って貰えます?できるだけ体の力を抜いて自然に」


あっ、はい、こんな感じでしょうか?

私も向かいに座る美波店長と同じように床に足を投げ出した。(何してんだ、あいつら?)って感じの周囲のゴルファーの視線が少し気になった。


「つま先の向きを見て下さい。どちらもつま先が若干外側に広がってると思います。それでもどっちか一方のつま先が、より外側を開いてるはずです」


んっ、つま先の向き?ああ、右脚がほとんど空(そら)を向いているのに対して、左足はかなり外側を向いてます。


「なんだか左足の方が、より外側を向いてます」


「ふ~~ん、やっぱりそうですか。分かりました。じゃあ立ち上がってまたボールを打ってみましょうか」


んっ、やっぱりって?まあいいか。私は立ち上がってボールをセットしアドレスを取る。


「視線はさっきと同じで薄目で(ぼ~~)っと。でっ、バットを振る時、ほとんど右脚に体重を乗せた状態で振ってみましょうか。右股関節の上でクルンって回る感じです」


ええっ、右股関節の上で(クルン)ですか?それってかなりゴルフスイングの常識からは逸脱するのですけれど。基本テイクバックで右脚に体重を乗せて、インパクトから先では左足に体重が移動するのが良いとされています。


「まあ、練習ですから。一度打ってみてください」


そうですか、じゃあ。えっと、目は薄目です。ボールは凝視しません。振り上げて・・・右股関節に体重、この上で・・・クルン!


(パシュ~~)


うわっ!スーパーを付けていいようなナイスショット。飛んで行ったボールを見失ってしまうほどの球速。ボールどこ?あっ、あれ?すごい遠く。いまボールが超えていったあの看板、150ヤードの標識よね。これっ、ホントに私の打ったショットですか。


「あ~~、今、いい球でましたね。じゃあ次も同じように打ってもらって、打ったあと、その姿勢で止まってみて下さい」


店長さんはポケットから今度はスマホを取り出した。どうやら写真を撮ってくれるようだ。

はい、まずは薄目からのテイクバック、右股関節体重、その場で・・・クルン。


(パシュ~)


またまたナイスショット。いったいが私の体に何事が起こっているの?自分でも怖いくらいだ。あ、このままの姿勢キープでしたね。


(パチャ!)


その時、美波店長のスマホが音を発した。


「はい、ちょっと見て下さい」


液晶画面に映し出されているのは私の会心の一打のフィニッシュの画像。

左脚の上で私の体が真っすぐに立っている。右脚はつま先立ちで足の甲はボールの飛行線方向。クラブが体に巻き付くように振り切られている。あれ、かなりカッコいいじゃないですか。このフィニッシュの写真。


「あれ~不思議ですね~。右脚体重のままで打ったのに、ちゃんと左足に体重が移ってますよ」


あっ、ホンドだ。右股関節の上でクルンしたはずなのに、ちゃんと左脚に体重が移っている。そして自分の写真とはにわかに信じられないほどの格好いいフィニッシュ。そしてナイスショットの連続。これは一体・・・喜びながらもちょっと混乱してます、私。


「自分のイメージしている動きと、実際の体の動きに乖離(かいり)が生じるのはよくあることです。というより、人の動きとは大抵がそうです。本人が想像している以上に体は動いてしまうもの。本人が感じてる以上に力は入っちゃうもの。そう考えて大方間違いじゃないです。特に菊元さんの場合はですね・・・」


はい、私の場合、何でしょう。もう全幅の信頼を置いて聞いちゃいます。


「初めて店にお越し頂いた時、薬指を引っ張って整体したの、覚えてます?」


はいはい、覚えてます。あの時の激痛は今も忘れ得ません。


「菊元さんの体は、薬指の上に体重を乗せて立つのが調子よい骨格なんです。両足の外側に体重が掛かっている状態ですね。履き古した靴なんか、外側から擦り減ってませんか?」


あっ、はい、その通りです。外側から、そして必ず左足からです。そんなことが何で分かるんですか?


「さらに付け加えると、さっき座って頂いた時に分かったことですが、菊元さんの自然体は右脚重心です。さっきのパンチの例でいうと、急に何かがぶつかってこようとした時、右脚を軸に左脚を移動して体を翻(ひるがえ)す動きの方が得意なんです」


美波店長はそう言いつつ、右脚を支点にひらりひらりと体を回した。それは何かの舞のように美しい所作(しょさ)だった。


「外側重心の人は、無意識に外側から外側へ体重を移動させようとします。その結果、内側重心の人に比べて体重移動の幅が大きくなります。左右への体重移動の場合、顔半分くらい移動の幅が変わるほどです」


時間単価数千円のゴルフスクールの講義を聞いているように、私は真剣に聞き入っている。ゴルフスクールなんて通ったことないけど。


「外側重心の人は意識せずとも左右への体重移動は勝手に起こります。むしろ体重移動を一切しないくらいの意識の方が、適切な体重移動になるってことです。さらに菊元さんの場合は右股関節の上って意識が丁度な塩梅(あんばい)な訳です」


もう、(はは~~~)って両手をついて店長の前にひれ伏したいくらいの心境だ。この人は神だ。実は物凄い人なのかも知れない。こんな人の指導を請うているのだ。ナイスショット連発なのだ。もうこれで来週のコンペ、完璧ですよね。私。


「実はもう一つ気になってることがあります」


えっ、次は何か?伺います。是非とも伺いたいです。

次はどんな魔法の言葉が飛び出すのか、直立不動の状態で、美波店長の次のアドバイスを私は待ったのである。それこそ全幅の信頼を抱いて。



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