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えらい活気です(3)

本編完結です。引き続きよろしくお願いいたします。


ここは柔心会本部道場。ときは日曜日の夜7時。


「はいはい、お待ちかね、お揃いのティーシャツが仕上がってきましたよ~~」


ややつやを抑えたオレンジ色のぬの数枚を手にした美波さんの嬉々とした声。私に向けて布を差し出す。ティーシャツ?お待ちかね??私はまるでピンときていない。


“ばっ”と広げられたオレンジの布の中央に描かれている文字の色はパステル調のパープル。ナニナニ、『TEAM- MINAMI』??勢いと流れが感じられる明朝体風。


「シャツ本体の色はそれほど迷いませんでした。お菊ちゃんカラーのオレンジです。文字の色はどうするかって業者に聞かれて、少々迷ったのですが、何でもいいやって感じで、その日の私のパンツの色にしました」


ツッコミたい処は複数あるのですが、まず、そのシャツ何ですか?そして何ゆえ私カラー?


「今回キコちゃんはフリーの選手としてリングに上がるようです。でっ、私達が試合当日にセコンドを務めることに決まりました」


ワタシタチ?・・・今ここに居るのは、美波さんと・・・(キョロキョロ)・・・ワタシ??


「はい、そうです。私とお菊ちゃんと、キコちゃんのコーチの3人です。名付けて『TEAM- MINAMI』とこのたび正式にチーム名が決まりました」


いやいや、絶対おかしいでしょ、それ。


「そうですよね。私も絶対『TEAM-KIKO』にするべきだと主張したんですが、主役のキコちゃんの強い要望ですからね。今回はその主役の意向を謹んで尊重する形を取りました」


ちゃうし。ソコじゃないし。“どすこいお菊”ごときがセコンドってのが絶対へんだって申し上げています。


「だってテレビに映るんですよ。“柔心会って美女揃いなんだ”という今流行りの情報操作です。組織の運営には、それ位のしたたかさが必要です。また一気に会員が増えることが期待できます」


絶対おかしいでしょ、それ。情報操作ってなんですか?よくは知らないですが、セコンドって選手にとって最も信頼に足る、一番近くでアドバイスできる人達が務めるものではないでしょうか?私に一体どんな役割が担えると言うのでしょう??


「そこらのところは、まるでお菊ちゃんに期待していません。そもそも戦いとは孤独なものです。例えどんな大勢の応援団や心強いセコンドが付いていようと、その本質は変わりません。そんな事、私が言うまでもなく、一番わかっているのはキコちゃんです。私も技術的なアドバイスをするつもりなんて、毛頭ありません」


戦いが孤独なものってのは、かなり無理に異議を飲み込めば、まあ、理解できなくはないかなと。いや、それにしてもですね・・・


「会員が増えて、柔心会の収入も増えたのでしょう。最近では整体の店の赤字に関して、母からとやかく言われることもなくなりました。これもお菊ちゃんのお陰です」


いや、私のお陰じゃないし。それに会費の話になると、ちょっとドキッとする。入会してからこれまで、私は一度も会費を払ったことがないのだ。でもって、偉そうに道場では黒帯締めてるし。おっぱいクローしか技ないくせに。他の会員の人達、知ってるのかしら、この事実。


「私達は試合の一週間前から現地入りします。柔心会の埼玉支部で最終調整して、万全を期して試合に臨みます。試合は夜ですから、お菊ちゃんは当日移動でも間に合いますが、一応前日のホテルは抑えています。どうするかはお任せします」


もう既成事実作ってるし。まあ、美波さんの剛腕は今日に始まったことではないが。


「お待たせ~~」


宝塚雪組団員のような渋いハスキーボイスの主は、更衣室から出てきた溝田紀子。

おヘソの出たタンクトップ姿はいつもと同じであるが、その色は艶やかなオレンジ。『TEAM-MINAMI』と胸に紫文字。それにしても凄い腹筋ですね。二の腕も筋張すじっている。顔の輪郭が少しシャープにならはりました?


「うゎ~よく似合ってるよ。そのコスチューム。身体からだも仕上がってきてるじゃない、キコちゃん」


研ぎ澄まされた刃物のような体型の溝田さんに、美波さんがそう声掛ける。


「まあね。でも試合に向けて体を仕上げていくなんて、所詮はアスリートの考え方。“ジョウジュウザガ”武術家の美波なんかからしたら、愚行以外の何物でもないんだろうけど」


ジッ、ジョウジュウ・・・?何ですか、それ?


「“常住坐臥”、平たく言えば“つね日頃”って意味かな。ある日いきなり後ろから刃物で襲われても、美波なんかはちゃんと対処するって事よ。それが武術家とアスリートの違い。私はただのアスリート。美波は生粋の武術家」


はぁ、武道や格闘技やってる人って、よく小難しい言葉使いますよね。大関に昇格したお相撲さんの決意表明なんて、これっぽっちも言葉分かったことがないです。


「まっ、当日はセコンドよろしくね。お菊ちゃん」


実ににこやかな元メダリスト。さらに10倍強い(?)柔心会主席師範様も満足げ。この期に至っては、私なんぞ雑魚キャラが反論できる訳もなく・・・


「毎回ごめんなさいね、お菊ちゃん。でも、なんだか今回はお菊ちゃんに来てもらう方がいいような予感がするんですよ」


私が役に立つシチュエーションって、あるのかしら。一体何が起こることを予感しているのでしょう?その予感の根拠は何なのでしょう?


「武術家のただの勘です」


はぁ。試合まで3週間。

どすこいお菊、またまた巻き込まれました。はい。




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― 新着の感想 ―
[一言] おきくちゃん、今度は大会に……!セコンドなのでまさか試合で戦う、ということはなさそうですが、果たして彼女は大丈夫なのか、そしてこの小説初の関東行きですが、それも大丈夫か、とっても気になります…
2023/03/13 14:26 退会済み
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