えらい活気です(1)
新章突入です。今後とも宜しくお願いします。
早春の候、皆様に於かれましては益々ご清祥のことと・・・なんちゃって。
空気が凍るような寒さを覚える朝は、3月に入ってから只の1日もない。例年よりも温かい春になるという気象庁か何処かの予想は、今のところ当たっているようだ。
巷では、もうすでに花粉症でお悩みの方も多いと聞くが、私はこれまで、この黄色い粒粒に悩まされたことは一度もない。いい意味で鈍感な体に産んでくれた両親に感謝ってところだ。
さてさて、温かいどころか激熱なのが柔心会本部道場の稽古風景。例えば先週のそれを回想すると、凡そこんな感じになる。
柔心会本部道場の会員が約30名。西宮サークルとその関連の人が20人近くは稽古に参加している。
道場の中央付近で、あのオリンピックメダリスト溝田紀子が、テラテラに光る黒のコスチュームでスパーリングに励んでいる。相手は西宮サークルの伝手でお呼びした男性プロ格闘技選手数名。いったい何なんだよ、貴方たちのその体。普通は皮と肉の間に脂肪ってものが存在するのが人間ってもんでしょう。無いでしょ、脂肪。冬とか寒くないですか。
一方で、こちらも熱を帯びているのが小山順一氏のスパー。向かい合うは“何とかウルフ”って言う名門ジムから呼んだスパーリングパートナーらしい。こちらも西宮さんと交流のある若いプロのキック選手。この兄さんのキックの迫力がえげつない。肉と肉、骨と骨がぶつかり合う音を聞くと、思わず(キュン)って脚が内股になる。
そんな若手現役プロキック選手の攻撃を、小山氏は相当苦労しながらも、どうにか捌くのだ。捌いては隙を捕えて寝技に持ち込む。そうなると、もう氏の独壇場である。氏の年齢を考えると、このことが実は一番えげつないかも知れない。
でもって、そんな2人に負けず劣らず熱いのが、他でもない美波さんなのだ。
溝田紀子に対して声を荒げることはないが、頻繁にアドバイスの類の声を掛ける。溝田紀子も、この美波さんのアドバイスを真剣に聞き入る。
一方で、実のお父さんに対してはまるで容赦ない。小山氏が相手のパンチやキックを数発喰らおうものなら、甲高い怒号が飛ぶ。いくつか例を挙げるとこんな感じ。
「距離の取り方が中途半端だから、貰わなくていい攻撃を貰うのよ」
「守りから攻撃への移行が遅い。年寄り過ぎる」
「いったん倒したら死んでも放すな。死ぬ覚悟が足らないんじゃない?」
等々。ここだけを切り取ると、実に険悪な親子関係のように映るかもしれないが、そうではない。2人の間に、なんていうのか、そう、愛が感じられるのだ。2人の確執を知っている私としては、不覚にも涙が溢れてしまいそうになる厳しくも温かい親子愛なのだ。
道場に入ることが許されたテレビカメラが追うのは、もちろん溝田紀子の練習風景。やっぱり知名度が違う。そのついでって感じで、小山氏の練習も数コマ。
そうそう、これは自慢していいだろう。
プロ選手とのスパーリングがひと段落ついた溝田紀子に声を掛けられたのだ。
「菊元さんでしたっけ。初めてお会いしたときは黒帯じゃなかったですよね。黒帯になったんですね。それじゃあ、軽くスパーの相手、お願いできます?」
えぇ、私なんかがメダリストとスパーなんて。とてもとても恐れ多すぎます。弱りに弱った私であったが・・・
「折角だから教えてもらいなさいな、お菊ちゃん」
そんな鶴、というか美波さんの一言で、私はオリンピックメダリストと組み合うこととなったのだ。結果は推して知るべし。組むとほぼ同時に投げられた。何度も何度も。自分でもビックリなのが、元柔道メダリストの投げ技を受けても、怪我とかまるでしないのだ。もちろん投げ方も上手いのだろうか、そこは受け身専門お菊の本領発揮と言ったところだろう。
面白いと思うのは、組めばすぐに投げられちゃう結果は同じでも、投げられる感覚というか投げ技の質というか、それが美波さんと溝田紀子の技とでは、微妙に違うのだ。
(あれ?)って感じで、訳も分からず投げられてしまう美波さんの技。(うわっ!)て感じで、恐ろしい程のキレを感じさせる溝田さんの技。う~~ん、うまく説明できん。でも、まっ、そんな感じなのだ。
ああ、それからそれから・・・年末に私と死闘(?)を繰り広げた西宮サークルのナガサキさんとも、このタイミングで再会した。笑顔で私に駆け寄ってきてくれたナガサキさんの顔は、たったの3カ月で、ビックリするぐらいお姉さんになっていた。持前の巨乳との相乗効果もあって、それはそれはいい女に成長していた。
一度彼女に(寝技を教えて下さい)なんてお願いをされちゃったが、おっぱいクロー以外の寝技を、私は知らない。どうやってこの危機を切り抜けたのか、よく覚えていない。
でもって、ナガサキさんと牧野さんのスパー。これが痛快だった。ナガサキさんの繰り出す速射砲のような攻撃で、色ボケ牧野がタコ殴りになったのだ。年末私に降りかかった惨劇を、この際思い知れ。
6月が近づくにつれて、この熱気と活気は、ますます高まっていくのだろう。
毎年のように寒い季節に私を悩ませた肩凝りは、嘘のようにまるで出現する気配がない。
それでもやっぱり春が待ち遠しい。そんな風に、私はいま思っている。




