わたし、他流試合に出る(1)
新しい章です。今回もよろしくお願いします。
12月第2週目の金曜日、稽古後のことである。
「さてさて、一昨年去年と残念なことにコロナの影響で中止になった西宮カップ。先方から申し入れがありました。今年はやりますよ~~~」
美波さんのその言葉に反応し、“うぉ~~!!”って歓声が、30人を超えている道場生から湧き起こる。んっ、何ですか、その西宮カップって?牧野さん、教えて下さい。
「技術交流会ですよ。うちと親交のある“西宮格闘技サークル”ってところと、毎年年末に技術交流会って名目で、一緒に練習するんです。でっ、最後にそれぞれ何人か代表を出して、対抗戦の乱取りをやるんです。これが毎回すごく盛り上がるんですよ。ここ2年はコロナの影響で中止になったけど。今年はできるみたいですね」
西宮格闘技サークル?なんか聞いたことあるぞ。どこでだっけ。あっ、タイでリングに上がった美波さんがヤナギさんから受け取っていたキックパンツ。お尻の部分に描かれてた文字が確か・・・
「もともとはプロの格闘技選手だった人が始めた格闘技サークルらしいです。学生さんが多いんですが、けっこう年配の方もいらっしゃいます」
そう言えばヤナギさんも、以前所属してたって言ってたな。たぶん50才オーバーのヤナギさんが所属してたってんだから、幅広い年齢層の方がいらっしゃるのでしょうね。
「けっこうレベル高いですよ。なにせ元プロ選手の立ち上げたサークルですからね。これまでの交流戦も、勝ったり負けたりです」
それは確かに盛り上がりそうですね。お互いのプライドを賭けた戦いですから。都合が付けば、私もその日は練習に参加して、我らの代表を応援するとしましょう。
「さて、恒例の代表戦ですが、我こそはって人はいませんか~?」
誰も手を挙げない。う~~ん、まあ柔心会を代表して戦う訳ですからね。プレッシャーも相当なものなのでしょうね。
「ああ、それから、これも時代の変化ですね。1試合、女子の代表戦の提案がありました。そうなってくると、我らの代表は、自ずと牧野さんかお菊ちゃんってことになるのですが、どうします?」
なっ、なんですと~~!!ムリムリ、私は無理。自ずと代表は牧野さんでしょう。道場では先輩ですし。自明の理でしょう。決定でしょう。余地なんて無いでしょう。
「あっ、私、その日は不参加です。欠席です」
ちょっ、ア~タ、何をふざけてるんですか、牧野さん・・・怒!
「その日、数日前倒しのクリスマスパーティーなんですよ。彼氏と」
オイ、たいがいにせぇよ。色気づくのは10年早ぇんだよ。まずは代表として戦ってから、その後ゆっくり男とチチくれ!この色ボケ24才!こちとら20代色恋沙汰ナッシング31才だぞ。“聖なる夜”を“性なる夜”とはき違えるな!コラッ!怒・怒・怒・・・
もちろん私の牧野さんに向けた心の罵声は、センテンスになってアウトプットされはしない。でも、気付け!聞け、心の耳で!!
「はい、そう言うことなら、我らの女子代表は、“ドスコイお菊”という事でいきましょうか。まずは一名、代表決定と・・・」
み、美波さんまで、何を仰せられるか!恥かきますよ、私なんかが代表になると。歴史と伝統ある柔心会本部が。
「ドスコイお菊、頑張れ~」
「ミミミ~~オイサホ~って、ぶちのめしてやれ~~」
五月蠅い、ダ~~トレ!!この外野ども。
「オ~キ~ク~、お~菊!!」
期せずして沸いた“お菊”コールに頭が真っ白になる。
いまお菊コールを始めたヤツと牧野の色ボケ、いつかブチのめす。そんなことが、私にできればだけど。




