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短編

光を食む

作者: 赤井夏

 光がまんべんなく差すあたたかな海の下に、大きな波打った口を開ける者がいました。その名はオオシャコガイと言います。

 オオシャコガイはその名のとおり、とてもとても大きな貝です。

 オオシャコガイは雲がじゃまをしないかぎり、光がさんさんとふり注ぐとっておきの場所に、いつまでも居座っているのです。

 おかげで体のそこかしこに()がへばりついており、それどころか口の中にもたくさんの()がくっついているのですが、オオシャコガイはそんなことはてんで気にしません。ずっと口を開けたままたくさんの陽の光を浴びるだけです。

「やあおはよう。ごきげんはいかがで?」

 そう声をかけたのは、オオシャコガイのなじみのきいろいチョウチョウウオでした。

「やあどうも。あいかわらずあたたかい日ざしが気持ちよいかぎりです。きっとうちの子らも陽をたらふく食べて幸せでしょう」

 オオシャコガイは大きな口をゆさゆさとゆらして笑いました。

 かれの言った「うちの子ら」とは、オオシャコガイの口にへばりついている()のことです。

 オオシャコガイは()を安全な自分の口の中に住まわせてやるかわりに、かれらの食べた陽の光の栄養を分け前としてもらっているのです。いわばオオシャコガイはかれらの主人といったところです。

「あっそうそう。今日の夕方から西のテーブルサンゴで、コバルトスズメ一座のオペラがあるのです。コバルトスズメときたら、あざやかな青色が美しいのなんの。空を切り取ったってかないませんよ」

 チョウチョウウオがうきうきとした様子で言いました。

「はっはっはっ、またご冗談を。あの空よりも美しい青色なんてあるもんですか」

 オオシャコガイは大きな口をぱくぱくさせながら笑いました。

「ほんとうですとも。なんなら今日いっしょに見にいきますか。きっとおどろいて開いた口がふさがりませんよ」

 チョウチョウウオは小さな胸びれをぱたぱたとはためかせながらオオシャコガイの周りを泳ぎまわりました。

「またまた分かっているくせに。私は行きませんよ」

 オオシャコガイは空をながめたまま言いました。

「おっと失礼。まぁ、あなたの分までたっぷりと楽しんできますとも。明日のみやげ話を楽しみにしていてくださいな」

 そう言ってチョウチョウウオは青い水の向こうへと姿を消しました。

 オオシャコガイには足がありません。子どものころからずっとずっと、たっぷりと光が差すこのとっておきの場所で、一歩も動かずに大口を開けて過ごしているのです。オオシャコガイにとっては真っ青な水と、その先の先に見えるあたたかな太陽が世界のすべてです。

 でもオオシャコガイはちっとも寂しくも、つまらなくもありません。あのチョウチョウウオのような友達が、さも楽しい楽しい夢物語(あくまでオオシャコガイにとってはの話ですが)を聞かせてくれますし、可愛らしい()の住人たちがいますし、なにより昼はあたたかな太陽に見守られながらうとうととし、夜は水にたゆたう月をながめているだけで満足なのです。

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