花咲か爺さん (もうひとつの昔話34)
飼い犬のシロを隣の家の欲ばり爺さんに殺されてからというもの、花咲か爺さんのところのお婆さんはすっかり落ち込んでいました。
ある日。
お婆さんに元気になってもらおうと、お爺さんは一匹の子犬を家に連れて帰りました。
「犬をもらってきたぞ」
「まあ、あいらしいこと」
お婆さんはとてもうれしそうです。
二人はその子犬をポチと呼んで、シロと同じようにかわいがりました。
そんなある日のことです。
お爺さんが畑仕事に向かっていると、ポチがいきなり地面に向かって吠え始めました。
「ポチ、どうした?」
ワン、ワン。
ポチはなおも吠え続けます。
お爺さんは地面の下に何かが埋まっているのだと思い、そこをクワで掘ってみました。
「わっ!」
お爺さんは腰を抜かしそうになりました。
なんと土の中から、行方知れずだった隣のお婆さんの死体が出てきたのです。
――欲ばり爺さんが殺して埋めたんだ。
お爺さんは家に走って帰ると、先ほど見たことをお婆さんに話しました。
「どうするかのう?」
「あの欲ばり爺さんにかかわると、またとんでもない目に合いますよ。見なかったこと、知らなかったことにしましょうよ」
「そうだな」
お爺さんはすぐさま現場に戻り、隣のお婆さんの死体に土をかぶせたのでした。
その帰り。
お爺さんは欲ばり爺さんを見かけました。連れ合いを殺したというのに、なに食わぬ顔をしています。
お爺さんは欲ばり爺さんに声をかけました。
「婆さんは帰ってきたかのう?」
「それがな、もう三日も家をあけたままなんだ。いったい、どこに行ったのだろうな?」
欲ばり爺さんが首をかしげてみせます。
――自分の連れ合いを殺しておいて、よくも平気な顔でいられるもんだ。
お爺さんはそう思いましたが、
「そのうち帰ってくるさ」
そう答えて、その場をやり過ごしました。
家に帰ったお爺さんは、欲ばり爺さんのことがどうしても許せなくなってきました。
「やはり、お代官様に知らせようと思うんだ。人殺しは許せんのでな」
「お爺さんがそこまで言うなら止めませんけど」
お婆さんもうなずいてくれました。
翌朝。
お爺さんはお代官様の屋敷に向かいました。
その途中、隣のお婆さんが埋まっている場所にポチが血を流して倒れていました。
「ポチっ!」
お爺さんはポチにかけ寄りました。
土が掘り返されているところからして、ポチは死体を掘り出そうとしていて、何者かに殴られたのだと思われました。
――よくもポチまで……。
欲ばり爺さんの顔が思い浮かびました。
と、そのとき。
「ポチもお爺さんも首を突っ込み過ぎなんですよ」
お爺さんの背後で声がしました。
振り向くとそこには、頭上にクワを振り上げたお婆さんがいました。