(サブタイトル未定)
帝都ストライザ。
皇帝治めるこの帝国はあるニュースで持ちきりだった。
「皇帝第一子アルト殿下、ついにご成婚! なんとお相手は宿敵オアリム教国の聖女フロリア様!」
新聞屋が号外を配り、吟遊詩人が声高らかに歌い上げ、都のそこかしこで色とりどりの花がばらまかれる。
僕はそんな帝都の中を無言で歩き回っていた。
お祝いムードで屋台の肉串がタダなのを良いことに一本口に頬張り、店主にお礼を言って足早に進む。
夕暮れだ。
街灯が点滅し始めた。そろそろ夜の帳に包まれるのだろうが、まだ時間には猶予がある。
僕は目的地の看板を確認すると、黙って押し開いた。
冒険者ギルド。この国どころか人類が根を張るところ冒険者ギルド有りと言うほどに世界中に支部を持つギルド。かく言う僕もその一員だ。幸か不幸か、二つ名まで付けられている。
僕の名はシグル。
人呼んで『幸運』のシグルだ。
「やあシグル。こんな日にどうしたんだい? 他の皆はとっくに飲みに行ってるっていうのに」
胡散臭い営業スマイルを浮かべるのは、顔馴染みの受付員ヨーゼフだ。
「すまないけど皇太子殿下のご成婚だからって怠けられるほど余力があるわけじゃないんだ。早速だけど仕事の完遂報告だ」
「やれやれ。せっかちさんは仕事熱心だなぁ。……よし、できたよ。はい、報酬」
金貨を確認するとアイテムボックスに放り込んだ。神がきまぐれに人類にもたらした特殊技能の事を通称スキルというが、アイテムボックスはとりわけ珍しいスキルのうちの一つだ。僕は依頼ボードを一瞥して、冒険者ギルドを後にした。