ナナシノカノジョ
「で、君の名は?」
今更ながらそんな事を彼女は聞いてきた。それは出会った時に言うべきだろうと僕は思う。
僕の本名はなんて言ったのかよく覚えていない。ただその頃、彼女が僕の名前を聞いた時は「平凡ッ!」と吐き捨てた為、面白味が無いらしい。
「じゃあ、逆に君の名前は?」と問うと彼女は少し「うーん」と自分の頭を指でコツコツ突いた後、
「無いや、私に名前は無いね」鈍い衝撃が僕の神経に掛け走った。
「え、無いんですか! 名前? 大体の人は持ってますよ!」と僕が興奮気味に演説じみた早口で喋る。そんな僕を彼女は鷹みたいな鋭い目付きで睨んでいた。
「大体に含まれてない人はどうなるのさ? みんながみんな名前があると思うなよ?」彼女にはドロドロした行き場のない怒りが無言の内に広がった。
地雷だったらしく彼女は相当腹を立てていた。彼女が怒りのあまりお盆で殴りかかられる前にとにかくなだめる事をすべきと理解した。
「ゴメン、そこまでは考えてなかった、ほんとゴメン」落ち着かせようとしても良い言葉が思い付かない。
「んで? それで鎮まるとでも? この脳足らず」
ダメだった。気にしてる所を指摘されたら誰だってなるだろうに。そこを考えて言うべきだったと今更ながら後悔していた。
彼女がだいぶ落ち着いた頃に名前の話をもう一回した。今度は柔らかに話した上で。
「君に名が無いのなら作ってつけるってのは?」と僕が提案すると、
「へぇ、興味深いね。どんな風になるだろうねぇ?」と台詞に反して割とどうでもいいと口調と表情から察せた。自らの事など何とも思っていないのかと思っていた。そして実際その通りである事を後程証明させられた。
「そうだなぁ…………『タト』って言うのは?」個人的には名案だと思っていたが彼女の返答は
「拒否する、そんなキラキラネームなんて要らない」中々辛辣であった。その後も「親はたまに馬鹿としか言えない名前を出すんだ! なんだ『礼』と書いて『ぺこ』とか、脳味噌無いかと思う程だぞ!」とか言う具合に猛抗議していた。
じゃあ名前を何にするんだい?と僕が問うと、彼女は
「ネット漁ってから考える」あまり懸命な策とは言えないが、まぁそれでいいんだろうと僕は思う。あとあるんだ、ネット。