二つの道
「まぁ、こんなクソ寒い所で立ち話もなんだしお上りなさって」
そんな事を彼女は言った。先程の言動で警戒しない筈は無い。先程もらった回転式拳銃を手に持ち小屋へ入った。死ぬ為の手段を使って身を守るとは飛んだ皮肉だと思う。
彼女の小屋の中は、ホコリは溜まってないが整理整頓が出来てない。ベットの上にはシワだらけの布団に少し黄ばんだ猫のぬいぐるみが居座り、居間には山積みになった本や辞典が占領しており、ホコリ被ったノートパソコンが机の上に鎮座していた。
「今、なんか飲み物でも入れてくるから待ってて? そこらにある物触るなよ?」
彼女は強めの口調で言って奥の部屋に入っていった。
周りを見ると山積みにされてる小説は大衆文学とか純文学とかライトノベルなどジャンル問わず置かれていた。どの本にもしおりが挟まっているから読みかけだろう。
ベットの周りも見てみると、勉強机と本棚があった。勉強机の上には古めかしい蓄音機とレコードの入れ物、あと筆記用具。本棚にはしおりの無い小説や図鑑などがあった。恐らく読み終わった本や読んでない本はここに置いてあるのだろう。
ベットの上は猫のぬいぐるみと枕、布団に彼女の寝間着が大雑把に置かれていた。彼女の寝間着と布団、ぬいぐるみには爽やかで甘い匂いがした。
しばらく彼女の私物を見ていると彼女が戻ってきた。お盆に茶菓子と湯呑みを乗せて、慎重に歩みを進めていた。少し愛らしさを覚える。
彼女は寝台の前にいる僕を見て、
「ヘェ、そんな趣味なんだぁ、ヘンタイ」
軽蔑する様な笑みを浮かべてそう吐き捨てた。僕は何も言わなかった。いや、言えなかった。
ちょうど置いてあった机の上に湯呑みと茶菓子をゆっくり置いた彼女は軽く息を吹いた。そして置いてあった椅子にドカリと腰掛ける。中年くさく感じた。椅子から離れずに湯呑みを手に持ち話し始めた。
「で、異世界転生する為に脳髄ブチまけるが良いか、ここでズルズル生き永らえるが良いか、好きな方を選べ」
彼女の笑みは歪んだものでは無かったが、人を食ったような、悪戯っ子じみた笑みを浮かべていた。
道は二つある。一つはもう一回死ぬ。一つは得体の知れないこの少女と暮らす。どちらにするかはもう決めた。
「…………二つ目にします。二回目の死は嫌ですからね……」
送られるならまだしも、また死ぬのは嫌だ。僕はもう腹を括った。
思いのほかアッサリと事が進んだ。拍子抜けというか何というか。