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友情パワーで大逆転です!①

 それはノクトベルの収穫祭が終わり、聖学院の授業が再開した日のことだった。


「フランは、やっぱりこのまま神聖魔法の勉強を続けたいかしら?」


 ロミリアはふとフランにそんなことを尋ねた。


「? はい。できれば、もっと神聖魔法をちゃんと使えるようになりたいって思っています」


 フランは一瞬疑問に思ったが、ロミリアは常に多忙の身だ。

 収穫祭に魔神が現れたことで、その多忙に拍車がかかった可能性にすぐに思い当たった。


「やっぱり、お忙しいんでしょうか……」


「ごめんなさい。そういうことじゃないのよ。ただね……」


 ロミリアはフランの瞳をじっと見つめ、一つため息を吐く。


「私が迷っていちゃダメよね。――フランソワーズ・フラヴィニー、あなたはなんのために神聖魔法を覚えたいと思っていますか? 信仰や理想のことは今は置いておいて、あなたの正直な気持ちを教えてほしいの」


「正直な気持ち……? それはやっぱり、エリナの役に立ちたいから……になってしまうと思いますけど……。あ、こういう利己的な理由だとやっぱり――」


「いいえ、大丈夫よ。誰かの役に立ちたい。誰かを護りたい。それはとても立派な理由だし、リデルアムウァが掲げる慈愛の心にも適うものです」


「よかった……」


 フランはホッと胸を撫でおろした。


「だけどね、フラン。あなたも出会ったように、魔神が現れてしまいました」


「はい」


「目的はまだわかりませんが、魔神たちはすでにエリナが『魔王の娘』だと認識している……。つまり、今後エリナが騒動に巻き込まれる可能性がこれまで以上に高まったということなの。それはわかるわよね?」


「はい。だから私ももっと神聖魔法を覚えたいと思っているんです」


 ロミリアはうなずき、少し悲しげな表情でフランの頭に手をやった。

 そして、その栗色の髪をゆっくりと撫でる。


「エリナ自身やカナーンに任せるというわけにはいかないのね?」


 神聖魔法を学ぶことを諦めさせようとしているのだろうか?

 質問の意味を今一度咀嚼し、冷静に考えてからフランは答えた。


「私が神聖魔法に目覚めていなかったら、もしかしたらそうしたかもしれません。でも、私は神聖魔法が使えます。癒やしの力も、護りの力も……。そして、エリナもカナちゃんも戦えば怪我をします。その怪我を癒すことも、怪我をする前に護ることもできるんです。私たちは大の親友です。私にできることがあるのに、しない道理はありません」


 ロミリアはゆっくりとうなずき、口を開く。


「わかりました。フラン、これまでは聖句や祈る際の心のあり方などを教えてきましたが、これからはそれと平行して、もう一つ大事なことを覚えていってもらいます」


 その真剣な表情に、フランはコクリと喉を鳴らした。


「それは、『回復役はどう立ち回るべきか』ということです。それが、どういうことかわかりますか?」


「……ええっと……いえ、わかりません」


「例えば、そうね……。あなたたち三人に強力な炎の魔法が迫っています。咄嗟に水の防御魔法を唱えようとしますが、一人分しか間に合いそうにありません。フランならどうしますか?」


「エリナに水の防御魔法をかけます!」


 それまで慎重にロミリアの質問を吟味してきたフランが、この質問には間髪を入れずに即答する。


「不正解」


「えええ~!?」


「正確には細かい状況にもよるのだけど、これだけはしっかりと覚えてちょうだい。『回復役がいなくなったら、もう誰も回復させることはできない』」


「っ!? じゃ、じゃあ……今の正解って……」


「そう。あなたはあなた自身に水の防御魔法をかけなければいけないの」


「でも、私はエリナやカナちゃんを護るために……」


「そうね。でも、エリナが救えても、炎の魔法であなたが瀕死の重傷を負って、神聖魔法が使えなくなるかもしれない。逆に、エリナやカナーンが瀕死の重傷を負っても、あなたが無事なら二人を回復させることができるの」


「でも……それは……」


 言っている意味はわかる。

 だが、それでも、フランはその意味を中々呑みこむことができずにいた。

 エリナのためなら自分を犠牲にすることすら厭わないつもりのフランだったが、エリナのためにむしろ、その逆をするように言われてしまったのだ。


「……つらいわよね。私もね、はじめは自分の身がどうなっても、仲間たちが助かるならそれでいいと思っていたの。だけど、それはただの自己満足だって怒ってくれた人がいてね」


「自己満足……」


 そうなのだろうか? 疑問にも思うが、胸に突き刺さる鈍い痛みもフランは感じていた。


「それを言われた時はショックだったわ。でもね、私はそれで自分の考え方を改めたの。その結果、どうなったと思う?」


「あ、そうか……。魔王討伐に成功したんですよね……」


「少し違うわ」


「え?」


「私たちは、生きて帰ることに成功したのよ。魔王討伐のために魔王の城に乗りこんだ六人全員が、ね」


「!!」


 生きて帰ること。

 確かに、それ以上の成功はなかった。

 エリナを護ると即答したフランだって、なにもカナーンを見捨てたいわけではない。

 だが、ロミリアの話は、仲間たちをすべて救ったという究極の成功例だ。

 もちろん、それを学んだからといって、ロミリアのように上手くやれるとは、フラン自身も思っていない。

 だけど、それでも――。

 フランはその時改めて、『ブレナリアの聖女』ロミリア・ユグ・テア・バージに直接の教えを賜れる幸運を神に感謝した。


        ※ ※ ※



「あぶ、なかった……」


 フランは爆発の衝撃で地面に転がったまま、自らの負傷具合を確認していた。

 熱による火傷と、爆発による裂傷が身体のあちこちにあるのがわかった。

 ――だけど、私は生きてる。まだ動けるし、神聖魔法も唱えられる。

 プロシオンの指先を向けるだけの爆発に、フランが対応できたわけではない。

 だがフランは、この場に到着した直後にはすでに、『ホーリー・プロテクション』を自身にかけていた。

 爆発で負傷したリエーヌに治癒魔法をかけるより前に、である。

『敵は攻撃できる範囲に回復役がいたら、まずそれを攻撃するわ。だから、敵が攻撃できる範囲には立ち入らないことが大前提。だけど、魔法や弓矢などの遠隔攻撃もあるから、どうしても敵の攻撃範囲内に入らないと仲間の支援ができないということの方が多くなる。だからまずは、自分の身を護るために防御魔法を使いなさい』

 そんなロミリアの教えが、さっそく生きた形だった。


「コイツを喰らいな! 『フリージング・ツイスター』!」


「また勝手に……もう仕方ないわね。『ライトニング・バインド』!」


 プロシオンは、アラヤとマナと名乗る二人の少女が相手をしている。

 フランは彼女たちをはじめて見たが、幼いながらかなりの手練れであることは見てとれた。

 エリナとカナーンも、深刻なダメージを被ってはいても、その身体は動いており、なんとか立ちあがろうとしているようだ。

 今すぐ飛び出していって治癒魔法をかけたい気持ちをぐっと堪えて、フランはまず、自分自身を回復させた。

『場合によっては死んだふりも有効よ。卑怯な手だと思う人もいるでしょうけど、騎士同士の決闘でもない限りは、そんなことは気にしなくていいわ。大事なのは、回復役が生き残ること。そのためには、敵を騙してでも攻撃を自分に向けさせないと言うのは一つの手段となるわ。場合によっては、仲間たちすら騙すことになってもいい。特にエリナは単純だから、こっちが死んだふりをしていても、普通に話しかけてきそうでしょ?』

 その光景を鮮明に思い描いてしまい、フランは口元に小さな笑みを浮かべてしまった。

 だが、現実のエリナにはこちらに話しかける余裕すらない。

(でも、大丈夫。笑えるくらいには心の余裕ができた)

 エナンジー姉妹も奮戦しているようだが、プロシオンにはまだまだ余力が残っているように思える。

(順番を間違えないようにしないと……)

 その時、フランのすぐそばで、黒く長いスカートがはためいた。

 見あげると魔力を使い果たしたはずのリエーヌが、決然とした様子で立ちあがっていた。

 エナンジー姉妹とプロシオンの戦いに注視していて、なにかのタイミングを見計らっているようにフランには見えた。

 リエーヌにはなにか策があるのだろうか?

 あったとしても、魔力がもう残りわずかなことは変わりないのではないか。


「……リエーヌさん」


 フランは倒れたままの状態でリエーヌに話しかけた。


「フラン様!? よくぞご無事で……」


「そのまま聞いてください。魔力があれば魔神を足止めすることはできますか?」


「……可能です。あの姉妹のおかげでいくつかの方策を思いついております」


「わかりました。わずかですけど私の魔力を半分渡します。だから、私が二人を回復させる時間を作ってください」


「お言葉ですがフラン様、あなたは貴重な回復役。いたずらに魔力を譲渡することはお薦めできません」


 ロミリアに言われたようなことを、リエーヌもまたフランに言う。


「大丈夫……。エリナさえ回復させれば、私はエリナから魔力を受けとることができます。これは以前にもしていることです」


 フランはきっぱりと言い切ったが、かつて瀕死の状態にあった聖后を回復させた時とは違う。

 いつ魔神の爆発攻撃が来るかわからないこの状況で、それが可能だろうか。

 フランにもその不安がないではなかったが、自分が口にした『エリナを回復させれば』という言葉に、フラン自身が勇気づけられていた。

 ――エリナを回復させれば、エリナがきっとなんとかしてくれる。

 その確信が伝わったのか、リエーヌもその作戦に首肯する。


「フラン様、ありがたく頂戴することにいたします。このリエーヌ、必ずやかの魔神を足止めしてみせましょう」


「お願いします」


 そして、フランは精神を集中させた。


「慈愛と癒しの神リデルアムウァよ。我が魔力をリエーヌさんにお与えください……」


「――っ。確かに、お受け取りいたしました」


 その時、アラヤ・エナンジーの声が響いた。


「マナ! ダメだ!」


 そして、これまでの五倍はあろうかという爆発音が鳴り響く。


「行きます」


 リエーヌはそう短く言って駆け出した。

 エナンジー姉妹の窮地を救うために咄嗟に飛び出したということなのだろうが、フランにはその端的さに、後のことは任されたのだという信頼を感じていた。

(大丈夫。エリナも、カナちゃんも、リエーヌさんも、私だって……。みんなで、ちゃんと生きて帰るんだ)


        ※ ※ ※


 一週間ほど前。

 エリナはリエーヌに頼みこんで魔法を教えてもらうことになった。


「いいでしょうか、エリナ様。『魔法』は自然界にある法則であり、『魔術』はそれを利用するための技術だ、ということです。ここまではおわかりでしょうか?」


「……にゃはは、全然わかんない。ごめんなさい、リエーヌさん」


「『さん』は付けないようにとお願いしたはずですが、それもおわかりにならないと?」


 辛辣な言葉に「うっ」となるエリナだったが、お願いしたのはエリナから。

 それに、リエーヌの言葉が辛辣なのは元々のことだ。


「でも、ものを教わるのに呼び捨てって言うのも……」


「エリナ様のお気持ちもわからないではありませんが、私にとってエリナ様はお仕えするランドバルド家のご令嬢であり、リクドウ様ご不在の今では、エリナ様こそがランドバルド家の主に他ならないのです」


「それは聞いたけどさぁ……」


「それに、これはエリナ様ご自身のせいでもあるのです」


「わたしのせい?」


 きょとんとしてエリナは問い返す。


「エリナ様は私が敬愛するレイアーナお姉様や、畏れ多くも『ブレナリアの聖女』ロミリア様のことを呼び捨てにしていらっしゃるではありませんか。それなのにメイドの私に『さん』付けは、私自身が恐縮してしまうというものです」


「あー……にゃはははは。それは、なるほど、そうかも……。そっかー……」


 エリナにとってはロミリアやレイアーナが、それだけ幼い頃から知っているという話であったが、改めてリエーヌの立場から考えると、確かに複雑なものがありそうだと思い直した。


「おわかりいただけましたのなら、以後お気をつけください。では、お話を『魔法』と『魔術』の違いに戻させていただきます」


 エリナはうなずく。


「例えば、この水差しを傾けるとどうなりますか?」


「え? 水が出る? 水が零れる……?」


 なにを聞かれているのだろうと訝しみながらエリナは答えた。


「そうです。水差しという容器から出てきた水は、上から下へと落ちていく。つまり零れます。水は容器から出て、空中に留まったり、上に行ったりはしないわけです」


「当たり前だよ、そんなの」


「その『当たり前』が、『自然界にある法則』なのです」


「な、なるほど……?」


 よくわかっていなそうなエリナだったが、リエーヌはそれをわかった上で続ける。


「同じように、例えば川の流れも、高いところから低いところへと流れていきます」


「それは……うん、わかるよ」


「その川に水車を作りましょう。川の流れは水車を回します。その結果、どうなるかはご存知でしょうか?」


「それは見たことある! 小屋の中でね、小麦粉を作ってたの! 水車が回る力を利用してね、ぐるぐるぐるぐるって、勝手に石臼が回って、それで――」


 はじめは勢いづいていたエリナの説明は、徐々にその速度を落としていき、それと入れ替わるように、その瞳と口が大きく開かれた。


「利用するための技術って、そういうこと!?」


 リエーヌは小さくうなずく。


「実はこの『魔法』と『魔術』の定義に関しては諸説ありまして、本来ならば、エリナ様のお歳で気にされる必要はないものであったりします」


「ちょっと、リエーヌさん!?」


「リエーヌです。エリナ様」


「うう、リエーヌ……」


「『本来ならば』と申しあげました。エリナ様は少々事情が特殊なので、必要であると判断した次第です」


「……魔神に狙われてるから? それとも、わたしが『魔王の娘』かもしれないから?」


 エリナの問いに、リエーヌはほんの一秒ほど考えてから答えた。


「それらも関わりがありますが、その特殊な事情は、エリナ様がすでに使われてきた魔法にあります」


 リエーヌに魔法を教わることになった際、エリナは自らが使ったことのある魔法について、思い出せる限りのすべてを教えている。


「魔法の使い手には通常、相性の良い系統というものが存在するのはご存知でしょうか?」


「あ、うん。例えばペトラは大地の精霊と仲がよくて、プルムは植物の精霊と仲がいいんだったかな」


「エリナ様ご自身は?」


「…………あれ?」


 しばらく考えてから首を傾げるエリナ。

 リエーヌはそれも織り込み済みとでも言いたげに、ただうなずいた。


「エリナ様は火の魔法を使い、風の魔法を使い、水の魔法をも使っています。複数系統の魔法を使うこと自体はあり得ない話ではありませんが、それでも普通は、基本となる自身の系統の魔法を持っているものなのです」


「や、やっぱり、『魔王の娘』だからなのかな……?」


「生憎ではありますが、その答えを私は持ち合わせておりません。ですが、現実としてエリナ様がそのように魔法を使われる以上、私も教える側として、それを前提に教えるべきだと判断する次第です」


 ちゃんと自分に合わせた教え方をしてくれる。

 頼みこんで引き受けてもらったエリナとしては、リエーヌがそこまで真剣に向きあってくれるとは思っておらず、ただ目をパチクリとさせてしまった。


「あ、えっとえっと、それで、『魔法』と『魔術』の違いがわたしに必要だっていうお話?」


「左様でございます。様々な系統の魔法を使えるというのは、それだけで大きな力となり得るものですが、それでも、それらを単体で使うのであれば、ただ便利であるとうだけに留まってしまいます。ですが、それらを複合して使えるのであれば、それはより大きな、そして、もっと複雑なことができるということなのです」


「複合……複合……」


「エリナ様がジントロルの腕を斬ったという、『炎の剣』。それこそは複合された魔法の一つかと思われます」


「あっ」


「そして、リクドウ様から教わったというイメージのお話です。例えば荒れ狂う川の激流をイメージすることは簡単でしょうが、川の流れで回る水車をイメージし、小麦を挽いて粉にするところまでをイメージするのは大変なもの。ですが、理屈を識っていれば、そのイメージを大きく補強することに繋がるでしょう」


「『魔法』と『魔術』の話も、それで……」


 エリナはリエーヌの顔をじっと見る。


「エリナ様にはこれでもまだ難しかったでしょうか?」


「う、ううんっ! 大丈夫! ちゃんとわかった! ただ……ただね?」


「はい。ただ、なんでございましょうか?」


「そりゃあリルちゃんだって、リエーヌさん――じゃなかった、リエーヌと離れたくないって駄々こねちゃうよねーって思って……にゃははっ」


「――――ッ」


 今度はリエーヌが押し黙ってエリナの顔をじっと見た。


「ご、ごめんなさい、リエーヌ。な、なんか怒らせちゃった……? わたし、リエーヌのこと大好きだなーって言いたかっただけなんだけど……」


「…………」


「……リエーヌ?」


「も、申し訳ありません、エリナ様。長年、小生意気でこまっしゃくれた姫君の相手ばかりをしてきたものですから、どう反応していいのか、その対処に少々困惑しておりました」


 エリナは眉を顰める。


「えっと……つまり?」


「……照れておりました」


 その素直な回答にエリナは絶句し、その数秒後には突如として湧きあがってきた情動に耐えきれなくなっていた。


「にぇへへへへへへへ」


「エリナ様」


「だぁってぇ……にぇへへへへへへへ……ああ、どうしよ、なんかニヤニヤがとまんないっ」


「私が個人授業を預かる以上、徹底的にやらせていただきますのでお覚悟くださいませ」


「ひっ!? とまりました!」


「それはよろしゅうございました。では、さっそく授業に取りかからせていただきます」


「怒ってる!? やっぱり怒ってるよね、リエーヌ!?」


「私が怒っているかどうかは授業には関係ありませんので」


「リエーヌ~ッ!」



        ※ ※ ※



「そう、だった……」


 エリナはプロシオンの攻撃によって深刻なダメージを喰らっていた。

 生きてはおり、意識もまだ保っていたが、強烈な爆発によって身体の各部を火傷と裂傷が覆っており、立ちあがることさえ困難な状態だ。


「せっかくリエーヌに教えてもらったのに……わたしはまた、魔法を単体で使っちゃってたんだ……。もっと、できることがあるはずなのに……」


 魔力は、ある。まだたっぷりと残っている。

 それなのに、立ちあがることさえ満足にできないダメージを喰らってしまった。

 全身を貫く激痛で、魔法を使おうにも集中することすらできない。

 魔神は自分を目的にやってきているのに、大好きなみんなを巻き込んでおいて、自分自身が本来打つべき手も打てないまま倒れて、いったいなにをやっているんだろう。

 なんのために、リエーヌから魔法を教わったのだろう。

 全ての力を出し切ったとしてもプロシオンには勝てないかもしれない。

 だけど、出せる力すら出し切っていない。

 勝てなくたっていい。

 みんなを連れて逃げる方法だってあったかもしれないのに。

 それすら、自分はやれていない。

 だけど、まだだ。

 幸運なことにプロシオンはそれ以上の追撃をしてこなかった。

 どうやら他の誰かと戦っているらしい。

 爆発の衝撃で耳もやられたのか、誰が戦っているのかもよくはわからなかった。

 カナーンだろうか? リエーヌだろうか? それとも、まさかフランが?

 大好きなみんなが戦っているのだと考えると、自分も戦わなければと全身の神経に少しずつ力が流れこんでいくのが感じられた。

 まだ痛いけど、かなり痛いけど、どうしようもなく痛いけど、それでも、まだ、やれる。

(わたしはやれる。まだ、戦える!)

 右膝を地面から離して、右足で地面を踏みしめる。

 次いで左膝も地面から離して、エリナは左足でも地面を踏みしめた。

 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。でも!


「立てた……っ」


 だが、やはりそれがやっと。

 立ちあがった瞬間、エリナはよろめき、再び倒れそうになってしまう。


「エリナっ」


 そんなエリナの名を呼び、咄嗟にその身体を支える優しい手があった。


「お待たせ、エリナ。今、回復するから」


「フラン……!」



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