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69話 愛で、奏でて

 夜明けを知らせる光が差し込んでいた。


 差し込む光はなんとも眩く、タマモは右手を朝日の間に掲げた。


 それでも、指の隙間から差し込む朝日は眩しい。


 眩しい朝日をぼんやりと眺めながら、タマモは体を起こす。


「ん」


 すぐそばから艶めかしい声が聞こえた。


 視線を向けると、ベッドのシーツに身を包んだアンリが眠っていた。


 普段着である巫女服でもなければ、寝巻きの襦袢でもない。


 寝間着の襦袢は床に散乱しているし、普段着の巫女服は部屋の隅にある机の上にきれいに畳まれている。


 いまのアンリはなにも身につけていなかった。


 もっとも、それはタマモとて同じこと。


 タマモはアンリを起こさないようにベッドから抜けだすと、床に散乱していた衣服のうち、自身の装備をゆっくりと身につけていく。


 ゆっくりと身につけているのは、アンリを起こさないために、できるかぎり音を立てないため。


 さすがに完全に消音ができるわけではない。気をつけたところで、どうしても音は出てしまう。特に布のこすれる音はどうあっても出てしまう。


 起こしてしまうかなと思いながらも、産まれたままの姿から普段通りの装備を身につけていくタマモ。


 あとはオーバージャケットである「闘衣」を身につけるところで、後ろから起き上がる音が聞こえてきた。


「んぅ……旦那さま?」


 アンリは寝ぼけ眼でタマモを見つめていた。


 まだ完全に覚醒しきっているわけではないようだった。


 覚醒していないからか、なんとも目に毒な姿を露わにしている。


 具体的にはシーツに包まれていたはずの肌が見事に露出している。


 さすがに全身を晒しているわけではないが、上半身は完全に見えていたし、首筋には無数の痕が刻まれている。


 ……その痕を刻んだのが誰なのかは言うまでもないことである。


 そうして、いろいろと晒してしまっているアンリだが、まだ寝ぼけているようで、自分がどのような状態にあるのかを理解しきれていないようだった。


 口の端から涎を垂らしながら、頭をゆっくりと左右に振っていた。


 その様子は誰がどう見ても寝ぼけているし、まだ寝たりないと言っているようなものであった。


 そんなアンリを見て、タマモは苦笑いしながら声を懸けた。


「おはよう、アンリ」


「……ひゃい、おはようございますです」


「ますです、って」


 声を懸けた返事はあまりにも子供っぽいものだった。


 アンリの返事にタマモはつい笑ってしまった。


 が、当のアンリはなぜ笑われているのかが理解できていないようで、「ほぇ?」と首を傾げていた。


 首を傾げた状態でアンリは時が止まったように動かないでいる。


 その状態で、十秒、二十秒と時間が経過していくと──。


「~っ!」


 ──突如としてアンリの目が思いっきり見開かれたではないか。


 目を見開いたアンリの顔は、一気に真っ赤に染まった。


 次いで、晒していた肌をシーツで隠してしまう。


 が、肌は隠せても首筋までは隠せていなかった。


 というか、隠そうとするのであれば、シーツを頭から被った方が手っ取り早いくらいである。


 逆に言えば、そこまでしないと隠せないほどに痕を刻まれているということなのだが。


 アンリにそこまでしたのが誰なのかは言うまでもないし、その張本人は隠しても隠し切れていないアンリの姿を見て、おかしそうに笑っているほどだ。


 おかしそうに笑いつつも、タマモは「ちょっとまずいかな」と必死な姿のアンリを見て、いろいろと高ぶってしまっていた。


 だが、当のアンリはタマモが高ぶっていることに気づいておらず、恥ずかしそうにしているのみ。


 体を晒すこと以上に、他人に見られたら赤面ものの行為など、もはや数え切れないほどにしているというのに、アンリの初々しさはいまだなくなっていない。


 それはいまはいないエリセもまた同じだった。


 ふたり同時に相手をしてもらったことは、そこまで多くはない。


 だが、ふたり同時に相手をしてもらったときの多幸感はなんとも言えないものだった。……その分、かなりしんどかったのだが。


 しんどい分を含めてもなお、多幸感は勝っていた。少し前までの多幸感を思い浮かべて、タマモは自分を抑えることができなくなった。


「アンリ」


「あ、あの、旦那様。これはその」


 アンリは体を包むシーツを掴みながら、顔を俯かせていた。


 普段まっすぐに天へと向かって伸びている立ち耳は、ぺたんと伏せられており、なんとも愛らしい。


 その愛らしさがよりタマモをそそらせてしまっているのだが、そのことにアンリは気付いておらず、「はしたない姿をお見せして」と謝り始めたではないか。


 タマモは苦笑いしながら、「問題ないよ」とアンリのいるベッドへと向かう。


 アンリはそのことにも気づいておらず、「ですが」と二の句を告げようとしていたが、それよりも早くタマモはアンリをベッドに押し倒した。


「ほぇ?」


 ベッドに押し倒されたアンリは、なにが起こっているのかを理解できないでいた。


「だって、いまからもっとはしたない姿を見せてもらうんだから。いや、なってもらうからね」


 だが、タマモがアンリの上にのしかかったことで、状況を把握したのか、頬が見る見るうちに真っ赤になったのだ。


 真っ赤になったアンリの頬を撫でながら、タマモは意地悪そうに笑った。


 その笑みにアンリは耳まで真っ赤にしていた。相変わらず、耳はぺたんと伏せられたままだったが、頬から耳へとタマモは手を伸ばし、そっと触れる。


 耳に触れられたアンリは「ん」と体を小さく震わせた。


 体を震わせるアンリを見て、タマモは目を細めると、身を乗りだし、アンリの耳にそっと口づけていく。


 アンリの体の震えがより大きなものへとなった。


 アンリの体が震えるのを感じながら、タマモはアンリの耳を優しく甘噛みする。


 甘噛みされたアンリはまぶたをぎゅっと閉じて、呼吸を乱していく。


「耳、本当に弱いね、アンリは」


 噛んでいた耳にそっと息を吹きかけるタマモ。アンリは「だ、だって」と弱々しい声で返事をする。


「妖狐族であれば、誰だって弱い、ですよ」


 途切れ途切れに返事をするアンリ。「そうかな」と囁きかけながら、タマモはシーツに包まれていたアンリの肌に手を伸ばし、隠し切れていなかった首筋の下、鎖骨のあたりをそっと人差し指と中指でなぞっていく。


 アンリの体がまた震えていく。


 その様を見て、タマモはそろそろ我慢できないなと思って、元の位置に戻った。


 アンリはまだ決定的なことはなにもしていないのに、声を上擦らせていた。


 目はすでに蕩けており、アンリ自身の準備が整いつつあるのが見て取れた。


「アンリ」


「……はい」


「抱くよ」


 タマモは短い言葉を投げかけた。アンリは顔を赤く染めて静かに頷いた。


 了承を得たタマモは、アンリの唇を奪うと、すぐに口内の舌を絡め取った。


 部屋の中に絡み合う音が奏でられていく。


 アンリという至上の楽器を愛でながら、タマモはより艶やかに、より魅力的に奏でるためにアンリの体に手を伸ばしていった。

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