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45話 卑しき笑み

ネッチョリ気味な気持ち悪い部分がありますので、苦手な方はスルーでお願いします

「──バカな女やな」


 目の前に映し出された光景を見て、ラモン翁はそう吐き捨てた。


 ラモン翁が見ていたのは、暗がりの中をひとりで歩くエリセだった。


「化け物はほんま頭が悪いわ」


「水の妖狐の里」の者たちが誰もが「化け物」と称したエリセ。当然里長の一族であるラモン翁もまたエリセを「化け物」と称していた。


 ただ、化け物ではあるが、その美貌は歴代の里長の中でも随一と言ってもいい。


 ラモン翁から見れば一応は姪孫には当たるものの、ラモン翁自身はエリセを身内と見たことはない。


 エリセが産まれたときから通して「化け物」として見ていた。


 そう、「化け物」だ。「化け物」だが、得てして人智を超えた「化け物」ほど魔性と言っていいほどの美を携えるものである。


 事実、エリセの美しさはラモン翁から見ても、別格と言えるほどだった。


 子供の頃から美しくはあったが、体つきが女性のものになりつつあった頃から、ラモン翁はエリセに対して欲望を抱いていた。


 さすがに愛人にするつもりはなかったし、嫁などもっての外だ。


 だが、嫁にも愛人にもするつもりはなかったが、日に日に美しく成長していくエリセを見ていて、劣情を催さずにはいられなかった。


 それこそ、どのような状況でもいいから、あれを抱きたいと思っていた。


 エリセの澄ました顔をぐちゃぐちゃにしてやりたいと思ったことは一度や二度ではない。

 

 優しく抱こうなんて考えはなかった。


 泣こうが喚こうが関係なく、無理矢理堕とすことしかラモン翁には考えられなかった。


 それこそ夜更けに寝所に赴こうと思ったことは何度もある。


 そうしなかったのは、仮に赴いたとしても、返り討ちに遭う可能性が高かったからである。


 忌々しいことではあるが、エリセの能力は、ラモン翁のそれをはるかに上回っている。


 同じ水の妖狐としてみても、嫉妬さえも沸き起こらないほどの圧倒的な差がエリセとの間にはあった。


 その差はラモン翁だけではなく、他の翁や媼をしても同じ。


 むしろ、ラモン翁は翁や媼たちの中では上澄みに位置している。


 上澄みたるラモン翁であっても、どれほどまでの差があるのかもわからないほどの圧倒的すぎる高みにエリセはいたのだ。


 もし、エリセが、いや、その母であるエリスさえ傍流でなければ、主流の家の出であれば、それこそ斜陽の一途を辿りつつある、一族の救世主として手厚く扱われることになっただろう。


 ラモン翁とて劣情を催すことなく、かわいい姪孫として期待を懸けることになったはずだ。


 しかし、実際には母のエリスは傍流中の傍流。ラモン翁からしてみれば、圧倒的な格下の家の出だ。


 一応は同じ一族という体ではあるものの、いつ一族から外れるかもわからないほどの傍流だった。


 そんな傍流の娘を嫁にし、その嫁の子が歴代随一の能力を持って産まれてきた。


 自分では信心深いと思っているラモン翁にしてみても、彼の主神に対して異議を申し立てたくなった。


 主流の家々の子であれば、と何度思ったことか。


 その才覚を素直に惜しいとラモン翁は思っていた。


 他の翁と媼は「化け物」と称するだけで、正確にエリセの能力を評価してはいなかった。


 が、ラモン翁は「化け物」と称しつつも、その能力を一応は評価していた。


 評価していたが、口にしたことはないし、するつもりもなかった。


 下手なことを言えば、ラモン翁がやり玉に上げられるだけなのだ。


 正直、そこまでしてエリセの評価を口にするメリットがラモン翁にはなかった。


「……まぁ、それで懇ろの関係になれるなら考えはしたけども」


 そう、エリセと男と女の関係になれるのであれば、エリセを庇い、自分だけがおまえを評価していると言いたいところだった。


 が、仮に口にしても、エリセには通じなかった。


 エリセは生まれつき「心眼」の能力持ちであり、目を見開かれてしまえば、こちらの考えなどあっという間に読まれてしまう。


 実際、以前ひとりの翁が同じようにしてエリセに近付こうとしたが、他の翁や媼の前でその内心をあっさりとばらされてしまったことがある。


 その翁は失脚した。当時のエリセはまだ幼くはあったものの、すでに里長として一族を率いていた。


 代理の里長とはいえ、里長相手に無礼極まりない行動をした以上、一族の中でのその翁の立場などあっていいわけもない。


 それ以来、翁や媼たちはエリセに一切近付こうとしなかった。


 せいぜい罵声を浴びせる程度。それも無礼講となる酒の席に限定させていた。


 酒の席であれば、「酔っていたから」という言い訳が立つため、同じ無礼であっても失脚に繋がることはなかった。


 もっとも、それも限度を超えなければの話だが。


「っ、また痛みが出てきたな……あのガキめ」


 限度をと思ったのと同時に、ラモン翁は頭部からの痛みを感じた。


 痛むのはちょうど耳のあたり。「白金の狐」となったタマモによる暴行を受けた傷がいまもラモン翁を苦しませていた。


「ほんまにあのガキはけったくそ悪い」


 タマモのことを考えると、ひどく腹正しくなる。


 耳を奪われたこともあるが、それ以上に、ラモン翁がいつかはと思っていたことを、エリセの破瓜をあれがなしたことがなによりも忌々しいのだ。


 エリセが特有の相手を作るなんてことはありえないとラモン翁は思っていた。


 少なくとも「水の妖狐の里」にはそんな相手は存在していない。


 かと言って他の里の者にしてみれば、代理とはいえ里長と懇ろの関係になるなんて大それた事ができるものは早々いるわけもない。


 しかし、エリセを放っておくのはそれはそれでもったいなかった。


 かと言って、適当な有力者の嫁に出すなんてもっての外である。


 弟のシオンが適齢期になり、シオンが里長として立ってから、その弱みを握り、それを脅しにしてエリセを手に入れよう。


 いつからかラモン翁はそんな欲望を抱くようになっていた。


 だが、その欲望はタマモの登場によって、すべてご破算となった。


 ラモン翁が狙っていたエリセは、「金毛の妖狐」というだけでタマモにかっ攫われてしまったのだ。


 ただかっ攫われただけというのであれば、まだ許せた。


 しかし、タマモはエリセを思う存分に楽しんでいたというではないか。


 実際、エリセを襲ったとき、すでに破瓜はなされていた。それどころか、すでにある程度の経験をしていた。


 それをなしたのが耳を失った原因であるタマモであることを知り、ラモン翁の苛立ちは行き着くところまで至ったものである。


 が、それもいまはもう昔の話。


 この牢獄からエリセは逃れることはできない。


 泣き所であるフブキという少女が、ラモン翁の手の内にあるからだ。


 エリセ自身は逃げだしたくても逃げだすことはできない。


 エリセ単独であれば、おそらくは逃げ出せるのだろうが、フブキという少女がいる限り、逃げることは不可能だった。


 できるとすれば、外部からの手助けくらいか。


 その手助けにしても、場所を知らせる手立てがない以上、どうしようもないだろう。


 いまのところ、エリセは場所を知らせようとしている素振りは見せていない。


 そもそも、いまどこにいるかもわかっていないだろう。


 まさか、水源の下にいるとはさすがのエリセとてわからないはずだ。


 仮に水源の下にいるとわかっても、正確な場所まではわからないだろう。


 おそらくはそろそろ地上でも、エリセの居場所を探し始めているだろうが、あちらに聖風王が着いていたとしても、ここの場所まではそう簡単にはわからないだろう。


「あとは、時間の問題やな」


 仮にここに連中が突入するとしても、まだ一月か二月はかかるはず。 


 それまでにはエリセを完全に堕とすことくらいは容易にできる。


 それどころか、孕ませることだってできるかもしれない。


 いまは圧倒的な魔力で、妊娠しないようにしているようだが、あと一月、二月あれば、エリセみずから子を孕むように仕向けることくらい容易にできる。


「いっぺんでも肉欲に溺れさせたら、もうこっちのもんや」


 すでにその兆候は出始めている。


 あとはいつまでそれをエリセが耐えられるかだった。


「楽しみやなぁ」


 そのうち訪れるであろう光景を夢想し、ラモン翁は年甲斐もなくはしゃいでいた。


 その表情はひどく卑しい笑みを浮かべ、下腹部に大きな変化を催していた。


 牢に戻ったら、またかわいがりに行くかと思いながら、ラモン翁はいずれ来る光景を思いうかべて悦に浸っていった。

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