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42話 現状維持

 薄暗かった。


 ほんの少し先も見えないほどに、薄暗い部屋だった。


 薄暗い部屋の部屋の中で、粗い呼気だけがこだましている。


「……ん」


 小さな声を漏らしながら、エリセはまぶたを開く。


 まぶたを開くと同時に、エリセは顔を思いっきり顰め、口の中に溜まっているものを吐きだした。


 エリセが吐きだしたのは、赤と白が混ざり合った液体だった。エリセ自身の血とラモン翁の獣液が混ざり合ったものだ。


 吐きだしてもなお、まだ口の中にはひどい味が広がっている。


 二度、三度と残っているものを吐きだしてようやくマシになった。


 マシにはなったが、まだいくらか残滓のようなものが残っていた。


 このまま吐きだしても意味はなさそうだったので、エリセは自身の魔力によっていくらかの水を精製し、精製した水でうがいをした。


「……ようやく、か」


 精製した水を吐き出すと、ようやく口の中はクリアになった。


 反面、部屋の床はひどいことになっているが、もはやいまさらだ。


 ここに来てからというもの、ずっとラモン翁による辱めを受け続けてきたのだ。


 すべてベッドの上で行われたわけではない。


 体を清めているときもあれば、食事を行っているときもあった。あとは、あまり口にしたくない行為中のときでも襲われたことがあった。


 どんなときであろうと、ラモン翁は楽しげに笑っていた。


 エリセを辱めることは、いまのラモン翁にとってこれ以上とない快楽であるのだろう。


 ラモン翁自身よりも圧倒的に強者であるエリセを、ラモン翁曰く極上の女を思い通りにできるという状況は、ラモン翁の嗜虐心をこれ以上となく煽るのだろう。


 そのたびにエリセは口の中を噛んだ。八つ裂きにしてやりたいという気持ちを押し殺して、ラモン翁にされるがままになった。


 今回もそれは同じだ。


 ラモン翁の部屋からこの部屋に、独房に帰って来たと同時にラモン翁に襲われたのだ。


「まだ足りん」


 ラモン翁はエリセを無理矢理床に押しつけたのだ。


 ラモン翁の部屋で三回もしたはずなのに、ラモン翁は怒張したそれを押しつけてきたのだ。


 老いてますます盛んとは言うが、ラモン翁はまさにそれだった。


 辟易としながら、エリセはされるがままになった。


 結果から言うと、独房内でもラモン翁の相手を三回させられた。


 そのうえ、きれいにしろと言って、口の中にねじ込まれてしまった。


 噛みちぎってやろうかと思いながらも、エリセはどうにかラモン翁に言われるままにそれを口できれいにした。


 途中でラモン翁の獣液を口の中に出されてしまい、咽せてしまったが、ラモン翁は満足したようで独房内を出ていった。


 それを見届けてから、エリセは床に這い這いの体で倒れ込み、いまに至っていた。


 ここに来てから、まともにベッドで寝たことなどほとんどない。


 老体でありながらも、やけに体力が有り余っているラモン翁の相手をしているうちに、エリセはいつも限界を迎えて気を失ってしまう。


 今日はラモン翁の部屋で気絶しなかっただけましだった。


 気絶なんてしようものであれば、その間になにをされるのかわかったものではない。


 以前なんて、両手両足を縛られたうえに、猿ぐつわまで噛まされていたのだ。


 それ以来、絶対にラモン翁の部屋の中では気絶をしないようにとエリセは決めた。


 今日もラモン翁の部屋での相手を終えて、疲労困憊の中でどうにか独房に戻れた。


 だが、まさか独房まで追いかけてくるとは考えてもいなかった。


 独房の床にはラモン翁の獣液の残滓の後が刻み込まれていた。


 それは今回だけではなく、ここに来てからのものがいくつもある。


 中には時間が経って染みのようになっているものさえあるほどだ。


 逆に言えば、それだけエリセはラモン翁の毒牙に掛かり続けたということでもある。


「……いまのところはいける、か」


 エリセは自身の下腹部を撫でつけた。曲解できる行為ではあるが、エリセにとってみれば、間違いがないかの確認でしかない。


 いまのところ、最悪の結果にはなっていない。


 だが、いまのままでは、いつそれが訪れるかもわからないのだ。


 いまのところは、エリセ自身の魔力によってそうならないようにしている。


 しかし、ラモン翁のことだ。


 いつそれを求め始めるかわかったものではない。


 もっとも、エリセを化け物と称する老人が、その結果を求めるとは思えない。……ラモン翁が通常の思考をしているのであれば、だが。


 いまのラモン翁はまともではない。


 まともでなければ、いつかはエリセにそれを求めることだってありえるかもしれない。


 エリセにとってはありえないことだ。


 どうせ、そうなるのであれば、ラモン翁となんて冗談ではない。


「……旦那様なら、いつでも」


 そう、最愛の人とであれば、エリセはいつでもいい。それこそエリセ自身からお願いしたいくらいだ。


 だが、現実的にいまはそれができない。


 むしろ、現実的に考えると、ラモン翁相手となるという悍ましい結果を迎えかねないのだ。


 そうなる前に、ここから脱出したい。


 だが、どうにもこの独房、いや、ここからの脱出は難しい。


 そもそも、ここに転移したのも、ラモン翁が用意したストールがあってこそだ。


 仮に脱出するのであれば、あのストールがなければどうにもならないだろう。


 そのうえ、エリセが単独で脱出してはなんの意味もない。


 ここにはフブキを助けるために来た。


 なのに、肝心のフブキを助けずに脱出などありえない。


 それになによりもだ。


「……フブキに手ぇ出さへん確証があらへん」


 そう、なによりもネックなのがそれ。


 仮にフブキを助けずに脱出した場合、ラモン翁の毒牙がフブキに向く可能性は十分にありえる。


 フブキは幼いが、十分に整った見目をしている。さすがに手を出すには、あまりに幼すぎるけれど、いまのラモン翁であれば、フブキに手を出してもおかしくはない。


 いや、手を出すという前提にするべきだった。


 だからこそ、いまは脱出はできない。


 それにここがどこなのかもわからない以上は、脱出も満足にできるかもわからない。


「……とりあえず、現状維持、か」


 いまできるのは、現状維持くらい。わかりきっていることを再確認してから、エリセは疲労した体を起こして、独房を出た。


 ラモン翁からは、体はちゃんと清めろと言われているため、独房の外にあるシャワールームには行ける。


 もっとも、それ以上の行動は許されていないわけなのだが。


「いまは、とにかく、体を」


 呼気を乱しながら、エリセは体をふらつかせつつ、シャワールームへと向かっていくのだった。

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