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38話 デマカセ

 タマモはアオイと協力をすることになった。


 すんなりと決まったわけではないが、最良の形で協力を得ることはできた。


 あとはエリセを探すだけ。


 意気揚々とタマモは「蒼天城」から、アオイの本拠地から外に出て──。


「む? おお、ようやく終わったか、婿殿」


 ──想定外、いや、想定以上の光景を目の当たりにすることになった。


「い、いてぇ」


「だ、誰か、治療を」


「怖い怖い怖い、じーさん、怖い」


「あばばばば」


 タマモが目にしたのは、死屍累々というべき光景であった。


 タマモが最初に降り立った地点、「蒼天城」の正面にはこんもりとした山があった。


 その山は「蒼天」に在籍するPKたちによってできあがっていた。


 その山のてっぺんで聖風王は、どこからか用意したのか、湯飲みを手にしてのんびりと一服の真っ最中のようだった。


「……おい、タマモ。これはなんだ?」


 さしものアオイも想定外だったのか。顔を引きつらせながら、目の前の山を指差している。それはアオイの隣に立つエアリアルも同じで、あんぐりと大きく口を開けて驚いていた。


「……人の山?」


「いや、それは見ればわかる。我が言いたいのは、このご老人はいったいなんなのだ、ということだ」


 アオイは聖風王を指差していた。人を指差すのはよくないと言いたいところではあるが、アオイがそういうのもわからなくはない。


 むしろ、タマモもまた「なにをしているんですか」と言いたいのだ。


 だが、言ったところで目の前にいるセクハラ王、ではなく、聖風王に大して響くことはない。


「えっと、この人は」


 タマモは頬を搔きながら、聖風王を紹介しようとした。


 が、気づいたときには聖風王は忽然と姿を消していた。


「あれ?」とタマモはあ然とし、アオイも「なんと?」と目を見開いていた。


 ほんの一瞬、聖風王から目を離しただけだったのだが、その一瞬で聖風王は掻き消えてしまった。


 いったいどこに、とタマモが周囲を見回していると──。


「ふむふむ。野暮ったい鎧を身につけているが、鎧の上からでもなんとなくわかるぞ? そなた、なかなかにないすぼでーの持ち主じゃな?」


「へ? えっと、あの、ええ?」


 ──背後からセクハラ発言が突然飛んできたのだ。


 タマモはくるりと振り返る。そこにはぷかぷかと浮かびながら、エアリアルの周囲を回るセクハラ王がいたのだ。


 突然のセクハラ発言に、当のエアリアルは動揺している。


 アオイもまさかのセクハラ発言に、何度もしきりに瞬きを行っていた。


 タマモは「らしいと言えばらしいけれど」と思いつつも、鼻の下を伸ばすセクハラ王の、無駄に長い顎髭をおもむろに掴んだ。むろん、「七尾」を両腕に絡めてだ。


「ふん!」


 そうして準備万端になったところで、思いっきりセクハラ王の顎髭を引っ張ってやった。


「むふふふ──んがぁ!?」


 さしものセクハラ、いや、聖風王とて趣味に夢中の最中の攻撃には対処できなかったようで、いやらしい笑みを浮かべつつ、そのまま地面とキスをすることになった。


 普通に考えれば前歯がお亡くなりになりそうな状況であるが、相手は腐っても「四竜王」の長である。この程度の攻撃でどうにかなるほど、柔な存在ではなかろう。


 そう断じつつ、タマモは聖風王の顎髭から手を離し、ぱんぱんと手を払った。


 当の聖風王は、日曜日の名を冠する週刊漫画雑誌の某るーみっくなキャラクターのような独特の手の形をしながら地面の上でぴくぴくと痙攣していた。


「お、おい、タマモ?」


「……やりすぎでは?」


 痙攣する聖風王を見て、アオイとエアリアルはさすがにドン引きしていた。


 セクハラ発言をされたとはいえ、相手は見た目ではかなりの高齢の老人である。


 その老人相手に容赦のない一撃を繰り出したタマモに、さしものアオイとエアリアルも「それはどうよ」と言わんばかりの反応を示していた。


 しかも、直接の被害を受けているはずのエアリアルでさえも、タマモの行動には若干の否定気味な態度を示している。


 が、タマモから言わせてみれば、これがそんな柔な存在かとしか言いようがない。


 たしかに見た目の上では、か弱い老人という風に映るだろうが、これがか弱い老人などではないことを、タマモは誰よりも理解しているのだ。


「あぁ、気にしないで。いつものことだし」


 さらりとタマモはふたりのドン引きな反応を右受け流す。すると、アオイもエアリアルもお互いを見つめ、「いつものことだと?」や「ええ、いつものことだと」と言いあっていた。


「まぁ、そういう反応になるよなぁ」とタマモが思っていると──。


「な、なにをするんじゃ、婿殿!?」


 ──痙攣していた聖風王がようやく復帰を果たした。


 今回は長かったなと思いつつ、「あぁ、ようやくお目覚めですか?」とタマモは聖風王に笑いかける。


 だが、当の聖風王にしてみれば、笑顔を浮かべられた程度で止まるわけもない。


「なぁにぃが、「ようやくお目覚めですか」じゃ! 我が輩でなかったら、下手したら死んでおったぞ!?」


「生きているのだから、問題ないでしょう?」


「そういう問題ではないわ! 師匠相手にこの狼藉はどういう了見じゃ!?」


「弟子だからこそ、師の蛮行を止めたまでのことですが?」


「我が輩の行動のなにが蛮行じゃ!? ただ、せくちーぼでーの女子の周りを回っていただけじゃろうがい!」


「それが蛮行と言っているんですよ? というか、その行為はセクハラです」


「触っておらんから、セクハラではないわい!」


「なに言っているんですか? 触ってなくても、そういう視線を投げ掛けたり、性的発言をしただけでもセクハラにあたるんですよ?」


「なん、じゃと?」


 聖風王は驚愕としながら、「そうなのか」とアオイとエアリアルを見やる。


 聖風王の驚愕とした表情に、ふたりはお互いを見合うもすぐに頷いていた。


「えっと、一般的にはタマモの言う通り、ですな」


「まぁ、実際、ちょっと気持ち悪かったですし」


「バカ、な」


 聖風王は打ちのめされたように、天を仰いだ。


 いままでの常識がすべて打ち砕かれたかのようだ。


 とはいえ、聖風王の反応はあくまでも、それまでの行いが「セクハラかそうではないか」という一点のみであり、聖風王自身の常識が打ち砕かれたというわけではない。


 というか、いまのやりとりはそこまでオーバーなリアクションを取るほどのことではない。


 そう、そのはずなのだが、聖風王にとって、アオイとエアリアルの返答はオーバーキルと言ってもいいほどの衝撃を与えていた。


 それゆえの聖風王の反応。その反応にアオイとタマモは再び引き気味になりながら、ゆっくりとタマモに近付いてきた。


「お、おい、タマモ。このご老体は本当に何者なんだ?」


「NPC表記になっていますが、とてもではありませんが、NPCとは思えないのですが? いろんな意味で」


「……あー」


 アオイとエアリアルの問い掛けに、タマモはなんて答えるべきか迷ってしまった。


 表記上はNPCだが、実際は聖風王は異世界人だ。いや、異世界人ではなく、異世界竜というのが正しいか。

 

 まぁ、どちらにしろ、聖風王が異世界由来の存在であることには変わりはない。


 とはいえ、それを言うとなると、「ヴェルド」がゲーム内世界ではなく、実際の異世界であることから教えなければならなくなってしまう。


 聖風王からは「「ヴェルド」が実際の異世界であることは無闇に教えてはならん」と言われているため、「異世界の住人です」と言うのはできない。


 かといって、NPCらしからぬ反応をする聖風王をNPCで誤魔化すのは無理がある。


 そもそも、ふたりとも聖風王がただのNPCではないと確信しているあたり、どうにも面倒なことになってしまっていた。


「どうしたものかなぁ」とタマモが本気で悩んでいると、当の聖風王が不意に口を開いたのだ。


「む? 我が輩か? 我が輩は「エターナルカイザーオンライン」の運営チームのひとりじゃよ」


「え?」


「運営の方なのですか?」


「うむ。そこにいるプレイヤーのタマモ殿とは、いろんな繋がりゆえに師弟関係を結ぶNPCという役割を演じさせてもらっておる。ちなみに、我が輩以外にもNPCを演じる運営はおるぞ?」


 かっかっか、と聖風王はまさかのデマカセを口にしてくれた。


 が、タマモにしてみれば、「あんた、なに言ってんだよ?」と言いたくなることであった。


 だが、当の聖風王は気にすることなく、淡々とデマカセを口にしていった。


「今回は運営の間でも問題となっている行為が発覚しての。その対処にタマモ殿にも協力してもらうことになったのじゃよ」


「問題行為、と言いますと?」


「うむ。それはじゃの──」


 聖風王は淡々としながら、デマカセの事情を語っていった。


 そんな聖風王にタマモはただ困惑しつつも、聖風王とアオイたちのやりとりに耳を傾けていった。

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