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32話 嵐の終わりを

閲覧注意。

苦手な方はブラバお願いします。

連続してそういう展開が続きまして申し訳ないです。


 ひどく苦い。


 口の中に広がる初めての味に、エリセは顔を顰めていた。


「くくく、ちゃんときれいにするんやで?」


 下卑た笑みを浮かべるラモン翁。顔さえも見たくないゲスではあるが、髪を掴まれている以上、どうしようもなかった。


 エリセは言われるがままになっていた。


「歯を当てるんちゃうで?」


 ラモン翁から指示が飛ぶが、エリセは頷きだけで返していた。


 状況的に返答はできないので、頷くことでしか返事ができないのだ。


 返答をしないのは本来なら、ラモン翁を苛立たせるものでしかないだろうが、現状においてはラモン翁の嗜虐芯をこれ以上となく刺激させることなので、これといったお咎めはない。


 お咎めはないものの、時折、ラモン翁が喉の奥にまで押し込んでくることが困りものだ。


 歯を当てるなとか抜かすくせに、歯が当たるようなことをするのはどういうことだろうかとエリセは思いながらも、いまのところどうにか耐えていた。


 押し込まれるものは完全に異物であり、その異物を押し込まれるのはもちろん、みずからの意思で咥えることさえ初めてのことだった。


 同じ初めてでも、ラモン翁ではなくタマモであれば、どんなことをされても問題はなかった。


 仮に押し込まれてもえづくこともなく、「旦那様に満足してもらいたい」という一心で、みずから深くまで咥えていたであろう。


 だが、目の前にいるのは最愛の良人ではない。


 血の繋がりはいくらか薄いが同じ血族の者。関係的に言えば大叔父にあたるラモン翁だった。


 ヒューマン種的に言えば、古希にあたる年齢の人物だが、老いてますます盛んという言葉を体現しているようだ。


 いったいどれほど相手をさせられたのかもわからない。


 さすがに参ってしまうほどの回数だったわけではないと思う。


 が、苦痛すぎて回数を数えるのをやめてしまったので、いったいどれほど付き合わされたのかさえもわからなかった。


 だが、それも一応はこれで終わりなのだろう。


 獣のように腰を振っていたのが一転し、いまはそれをきれいにしろとエリセの髪を掴んで無理矢理咥えさせている。


 知識としてそれが苦いということはなんとなく知っていたが、まさかここまでひどい味がするとは思っていなかった。


 とてもではないが、こんなものをいつまでも咥えていたくないし、味わいたくもなかった。


 だが、髪を掴まれている以上、エリセには拒みようがなかった。


「こっちも優秀やな? ガワだけやなしに、体もまた最高やったとはな」


 ラモン翁の呼気が乱れていた。


 心臓に負担が掛かっているというわけではなく、単純に興奮しているのだろう。


 もしくは果てるのが近いのか。


 どちらにしろ、エリセにとっては歓迎しづらい状況だった。


 早く満足してくれとしかエリセには思えなかった。


 相手がラモン翁ではなく、タマモであればいつまでだって相手ができる。


 それどころか、エリセから強請るかもしれない。


 本当に相手が相手でなければとエリセはしみじみと思っていた。


 だが、どれほど願ったところで現実は変わらない。


 目の前にいるのがラモン翁からタマモに変わることはない。


 いっそのこと泣きたくなってしまう。


 だが、泣いたところで現状が好転するわけじゃない。


 むしろ、悪化するとしか思えない。


 フブキという人質がいる以上、エリセから行動を起こすことはできない。


 ラモン翁にただ従うことしかできない。


 それがラモン翁にはこれ以上となく嗜虐心を刺激させてくれるのだろう。


 妖狐としての格は、圧倒的にエリセに劣っているのが、この状況下ではエリセを奴隷のように扱うことができるのだ。


 無駄に高すぎる自尊心を、いままでずっと貶され続けてきた自尊心をここぞとばかりに満足させようとしているのだろう。


 そういうところがゲスと断ざれてしまう要因なわけだが。


 仮に妖狐としての格が圧倒的に劣っていたとしても、日々の振る舞い次第で尊敬されることもある。


 現に「風の妖狐の里」の次期里長とされている大ババ様の長男にあたる人物は、妖狐としての格はエリセよりも劣っている。


 だが、格が劣っていても、エリセは彼の人物を貶さそうとは思っていない。


 彼の人物は若輩だからと侮ることはせず、常に礼節に則って行動を起こすからだ。


 礼節を重んじるその姿勢がエリセには好ましく映るし、周囲の人物もそんな彼だからこそ、次期里長として推しているのだろう。


 まぁ、そうなったのも単純に母である大ババ様からいろいろと言われて矯正されているだけかもしれないが。


 しかし、どのような理由があるにせよ、彼の人物が尊敬を勝ち取れるだけの人物であることには変わらない。


 そんな彼の人物に比べて目の前にいるラモン翁は、ただのゲスでしかなかった。


 自身の一族を至上とし、他者を見下す。


 そのくせ、実力はないに等しい。


 それこそ、よっぽどのことがない限り、幼少のフブキにさえ劣るほどの力しかないのだ。


 そう、そのよっぽどのことがあったからこそ、エリセはこうして窮地に立たされることになった。


 もし、なにかひとつ違っていれば、こんなことにはならなかった。


 そう、なにかひとつでも違っていれば。


 なにかひとつ。なにかひとつでも違ってさえいれば、こんなことをしなくてもよかったのに。


「へ、へへへ、こぼしなや!」


 ラモン翁が突如叫ぶと、いままでになく喉の奥にまで押し込まれた。


 その次の瞬間、喉の奥が熱くなった。


 火傷しそうなほどの熱い塊が、喉の奥に放たれていく。


 ラモン翁は髪ではなく、エリセの頭を掴みながら押しつけてきた。


 それまで以上の力でかつ、口蓋垂を押しのけるようにしてねじ込まれたことで、エリセの視界は自然と歪んでいた。


「飲め、飲むんや!」


 ラモン翁が叫ぶ。


 飲めと言われて飲みたいものではない。だが、息ができなかった。


 呼吸を求めて、エリセの体はエリセの意思に反して、それを飲み込んだ。


 ひどい味がした。


 喉にところどころで引っかかり、とてもではないが常飲したいとは思えないもの。


 こんなものを飲ませるなと言いたかった。


 こんなものを飲ませたがる男というのはどういう感性をしているのだろうとさえ思った。


 いままで放たれたものを舐め取るのでさえ嫌だったが、直接放たれたそれの嫌悪感はいままで以上だった。


 いままでのものは、下腹部の内側に溜まっている。


 だが、口の中に直接放たれたそれは、あまりにもひどい味だった。


 もし、タマモに同じことをされたとしても、さすがに吐き出すかもしれないとさえエリセは思った。


 ……もっとも吐きだしたところで、タマモは気にしないだろうし、無理をしなくてもいいと言ってくれることだろう。


 タマモは、エリセの最愛の良人はそういう人だからだ。


 そんな人だからこそ、いろいろとしてあげたくなってしまう。


 まだ半年。


 出会ってまだ半年も経っていないというのに、ずいぶんとぞっこんになってしまっているものだ。


 いままで生きてきた日々と比べたら、数百分の一にしか過ぎない日々。


 だが、その日々がかけがえのないものだった。


 いままでの日々に比べれば、それこそ閃光のようなもの。だからこそ、いままで感じたこともないほどの煌めく日々だった。


 その日々で得られたものを守る。


 だからこそ、エリセは──。


「……これで満足どすか?」


 ──吐き出されたものをすべて飲みきり、口元を乱暴に拭った。


 ラモン翁を睨み付けるも、ラモン翁は喉の奥を鳴らして笑うだけ。


「なにを言うてるんや? まだここからやろうが!」


 犬歯を覗かせながらラモン翁は叫ぶと、エリセを再びベッドに押しつけ、エリセの上に跨がった。


 下腹部が熱くなる。


 エリセは顔を背け、鏡を見つめた。ラモン翁が現れた鏡の先に映る、氷塊の中に閉じ込められたフブキを見つめながら、「待っとってね」と心の中で呟く。


 錯覚だろうか?


 氷塊の中のフブキの目尻から涙が零れたように思えた。


 それを確認するよりも早く、ラモン翁がエリセの顔を掴み、無理矢理元の位置に戻すと、唇を吸ってきた。


 ラモン翁を睨み付けるも効果はない。それどころかよりラモン翁をそそらせるだけだった。


 それでもとできる限りの抵抗をしながら、エリセは時間が過ぎるのをただ待ちわびた。


 嵐が過ぎ去るのをただ待ち続けていった。

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