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19話 顕現する夢幻

 木の葉が揺れる音が聞こえてくる。


 風によって木々が揺れ、木の葉が音を立てて舞い踊る。


 舞い踊る木の葉を視界の端に捉えつつ、タマモは大きく深呼吸をしながら、両手を正面へと向かって突きだしていた。


 タマモは薄く目を開き、視線を一点に集中させていた。


 視線に合わせたように、その吐息もなだらかになっていた。


 なだらかな吐息を繰り返していると、タマモは複数の光を体に纏い出す。


 赤から始まり、青や黄色、緑に白、とタマモの七つの尾に刻まれた色と同じ光を纏っていく。


 いや、七色の光がタマモを包み込んでいた。


 タマモを包み込んでいた七色の光は、ほどなくして両手に集まっていく。


 両手に集まった光。その正体はタマモの、いや、「七星の狐」が持つ魔力であった。


 タマモは自身が持つ魔力を手に集中させていた。魔力を両手に集中させる姿だけを見ると、いまから大規模な魔法でも使いそうな雰囲気であった。


 タマモが所有する大規模な魔法と言えば、「四竜王」がそれぞれが司る属性の「禁術」であり、同時にタマモの所有する魔法群でもあった。


 それぞれの「禁術」はあまりの威力ゆえに普段遣いには向いていない。


 それにほとんどが大規模殲滅用の魔法であるため、街中、しかも「始まりの街」と称されるアルト内でぶっ放すことなどできない類いの魔法である。


 仮にアルト内で「禁術」など放ってしまったら、たちまち街中は大混乱ないし、壊滅的な損害を受ける可能性とてある。


「禁術」を取得したばかりだった頃の、「金毛の妖狐」だった頃のタマモ単体であれば、当時取得したばかりの「氷結魔法」の威力は、せいぜいが保冷剤を正面に取り付けた扇風機程度。夏場であれば重宝しそうだなと思う程度でしかなかった。


 が、いまのタマモが「禁術」を放つとなると、話は変わってしまう。


 現在のタマモは当時の一桁台のステータスではなくなっていた。


 現在のタマモのレベルは35。「七星の狐」となってからレベルを10上昇させていた。


「金毛の狐」だった頃のレベルアップ時に取得できる割り振りポイントは2だったが、現在のタマモが取得する割り振りポイントは7となっている。つまり、一回のレベルアップで全ステータスにポイントを割り振れるという状況にある。


「七星の狐」にとクラスチェンジしたばかりの頃のタマモは一部が60だったが、だいたいのステータスは下で30、上で60だったが、10回のレベルアップを経た現在、タマモのほとんどのステータスは60間際ないし超過していた。


「禁術」を得たばかりの頃の、一桁台のステータスと比べると10倍もの格差があった。


 当時でも、威力を出そうと思えば、「三尾」を用いれば驚異的な威力を発揮することは可能だった。


 当時の「三尾」と遜色ない能力を誇るいまのタマモであれば、当時の「三尾」ありでの「禁術」と同等の威力を放つことができる。


 そこにかつての「三尾」にして、現在の「七尾」の助力を踏まえたら、その威力がどうなるのかなんて考えるまでもない。


 いや、考えたくない大惨事が引き起こされるのは目に見えている。


 言うなれば、いまのタマモは、「生きる災害」扱いとなるほどの存在へと成り上がっている。


 もっとも、当のタマモは無闇矢鱈と力を振るうつもりなどないため、「災害」扱いされることはない。


 であれば、いまタマモが魔力を両手に集中させているのはなんなのか。


 その理由は「夢幻の支配者」の能力についての説明を受けたからだ。


 タマモが所有する「夢幻の支配者」という称号。


 称号を受けた当時では、マスクデータがあり、説明はあれど、幻覚と未来視系の魔眼の力を増幅させるとあるだけで、それがどの程度の範囲にまで及ぶのかはわからず、それまでとさほど変わらない程度に収まっていた。


 が、聖風王とトワから説明を受けた現在、「夢幻の支配者」の詳細がアンロックされたのだ。


 アンロックされたのは、「夢幻の支配者」の詳細な能力についてだった。


 その詳細とは──。


 夢幻の支配者……(前略)以上が表向きの能力だが、真の能力は「夢幻」という境目を破壊し、「夢幻」を現世に顕現させること。所持者が想像しうるすべてを創造できる。まさに神の御技に匹敵する。数ある「支配者」と冠する者たちの中でも最上位。まさに「支配者」の王たる者のみが有する称号。


 ──聖風王とトワが説明してくれた内容そのものであったが、「支配者」の王という言葉が付け加えられていた。


 同時に、「支配者」と呼ばれる存在が数多く存在するということもわかった。


 マスクデータになるわけだとタマモがしみじみと感じ取る内容であった。


 そうして「夢幻の支配者」の能力を把握したタマモがいまから行おうとしているのは、「夢幻」の顕現だった。


 聖風王たちや詳細にもあった通り、タマモ自身が想像しうる限りのすべてを創造する力。


 その力を実際に試すことにしたのだ。


 想像できるものを創造する。


 つまりはタマモがイメージできるものであれば、なんでも創造することができるという、まさに神の御技と言えるもの。


 その神の御技をいま実際に行おうとタマモは集中をしていたのだ。


 イメージするのは常に最強の自分という名言はあるが、タマモが行おうとしているのもまさにそれだ。


(最強をイメージというのはわりとわかりやすかったんですね)


 タマモ自身が想像できるもの、という条件ははっきりとしているようで、かなりぼんやりとしていた。


 もっと言えば、指向性がないのだ。


 タマモ自身が想像できうるものという指定だけでは、どうしてもイメージはぼんやりとしたものになってしまう。


 かく言ういままでも、タマモはいまひとつイメージができていなかった。


 想像できうるすべてと言われても、なにを想像すればいいのかという疑問がまず浮かびあがった。


 その疑問から浮かびあがるものは様々にあった。


 たとえば、剣や槍といった武器。


 かと言えば、盾や兜などの防具。


 かつてタマモがしてやられた憎き鷹さん相手に使った下級ポーション。


 普段遣いしている包丁や、フライパンとおたま以外の調理器具。


 思いつくものがあるとすれば、本当に様々だ。


 だが、思いついても、どうしてそのイメージ像ははっきりとしなかったのだ。


 剣や槍どころか、普段遣いの包丁でもイメージがはっきりとしなかったのだ。


 その理由がなんであるのかは、なんとなくわかった。


 想像できうるすべてを想像するという言葉が、足を引っ張っているのだ。


 想像できるものが数多くあるからこそ、それらに目移りしてしまうのだ。


 つまりは集中力の欠如である。


 普段から使い慣れているものであっても、集中力が欠如していれば、どうしても像はあやふやとなってしまう。


 そうなれば、顕現させようにも像が頭の中で確立してくれない。


 加えて、普段遣いしている包丁をわざわざ顕現させるのもという思考も、イメージの確立に邪魔をしていた。


 だが、それも彼の作品の名言を思い出せば、話は変わる。


 彼の作品における名言では、「最強の自分をイメージする」とあった。


「最強」という言葉のおかげで指向性は生じた。


 が、指向性が生じたものの、「「最強」とはなにか?」という疑問が新しく生じた。


 しかし、その疑問もすぐになくなった。


 最強というと、強力な力ということになるが、実際には違うとタマモは思った。


 タマモの思う最強とは、つまるところ、最も強固にイメージできるものということ。


 その点で言えば、最も強固にイメージできるものは、やはり普段遣いしている包丁だった。


 どうせなら、とか、いまさらとかは関係ない。


 いまであれば、寸分違わず思い出せる。


 包丁の質感、重さ、その切れ味、長さもまた。すべてをはっきりとイメージできた。


 イメージできてからは、早かった。


 両手を重ねて魔力を集中させていたタマモだったが、自然と手の形が変わり、普段のように包丁を握ろうと指を曲げたとき、その手の中に普段遣いしている包丁が突如として現れたのだ。


 薄く開いていた目を見開き、手の中に現れた包丁を見やる。


 同時に、インベントリにしまってある普段遣いの包丁を取り出し、左手で握る。


 重さも長さも、その見た目さえもすべてが寸分違わぬものだった。


「うむ、成功じゃな」


「ええ。お見事です」


 顕現した包丁を見て、聖風王とトワは拍手をしてくれた。


「ありがとうございます」とお礼を言うのと同時に、タマモの右手の中にあった包丁は忽然と消えてしまったのだ。


「あれ?」


「うむ。顕現させることに集中しすぎたようじゃな」


「ええ。おそらくはそこで想像が途絶えてしまったのでしょう。もしくは、単純になれていなかったということもあるのでしょうが」


「まぁ、どちらにせよ、修行不足じゃな。今後は定期的に顕現の修行をするとええ」


 聖風王が顎髭を撫でつけ、トワは頬に手を当てながら、それぞれに笑っていた。


 タマモは「いろいろとありがとうございます」とお礼を言った。


 ふたりはそれぞれに頷いた。


 イメージするのはかなり大変だったし、時間も掛かったが、慣れれば時間も苦労も掛からないはずだ。


 要精進。


 何事にも通ずることを改めてタマモは感じ入りながら、「頑張ろう」と決めるのだった。

タマモ レベル35


 HP 171819


 MP 171819


 STR 61


 VIT 61


 DEX 61


 AGI 70


 INT 58


 MEN 58


 LUC 40


 現時点でのタマちゃんのステータスですが、HPMPがディ〇ガイアみたくなった件←汗

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