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18話 想像と創造

 木漏れ日が視界をわずかに焼いていた。


 木々越しに見ても、日の光はやはり眩しくて、思わず目を瞑ってしまいそうになる。


 普段であれば、タマモも眩しそうに目を細めたことだろう。


 だが、いまのタマモは目を細めることはできなかった。


 逆に目を見開きながら、目の前にいる聖風王とトワを見つめていた。


 ふたりの位置はちょうど逆光となっていて影を纏っていた。ただでさえ薄暗い雑木林の中にいるというのにだ。


 雑木林と逆光の二重の影により、ふたりの姿はいつもよりも暗く見えてしまっていた。


 それともこれからすることになる話を踏まえるから、ふたりの姿をより暗く見えさせてしまうのだろうか?


 普段よりもほの暗く見えるふたりを見つめながら、タマモは聖風王が放った一言を再び口にしていった。


「夢を現実にする力」


「うむ。それが「夢幻の支配者」の力にして、「無限の支配者」が支配者たちの中で最上位に位置する最大の理由じゃよ」


 顎髭を撫でつけながら、聖風王は頷いた。聖風王の言葉にトワも頷きながら、「加えて言いますと」と続けた。


「「夢幻の支配者」が冠する「夢幻」とは、その字の通り幻のような夢を司ることを指します。当然幻とあるように「幻術」もその力の範疇です。むしろ、「幻術」の行き着いた先が「夢幻」となるのです」


「「幻術」の行き着いた先、ですか?」


「ええ。「幻術」が行き着いた先にあるもの。それが「夢幻」です、と言ってもすぐにはわかりませんわよね」


 追加で説明しつつも、トワも「これではわからないだろう」と断じた。


 断じながらもトワはいくらか困ったように笑っている。


 その様子を見て、「夢幻の支配者」であるのにタマモがここまで無自覚というのは、相当に問題なのだろうと思った。


 むしろ、トワからしてみれば、「なんで「夢幻の支配者」がここまで無自覚なのか」と言いたいところなのかもしれない。


 タマモにしてみれば、「そんなことを言われても」と言いたいところではある。


 タマモにとって「夢幻の支配者」という肩書きは、「先見の邪眼」と「幻影の邪眼」を取得した際に得ただけのものでしかなかった。


 そもそも、「夢幻の支配者」の詳細がマスクデータであったため、どんな能力なのかさえもわからなかった。


 詳細がわからない肩書きを得て、「なんで無自覚なんだ」と言われても、タマモからしてみれば「詳細がわからないのだから、自覚の持ちようなんてないでしょう」と言いたい。切実に。


 しかし、聖風王やトワにとってタマモの事情はわからないだろう。


 それにこの場合、おかしいのは自分であり、ふたりではないとタマモは思った。


 本来、「夢幻の支配者」に至れる者は、自身の能力について無知であるわけがない。


 自身の能力を十全に把握し、そのうえで能力を拡張しきった結果、「夢幻の支配者」となる。それが当たり前の流れなのだろう。


 が、その当たり前の流れを完全に無視したのがタマモだった。


 もっと言えば、完全なイレギュラーとしてタマモは「夢幻の支配者」となった。


 イレギュラーだからこそ、タマモは「夢幻の支配者」としてはあまりにも知識と自覚がない。


 とはいえ、そのことを説明しようにも、どう説明すればいいのかがタマモにはわからない。


 そのままのことを説明すればいいんだろうけれど、果たしてその説明で納得してもらえるかどうか。


 そこまで考えて、タマモはあえてなにも説明しないことを選んだ。


 説明した方がいいんだろうが、説明をしてしまえば、「どうしたら、そのイレギュラーな状況になるんだ」と問われたら、説明しようがない。


 これに関しては、プレイヤーたちに対しても同じだ。


 事情を説明しても、「再現性があるのか」と問われるだけなのは目に見えていた。


 正直な話、再現性などないとしかタマモには思えない。


 仮に同じような手段を経たところで、タマモのように「夢幻の支配者」になれるとは思えないのだ。


 というよりも、「支配者」と名乗っている時点で、同名の支配者が何人もいるのはおかしいだろう。


 それに聖風王とトワは「夢幻の支配者」のことを単独であるのが当たり前のように言っていた。


「「夢幻の支配者」は支配者たちの中で最上位である」と言った。


 もし複数人が存在するであれば、「夢幻の支配者たち」か、「夢幻の支配者と呼ばれる者たち」という言い方になるだろう。


 が、ふたりは「たち」とも「呼ばれる者たち」とも言わなかった。


 その時点で「夢幻の支配者」はひとりだけの存在なのだろう。いや、支配者と呼ばれる存在は基本的に代替わりするまではひとりなのだろう。


 それを踏まえると、タマモのように「先見の邪眼」と「幻影の邪眼」を取得したところで、同じように「夢幻の支配者」と慣れないと考えるのが妥当だ。


 タマモはいまのところ「夢幻の支配者」をやめるつもりは毛頭なかった。


 であれば、再現性はないとしか言えなかった。


 ただ、「夢幻の支配者」として在り続けるのであれば、やはり相応の知識と自覚は必須だろう。


 そして目の前にいるふたりは、タマモに足りない知識と自覚を促そうとしてくれている。


 タマモにしてみれば、これ以上とない好機と言える。


 その好機を逃す手はないのだ。


 この機会にふたりから「夢幻の支配者」がなんたるものかを教授してもらうべきだった。


 もっとも、すでに教えて貰った内容の時点でとんでもなかったわけだが。


「夢を現実にできるとか、どういうことですか」とタマモはしみじみと思う。


 だが、もしそんなことができればだ。


 たしかに支配者という存在が数多く存在していたとしても、その力が最上位に位置するというのも理解できるのだ。


 できるのだが、「夢を現実にできる」というのはあまりにも荒唐無稽すぎた。


 それとも、その荒唐無稽なことでさえも受け入れられるほどに、「夢幻の支配者」はとんでもない存在だというのか。


 その答えをふたりから教えて貰おう。


 タマモはじっとふたりを見つめた。聖風王とトワはタマモのまなざしを受けて、静かに頷き合った。


「「夢幻の支配者」の力である「夢を現実にできる力」とは、つまるところ、その者が思い浮かべたことをすべて現実にできるということじゃ」


「もっと言えば、この世にないものであっても、創造することができると言うところですわね。タマモ様が想像できるものであれば、どんな荒唐無稽なことであっても創造しうる力。まさに創世神同然の力を持つ者。数多にいる「支配者」の中で、別格かつ最上位に位置する者。それが「夢幻の支配者」なのです」


 聖風王とトワの言葉を聞き、とんでもない存在だったんだなと、タマモはそのとんでもなさに言葉を失いながら、改めて「ヤベエ力を得たもんですねぇ」としみじみと感じ入るのだった。

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