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7話 試合の合間に

 白熱した第八試合が終わり、タマモたち「フィオーレ」も一息を吐いた。


「いやぁ、稼いだねぇ」


 ほくほくとした顔でレンは笑っていた。


「調理」以外のすべてを担当していたはずなのに、「調理」を担当したことで少々お疲れ気味のタマモとヒナギクよりも元気があるように見える。


「レンさんは元気ですね」


「本当だよ。私とタマちゃんは「調理」するだけでへとへとになったのに、それ以外の全部をやっていたはずのあんたはなんでそんな元気なわけ?」


「ふたりとは鍛え方が違うのさ」


 ふふんと胸を張るレン。そんなレンにいくらか呆れたヒナギクとタマモ。しかしレンはそんなふたりの反応を気にすることなく話を続けた。


「100食は出たかなぁ?」


「あー、どうでしょう?」


「どうでしょうって、インベントリのキャベベの残りを見ればわかるんじゃないの? もちろん、こっちも売上金を計算すれば何食出たのかはわかるけれど」


 不思議そうに首を傾げるレンに、タマモはなんと言えばいいのかを考えた。とはいえ、うまい言い方が思いつかなかったので、そのまま伝えることにした。ヒナギクも「そのまま伝えればいいんじゃない?」と若干投げやりなことを言っていた。どうやらそのまま伝える以外にうまく伝える方法はないようだった。


 そんなタマモとヒナギクのやり取りをいまひとつ理解できないレン。蚊帳の外においやられているように感じるが、実際そんなつもりはタマモにもヒナギクにもなかった。ただ事情が事情なためうまく伝えづらいのである。こればかりは実際に「調理」をしないとわからないことだった。


「えっと、ですね。「キャベベ炒め」ってこのゲーム内だとキャベベ一玉も使わないのですよ」


「そうなの?」


「はい、そうなんです」


「エターナルカイザーオンライン」での「キャベベ炒め」は実際のキャベツ炒めのようにキャベべ一玉を使うわけではなかった。


「キャベベ炒め」のレシピとしては「キャベベ一玉」と書かれてはいるが、実際に「キャベベ炒め」を作ると、その余りとして「キャベベ四分の三玉」とか「キャベベ半玉」というものがインベントリに新しく追加されるのである。


 ちなみに「キャベベ炒め」二人前でキャベベを一玉の半分ほど使用することになるので、インベントリに追加されるのは半玉となる。


 そのためキャベベの残りで何食分を作ったのかという予想の計算はできる。が、正確な計算となると、もともといくつのキャベベをインベントリにしまっていたのかで結果は変わってくる。ちなみにタマモは自身のインベントリにどれほどのキャベベをしまっていたのかを憶えてはいなかった。


 キャベベ自体のレア度は1なため、スタックできる数は99個までだ。そのスタックはたしか10はなかったはずだが、正確な数となるとタマモにも自信はなかった。インベントリにはあまりのキャベベである四分の三玉や半玉がいくつかスタックされているようだが、ここから計算するのは非常に面倒くさかった。


「なわけで正確な数はボクにもわからないのですよ」


「そっか。じゃあ、あとで計算してみようかな、って、あ」


 しまった、とあからさまに顔に書くレン。どうやらなにかをやらかしたようだった。


「レンさん?」


「……まさか、あんた自分の財布に直接入れていないよね?」


「あ、あははは」


 固まっていたレンにヒナギクがジト目を向けると、苦笑いしながら顔を反らしてしまうレン。どうやら別個に分けずに財布の中に直接しまったようだった。だがそれなら元の財布に入れた金額との差額で計算すればいいだけのことだろうが、レンの様子からしてことはそう単純な内容ではないようだった。


「……えっと、ね。財布の中身、いくら入れていたか忘れてわからないの」


「……Oh」


「……あんたって本当に詰めが甘いよねぇ」


 レンの告白にヒナギクが頭を抱えてため息を吐いた。どうやら何食出たのかを計算することはかなり難しいようだった。


「まぁ、あとで山分けすればいいのです。それよりも次の準備をしましょう」


「そうだね」


「うん。ごめんね」


「いえいえ、気にしていないのですよ」


 縮こまるレンにあっけらかんと笑って返事をするタマモ。そんなタマモにヒナギクは「タマちゃんは甘いんだから」とため息を吐いていた。ため息を吐きながらも決して心の底から怒っているわけではないあたり、ヒナギクもレンには甘いのではと思うタマモだったが、あえてなにも言わないことにした。


 その後、続く第九試合でも「フィオーレ」の屋台の行列は決して途切れることがなかった。


 途切れない行列を眺めながら、タマモは試合開始時間までを「調理」に明け暮れたのだった。

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