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1話 化け物の夢

本日はかなり短めです。

徹夜みたいなものなので、あまり書けませんでした←汗

『──この化け物が』


 いきなり聞こえてきた言葉に、エリセは「あぁ、この夢か」と思った。


 別に珍しいことではない。


 むしろ、聞き慣れた単語と聞き覚えのある声だった。


 だから、現状をエリセはすぐに察することができた。


 聞こえてきた声に導かれるようにして、エリセは重たいまぶたを開いた。


 まぶたを開くと、うざったくなるほどに、何度も見てきた光景が飛びこんできた。


 エリセの前にいるのは、ひとりの妖狐族の男性だった。


 顔立ちは悪くないが、その性根は腐りきり、自分たち一族が尊い血筋であることをなんの疑いも持たない者たちのひとり。


 そしてエリセにとっての実父にあたる男。


 だが、エリセは男を父として慕ったことは一度もない。


 あくまでも血縁上の父であるということ以外で、男とエリセにはなんの繋がりもない。


 それどころか、男と親子であると認めること自体が、いまのエリセにとっては穢らわしいとさえ思えてしまうのだ。


 はっきりと言えば、エリセにとって男は、父という肩書きを持った屑でしかない。


 そもそも、母であるエリスの言葉を借りれば、死ぬ気でまぐわって、ようやく子を孕ませることができる種なしだった。


 選民思想が過ぎて、血縁関係での婚約を繰り返した結果、生殖能力が低下しただけではなく、まともに体を動かすこともままならなくなった愚者の一族。


 その一族の血をエリセの体には半分流れている。もう半分は最愛の母の血だ。


 エリセにとって、口にするこさえも穢らわしい愚者と息を引き取る寸前までエリセやシオンを気に懸けてくれた母のふたつの血を引くことには大きなコンプレックスとなっていた。


 いっそのこと母方の血だけであれば、どれほどよかったことか。


 種なしどもの血が流れていても、ちっとも嬉しくなどない。


 そんな種なしの顔を、久方ぶりにエリセは見ることになった。


 夢というものはコントロールできないものではあるのだが、どうせ見るのであれば、種なしという愚者の顔ではなく、愛おしい良人がよかったとエリセは心の底から思った。


『聞いているんか、化け物』


 種なしがなにかを言い募る。


 夢の内容は正直憶えていない。


 というか、憶える気がない。


 憶えたところで、エリセが得るものなど、なにひとつもないからだ。


 ゆえに、種なしがなにについて言い募っているのかを、エリセは憶えていなかった。


 憶えていないが、種なしが躍起になにかを言い募るのを見て、エリセはひどく苛立った。


「……やかましいなぁ。黙ってくれしまへん?」


 種なしに向かって、はっきりと黙れと言い切っていた。


 夢の中とはいえ、エリセを明らかに下に見ている種なしにとって、エリセの一言は種なしを激高させるには十分すぎた。


『貴様、保護してやっているのんは、誰や思てるんや!?』


 種なしが唾を飛ばしながら叫ぶ。が、エリセは意に返することなく返事をした。


「少なくともあんたと違うで。そもそも、あんたを父親なんて思たことはあらへん」


『貴様ぁ!』


「種なしでも、吠えることはできんどすなぁ? 初めて知ったわぁ」


 種なしが叫び続ける様を見て、エリセは種なしをあざ笑った。


 その言動に種なしが目を見開き、エリセに向かって拳を振るってきた。


 だが、その動きはあまりにも遅すぎた。


 エリセは余裕を以て種なしの一撃を回避し、がら空きの足元を払った。


 種なしはあっさりとバランスを崩して、転倒した。


 その様子にエリセはおかしそうに笑いながら、詰っていく。


「あっさりと避けられたうえに、簡単に足払いされるなんて、どこまで弱い体なんどすか?」


 くすくすと笑うエリセ。その笑い声に種なしはより一層激高するも、どれだけ激高されたところで、エリセが種なしを恐怖する理由はなにひとつなかった。


 エリセと種なしの間には、比べる事もバカバカしいほどの圧倒的な実力差があった。


 逆に言えば、エリセにとて種なしは、片手間でも余裕で制することができる存在でしかないのだ。


 そんな弱者を相手にどうやって怖がればいいのやら。


 むしろ、怖がる理由が皆無であった。


「とりあえず、蜂の巣にしたるわぁ。


 種なしに向かって、はっきりと殺害予告を口にするエリセ。


 その声には抑揚などは一切なく、淡々と目の前の種なしを処分しようとしていた。


 エリセの抑揚のない声に種なしは、ようやく恐怖したのか、体を震わせながら、「この化け物が」と叫びながら、拳で殴りかかってきた。


 その一発をあえてエリセはスルーし、種なしの顔にと自慢の尻尾を叩き込んだのだ。


 尻尾を叩き込むのと同時に、種なしの姿は掻き消えていった。


 残ったのはなにもないだだっ広い部屋だけだった。

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