Ex-55 追及するユキナ
遅くなりました。ユキナ視点です
やけに仲がいい。
ユキナはそう思っていた。
目の前では、憧れのタマモと友人であるマドレーヌがやけに仲良く話をしているのだ。
別にタマモがマドレーヌと仲良く話をすることは問題ではない。
むしろ、コミュ強と言ってもいいタマモとギャル系のマドレーヌであれば、一度話が合えば仲良く話をするようになることは十分にありえること。
仲良く話をすることは、そういう意味では問題はないのだ。
では、なにが問題なのかと言うと、ふたりの距離感と言えばいいのだろうか。
そう、ふたりはやけに距離が近しいのだ。
それにマドレーヌの口調もいつもとは違っていた。
「──あ、私が取りますよ」
「そう? ならお願いしようかな」
「はい、任せてください」
トンと自分の胸を叩きながら、マドレーヌは笑っていた。
タマモが用意してくれたパンケーキをいまは全員で試食している。
真っ白なパンケーキなんて、初めて見た。
真っ白なパンケーキを初めて見たのは、ユキナだけではなく、ほぼ全員がそうだったようで、最初は物珍しく見ていただけだった。
だが、いまや誰もがそのパンケーキを夢中になって頬張っていた。
真っ白なパンケーキと、その上に掛けられた黄金の蜜。
白銀と黄金のコントラストは、とても美しくて、見事としか言いようがなかった。
銀と金で織りなすパンケーキが、丸太のテーブル中に置かれており、そのパンケーキを誰もが美味しそうに頬張っていた。
その脇にはそれぞれにと用意された紅茶が置かれているのだが、パンケーキは特別であるというのに、紅茶自体は普通のものだ。
とはいえ、投げ売りされているようなティーパックではなく、専門店で購入した茶葉で淹れた紅茶である。
だが、いくら専門店のものとはいえ、パンケーキとは格差がありすぎていて、それなりの値がしてもかえって安っぽく感じられてしまうのだ。
実際、パンケーキを頬張った後に、紅茶を啜っても深みがまるで足りないように感じられてしまった。
逆に言えば、専門店の紅茶を以てしても、タマモが用意したパンケーキを前にすれば、安物の茶葉、いや、ティーパックと変わらないものになってしまうということなのだろう。
専門店の茶葉を安物のティーパックと同列にしてしまう。
いったいどんなパンケーキなんだと、ユキナも第三者であれば確実に思ったであろう。
が、実際に試食と試飲をすれば、無理もないと思わずにはいられなかった。
それだけ、タマモのパンケーキは特別なのだ。
そんな特別なパンケーキのお供にするには、さすがにこの紅茶では荷が重すぎるというのは明らかだった。
だからといって、代わりのものを用意するというのはなかなかに難しい。
むしろ、このパンケーキのお供になれる紅茶なんて存在するのかと言いたくなる。
それはこの場にいるほぼ全員の共通した認識だからだろうか、誰もが紅茶に関しての言及はしていなかった。
しかし、タマモだけは難しい顔でパンケーキを食べては紅茶を啜るを繰り返しては腕を組んでいた。
パンケーキだけでも十分すぎるほどではあるが、タマモにとってはパンケーキを出すのであれば、紅茶とのセットは必須と考えているのだろう。
実際、パンケーキ、いや、甘いものには基本的にドリンクがセットとして付いてくるのが当然ではある。
もちろん、甘い物を単品でも問題はない。
問題はないが、このパンケーキだけというのも、それはそれで寂しい気はする。
このパンケーキだけでも、十分なほどの客寄せ効果はあるだろうし、食べればほぼ間違いなく誰もが絶賛することであろう。
しかし、それはそれとして、そこに相応しい飲み物も付けばより一層満足度は高まることであろう。
要は、パンケーキだけでも十二分に完成しているが、より上を求めるのであれば、ドリンクは必須だった。
そしてそのドリンクの候補として用意した紅茶では、お供にするにはあまりにも格差がありすぎてしまっていた。
無論、この紅茶とて単品で飲めばなんの問題もない。
むしろ、実に上品な味わいである。
だが、お供になる相手が悪すぎたというだけのことである。
だからこそ、タマモは悩んでいるわけであるのだが。
悩みながらも、タマモはまだ残っていた蜜を紅茶に入れようと、ハニーボトルへと手を伸ばそうとしていたのだが、タマモに先んじてマドレーヌがハニーボトルを取ったのだ。
てっきりマドレーヌが使うのかと思ったが、マドレーヌはタマモのためにハニーボトルを代わりに取ったのである。
それ自体は別に問題はない。
タマモとマドレーヌの間にハニーボトルはあり、タマモよりもマドレーヌの方がハニーボトルとの距離が近かった。
それは間違いではないし、ユキナとて同じ上京であれば、代わりにハニーボトルを手にしたことであろう。
だから、問題は──。
「はい、姉様。どうぞ」
「うん、ありがと、って、ぁ」
「え? ぁ」
──問題は別にあった。
というかだ。
いまマドレーヌはなんと言っただろうか?
「……ねぇ、マドレーヌちゃん? いまなんて言ったの?」
ユキナは恐る恐るとマドレーヌに声を掛ける。
すると、マドレーヌの背がいきなりびくんと震え上がったのだ。
「え、えっと、別になんでも」
「なんでも? おかしいなぁ。私の耳にはたしかタマモさんを「姉様」って呼んでいたように聞こえたよ?」
「……い、いや、別に気のせい、だよ」
「気のせい? それにしては、タマモさんもなんだか呼ばれなれしているようだったけれど」
首を傾げながらユキナはマドレーヌとタマモをそれぞれに見やる。
たったそれだけのことだったのだが、なぜかマドレーヌはまた背を震わせた。いや、マドレーヌだけではなく、今回はタマモも背を震わせたようだ。
いったいどういうことだろうと思いつつも、ふたりを見やると、アンリとエリセ、それにフブキを除いた全員がふたりを見つめていた。
NPC組はともかく、プレイヤー組が総じてふたりを見つめるという状況になっていた。
「あ、えっと、その、ユキナちゃん。これにはちょっと事情が、ね」
「事情? 事情ってなんですか? どんな事情があれば、タマモさんを「姉様」とマドレーヌちゃんが呼ぶようになるんですか?」
「そ、それは、えっと、その、ねぇ、円──じゃなく、マドレーヌ」
「あ、は、はい、そうですね、姉様」
「ちょ、ちょっとまた言っちゃって」
「え? あ、しまった!」
ふたりの顔が明らかに「やらかした」と書いていた。
プレイヤー組は誰もが「どういうこと?」と困惑し、NPC組は「あー、やっちゃった」と溜め息を吐いていた。
どうやらNPC組には伝えているが、プレイヤー組には伝えていない事情があることは間違いなさそうである。
「タマモさん、マドレーヌちゃん。お話聞かせて貰えます?」
「「……はい」」
ふたりは揃って項垂れながら頷いた。
そのあまりにも息が合った言動に、ユキナは「面白くないなぁ」と思いながらも、ふたりに事情を聞くべく、追及を始めるのだった。
かわいいヤキモチを書くつもりだったのに、なぜかヤンデルっぽくなったでござる←




