3話 紅華
「へぇ、そっか、タマモちゃんが例のプレイヤーさんだったのかぁ」
ローズと出会った廊下から所変わって、現在タマモたち「フィオーレ」とローズ率いる「紅華」は「闘技場」内に設置されているカフェで同じテーブルに着いて、お茶会の真っ最中だった。
「生産板で「通りすがりの狐」ってプレイヤーが例の三称号の発見者だっていうのはわかっていたけれど、タマモちゃんだったとはね」
ローズは興味深そうにタマモを見つめていた。ローズはヒナギクやアオイとはまた違ったタイプの美人さんだった。女子校の王子様というか、女性にモテそうな美人さんだった。おそらくはバレンタインデーには後輩から大量のチョコレート、それも本命を貰っていたり、卒業式の日には制服からボタンというボタンがすべてなくなっていたりしそうなタイプだった。
「なんの因果かはわからないですけどね。気付いたら、取得できていたのです」
「まぁ、普通害虫扱いされていたクロウラーに餌付けしようなんて考えるプレイヤーなんていないもんね」
「タマちゃんは特殊枠だからねぇ」
ローズに褒められていることが微妙にくすぐったいタマモは、あはははと苦笑いしていた。そんなタマモを見て、にやにやと笑うヒナギクとレン。なんだか今日のふたりはやけに意地悪だなと思うタマモ。そんな三人のやり取りを穏やかに見守るローズと他の「紅華」のメンバーたち。
ちなみに「紅華」は四人のクランであり、前衛もこなせるレンジャーのローズをリーダーに、治療師ひとりに、魔導師ふたりという、後衛に比重が置かれた構成だった。ローズを含めて全員が女性であり、全員がタイプの違う美人さんだった。とてもいい目の保養になるなとタマモはひそかに思っていた。
「しっかし狐ちゃんってずいぶんちっこいけれど、そんなんで「武闘大会」に出て大丈夫なのか?」
「こら、サクラ。ほぼ初対面の相手に馴れ馴れしくしないの!」
「サクちゃんはいつもこうじゃない。いまさらだと思うよ、リップ」
「だけど、ヒガン」
「ヒガン姉の言う通りだよ。リップ姉は口うるさいんだよなぁ。だから嫁の貰い手が──」
「それとこれとは関係がないでしょう!?」
「ひぇ! リップ姉もすぐに怒るとこは治すべきだろう!?」
ローズの仲間である魔導師のサクラとヒガン、治療師のリップが穏やかとは言えない会話を交わしていた。サクラとリップは見た目が似ている。リップは二十代手前から前半くらいであり、ヒガンも同じくらいか。サクラは十代半ばくらいだろうか。リップとヒガンに比べるといくらか幼さを感じさせるものがあった。リーダーであるローズはリップとヒガンよりも少し年上に見える二十代半ばくらいだろうか。ずいぶんと年齢に幅はあるが、仲はよさそうだった。
いまもサクラたちが騒ぐのをローズは穏やかに見守っていた。まるで母親のようにも見える姿だった。
「あははは、ごめんね、うちのメンバーが騒いじゃってさ」
「あ、いえ別に気にしていないです」
「リップさんとヒガンさんは相変わらずって感じですね」
「サクラさんとは初めて会いましたけれど、みなさんと仲がいいんですね」
タマモたちの視線に気づいたローズが慌てて謝ったが、タマモはもちろんヒナギクもレンも気にしていなかった。ただヒナギクたちはリップとヒガンには会っていたようだが、サクラとは面識がなかったようだ。おそらくはサクラがローズの言っていた新しいメンバーなのだろう。その割にはリップたちと遠慮のない話をしているのは不思議なことだったが。
「あぁ、サクラね。サクラは実はリップの実の妹さんなんだよ。だから私やヒガンとも以前から知り合いだったんだ。だからこうしてみんなで騒いでいるってところかな?」
ふふふと穏やかに笑うローズ。笑いながらもその目はサクラたちへと向けられていた。その目はやはりとても優しいものだった。
「それに仲がいいというのであれば、君たち「フィオーレ」だって負けていないと思うよ? ヒナギクちゃんとレンくんがお嫁さんと旦那さんなのは──」
「「ただの幼なじみです!」」
「はいはい、幼なじみなのは知っているけれど、タマモちゃんとはこのゲームで初めて会ったんでしょう? その初めて会った人はずなのに、もう十年来の友達って雰囲気がしているもの。そっちの方が私はスゴイと思うけどね」
ローズの素直な言葉になにも言えなくなってしまうタマモたち。そんなタマモたちを見てローズはまた穏やかに笑った、そのとき。
「お待たせいたしました。予選試合の準備が整いましたので、参加者の方は試合会場にまでお越しください」
「闘技場」内にワールドアナウンスが響いた。そのアナウンスを聞き、参加者らしくプレイヤーがぞろぞろと移動を始めた。
「……どうやらお茶会はここまでかな? 今度会うときは敵同士かもしれないけれど、お互いに健闘しよう」
「はい、ローズさん」
出会ったときのようにローズが右手を差し出してくれた。差し出された手を握りながらタマモは力強く頷いた。




