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Ex-7 仮面の下の想い

「通りすがりの紡績職人」ことサエさん視点となります。

 P.S.誤字報告ありがとうございました。お礼が遅くなり申し訳ないです←汗

 デントが悲鳴を上げながら階段を駆け下りていく。


 その姿をサエはため息を吐きながら見つめていた。


「……ったく、あの変態ロリコンは仕方がねえなぁ」


 やれやれとため息を吐きつつ、サエは身に着けていた仮面を弄る。仮面と言っても全体的に覆っているものではなく、部分的に顔を露出しており、全体像は見えないが部分的にサエの素顔を見ることはできるものだった。


 そもそもサエ自身顏を隠す意味はなかった。ただ念のために仮面を付けているだけだった。間違ってもタマモに見られないためにわざわざ仮面を付けているのだ。


「……行きよりも速いじゃねえか、あの野郎」


 駆け下りていたデントの姿はすでに見えなかった。わずかに見えるが、もうだいぶ姿は小さくなっており、いつ見失ってもおかしくなかった。行きでは散々待たされたのだが、帰りではあっさりというのは待たされた側であるサエとしては納得しかねるものだった。


「まぁ、いいか。一応釘を刺しておけたし」


 螺旋階段から離れて、サエは屋上の縁へと足を向けた。縁には手すりがあるため、手すりを乗り越えないかぎりは、落下しての死亡などはありえない。もっとも手すりがあるからと言ってふざけすぎていたら、落下するなんてこともありえそうだった。どちらにしろ油断するべきではなかった。


「……現実では毎日会えているから、気にはしていなかったけどなぁ」


 仮面を弄りながらサエが考えるのはタマモのことだった。正確にはプレイヤーとしてのタマモではなく、現実世界でのタマモ──玉森まりものことをサエは考えていた。


「やっぱりこっちでも会いたいな」


 眼下には「アルト」の街並みが見える。その一画──それなりの規模の雑木林とその先に立つ大きな施設──農業ギルドをサエはじっと見つめていた。


「あそこにおられるんだよな」


 会おうと思えば、いつでも会える。現実世界ではそれこそ毎日毎晩と会っている。だがゲームでは不思議と会いづらかった。最初「通りすがりの狐」が誰なのかがわからなかったのだ。「口調は似ている」と思っていたが、まさか口調が似ているどころか、同一人物であるとは思ってもいなかった。


「……あたしも耄碌しているなぁ。同じゲームをしているっていうのに、その可能性にまるで気づかなかったよ」


 手すりを掴みながら、サエはじっと農業ギルドを見つめていた。正確には雑木林のすぐそばにあるというタマモの畑を見つめていた。


「……あなたはこのゲームの中でも私にお会いしたいと思ってくださいますか、まりもお嬢様?」


 サエはタマモではなく、まりもにへと問いかけていた。だが、まりもからの返答はない。あるわけがない。それでもサエは問い掛けずにはいられなかった。


「……私は、早苗はお会いしとうございます。このゲームの中でもあなたにお会いしたいです」


 サエは、現実での名前を──玉森家メイド隊の隊長であり、まりも専属のメイドである早苗として語り掛けていた。そう、「通りすがりの紡績職人」ことプレイヤー「サエ」は、まりものメイドである早苗だった。


 まりもには黙っていたが、実は早苗もベータテストに参加していたのだ。遠隔地からでも参加可能だったこともあり、玉森家の使用人たちの私室から毎晩ベータテスト用の回線で「エターナルカイザーオンライン」のベータ版をプレイしていた。


 ゲームの中とはいえ、まりもに危害を加えようとする不届きものが存在するかもしれない。その不届きものからまりもを守るために、まりもが興味を持っていた「エターナルカイザーオンライン」のベータテストに参加したのだ。もっとも途中からは早苗自身がのめり込んでしまっていた。まさにミイラ取りがミイラになってしまったの典型だった。


 当初とは目的は異なるも、まりもの心配をしていたことには変わりない。そしてそのまりもが正式リリースされた「エターナルカイザーオンライン」をプレイしている。


 本当なら真っ先にまりもの元へと駆けつけたかった。「まりもお嬢様をお守りします」と言おうとしていた。


 だが、まりも、いや、タマモが逆境に打ち勝とうとする姿を見て、その考えはやめた。


「まりもお嬢様はもう子供ではないんだなぁ」


 早苗が守ってあげなければならなかった子供ではもうないのだ。たとえ十歳頃から見ためが変わっていなかったとしても、その中身はもう子供とは言い切れないものだった。


「……あんなに幼かったお嬢様が、立派になられたものだよ」


 初めて出会ったときのまりもは、とても幼かった。まりもの物心がつく前に早苗は玉森家のメイドとして働くようになった。そのときのことを早苗はいまでも昨日のことのように思い出せる。


「会うのは簡単だ。でも、それじゃダメだ。ひとり立ちされようとしているお嬢様の脚を引っ張るわけにはいかない。あたしにできるのは、お嬢様のサポートだけ。いまも昔もそれだけなんだ」


 早苗がメイドとしてできることは、主であるまりものサポートだった。それはどれだけ時間を経ようとも変わることはない。


「……お会いすることはできませんが、早苗はお嬢様をずっと見守っておりますよ。だから頑張ってくださいね、まりもお嬢様」


 夕暮れに包まれる「アルト」の街並みをぼんやりと眺めながら、サエは胸の中に宿るタマモへの想いをあえて抑え、その努力が実を結ぶことをただ願い続けた。

 これにて第二章は終了です。

 第三章は少し間をあけまして、3月27日の正午より開始となります。

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