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3話 会議

「フィオーレ」の本拠地問題は、メンバーが増えたことにより起きたことだ。


「フィオーレ」のメンバーのうち、本拠地で寝泊まりしているのは、相変わらず大ババ様の宿屋で寝泊まりしているユキナを除くと、六人。


 なのに、個室は三つしかない。


 どう考えてもキャパオーバーの状況である。


 この状況はフブキがエリセの補佐役として加入したことでより加速してしまっているが、現状は農業ギルドの一室を借り受けることでどうにか対処している。


 だが、農業ギルドの一室を借り受けているのは、あくまでも緊急措置でしかない。


 緊急措置は基本的には一時的なものでしかないのに、その緊急措置を二ヶ月近く続けているのだ。


 さすがにそろそろ本格的な対処をするべきだと結論づけるのは当然のことであった。


 なお、農業ギルド側にしてみれば、「武闘大会」以後のギルドの盛況っぷりはすべて「フィオーレ」が「武闘大会」に優勝したことが起因であり、その恩恵を農業ギルド側は一方的に受け取っているのが現状である。


 農業ギルド側にとっては、宿泊施設の一室どころか、新しい宿泊施設と称して、農業ギルドの総力を挙げて「フィオーレ」の本拠地を建てようという議題が上がっているのだが、そのことを当のタマモたちは知らない。


 ちなみに、「フィオーレ」の本拠地を農業ギルドが建てようという議題は、すでに議題どころか、半ば満場一致の状態にある。


 それどころか、すでに「フィオーレ」の新本拠地の建設場所の選定まで終わっており、後はどの工務店に声を掛けるかという段階なのだ。


 それだけ、「フィオーレ」の貢献度は高く、もし本拠地をアルトから別の街に移したとしても、その街の農業ギルドが全身全霊で「フィオーレ」に対しての行動を取るほどである。


 そんな状況であるにも関わらず、当のタマモたちが自分たちの貢献度に対して無頓着なのは、「武闘大会」の優勝はアンリを取り戻すための手段でしかなかったためだ。


 その後の余波に関しては完全に思慮の外であり、まさか農業ギルドがそこまで自分たちのために動いてくれているとは考えてさえいない。

 

 言うなれば、タマモたちと農業ギルド側で大きなすれ違いが起きてしまっていたのだ。


 ゆえに、タマモたちの議題は半ば的外れではあるのだが、そのことを本人たちが認識することなく、六人の会議は始まってしまったのだ。


「とりあえず、大前提を決めましょうか」


 タマモはマスターとして進行を務めていた。ちなみに議事録として、ヒナギクに書記役をお願いしており、ヒナギクは会議の内容を逐一書き留めてくれていた。


「大前提と言うと、この本拠地を放棄して新しい場所を探すか、もしくはリフォームするってこと?」


「ええ。どちらもメリットとデメリットがありますけれど、前提を最初に決めておかないと、どうにもなりませんから」


 レンが軽く挙手しながら、質問をするとタマモは淡々と返事をした。


 返事をしながら、タマモは新本拠地を探すこととリフォームのメリットデメリットを提示していく。


「まずは、新本拠地を探すことですが、これに関してのメリットは即効性ですね。ちょうどいい物件を見つけられれば、すぐにでも新しい本拠地へと移動できます。リフォームとは違い、すでに存在している物件ですから、時間は掛からずに移動できます」


「デメリットはちょうどいい物件が都合良く見つかるかどうかと賃料、ですね?」


「そのとおり。いまの時期は四月。新生活が始まったばかりの頃ですから、ちょうどいい物件はだいたい埋まっていると考えた方がいいです。加えて、そのちょうどいい物件の賃料がどれくらい掛かるのかという見通しができません」


 アンリがレンに倣って挙手をしながら、新本拠地を探すデメリットを口にする。タマモは頷きながら詳細を語った。


 この場にいる誰もが今回の議題の内容は把握している。


 それでも認識の共通は大事であるため、あえてタマモはわかりきっていることを説明していた。


 その内容をヒナギクは静かに書き留めている。ヒナギクが議事録を記しているのを確認しながら、タマモは続けた。


「付け加えると、ちょうどいい物件が見つかるまで、どのくらいの期間が掛かるかも見通しがつきません。もしかしたらすぐに見つかるかもしれませんし、月単位掛かるかもしれません」


「あと、ちょうどええ物件の賃料もこちらの予算内に収まるかちゅう問題もありますなぁ」


「うん。そのことも含めて「ちょうどいい物件」と出会える可能性は稀と言ってもいいです。だからこそ、時間はいくらでも掛かると考えた方が無難ですね」


 エリセも先のふたりに倣って挙手しながら、賃料の問題を口にする。


 この場にいるだけで六人。大ババ様の宿屋で寝泊まりしているユキナを含めたら七人という、少数とは言い切れない規模となった「フィオーレ」がそれぞれの個室を用意するとなると、それなりの規模の物件は必須である。


 となると、その分だけ賃料も跳ね上がるわけで、タマモたちの予算内で収まり、いろんな面で合致する物件などそうそう見つかることはない。


 タマモの言う通り、時間はいくらでも掛かってしまうというのは的を射た言葉であった。


「次はリフォームに関してです。リフォームであればいまの本拠地を建て増しするので、新しい物件を探す手間はかかりませんし、賃料もいりません。それに引っ越しをする必要がないというのがメリットですね」


 タマモは今度はリフォームに関してのメリットを口にしていく。すると、それまで黙っていたフブキが「はい」と小さな体を必死に伸ばして挙手をした。


 タマモは「どうぞ」とフブキを指名すると、フブキは「はい」と元気よく頷いた。


「住み慣れた場所で過ごせるちゅうことも大きおす。やっぱし初めて住む場所よりも、住み慣れた場所の方が落ち着く思うんどす」


「ん~? そらここよりも里の方が落ち着くってこと?」


「そ、そないなわけちゃいます! ただ一般論で──」


「わかってんで。ただおちょくっただけ」


「も、もう奥様ぁ!」


「かんにん、かんにん」


 フブキの発言をエリセが人が悪そうな笑みを浮かべながら揚げ足を取った。


 フブキは慌てながら否定するも、エリセは笑いながら「からかっただけ」と言い、その言葉にフブキは憤慨しながら、ぽかぽかとエリセに駄々っ子パンチをお見舞いしていく。


 エリセは笑いながらフブキの駄々っ子パンチを五本の尾で受け止めていた。


 ふたりの関係は主従であるものの、そのやり取りはまるで歳の離れた姉妹のようであった。


「……続けますね。フブキちゃんの言う通り、住み慣れた場所から離れる必要がない。これはなによりもメリットだとボクは思っています。ここを離れることはできるだけボクはしたくないです」


「それはタマちゃんだけじゃないよ」


「あぁ、ここはクーたちと建てた思い出の場所だからね」


 タマモが続けて語った詳細は、ヒナギクとレンも同意していく。


 クーはもういない。あれだけいた虫系モンスターズも、数えるほどしかいなくなってしまっている。


 それでも、クーたちと協力して建てたという思い出がなくなったわけではないのだ。


「アンリは、クー様のことをすべて憶えてはいません。ですが、憶えていることはたしかにあります。そして知っています。思い出を手放すことは、身を引き裂かれるくらいに辛いことなんだってことをです」


 最後にアンリがはっきりと、だが強い視線でタマモを見つめていた。


 その視線にタマモは静かに頷くと、エリセとフブキを見やる。ふたりもまた静かに頷いていた。


「……デメリットを話そうと思っていましたけれど、やめますか。もう満場一致でしょうし」


 ぼりぼりと後頭部を搔きながら、まるで「仕方がないなぁ」と言わんばかりの態度を取るタマモ。


 そんなタマモに全員が頷いた。


「では、満場一致で、リフォームするってことでいいですか?」


 タマモが全員に問い掛けると、「異議なし」と全員が返答した。


「では、リフォームを前提として、どういう風にリフォームするかを話し合いましょうか」


 タマモは議題を変えて会議を進行させていく。


 議題が変わったことで次々に挙手が行われていく。


 そのたびにタマモは指名し、その内容をヒナギクが忙しなく書き留めていく。


 こうしてタマモたちの本拠地はリフォームすることが決まったのだった。

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