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55話 リンク効果

「取得経験値上昇極」と「取得経験値極減」──。


 取得経験値系のスキル同士でありながら、真逆のアプローチである両者。


 どちらも現時点ではタマモしか取得していないスキルだが、その両者にまさかの隠し効果が存在していた。


 その隠し効果が両方のスキルを取得するとリンク効果として、両者のスキルが混じり合うこととなる。


 具体的には「取得経験値極減」がベースとなり、その効果の発動枠を緩和させ、「取得経験値上昇極」の効果を上乗せするというものだ。

 

「鑑定」で読み取った結果を見て、タマモは固まった。


 ただでさえ、「取得経験値上昇極」の効果が、取得した瞬間から、経験値を取得できるすべての行動において、5倍もの経験値を取得できるというぶっ壊れだったのだ。


「取得経験値極減」のせいで、「調理」以外での経験値取得はできなくなっていても、いままでの5倍もの経験値が取得できるというのは破格だった。


 それがリンク効果のおかげで幅が広がったのだ。


「鑑定」結果を踏まえると、「調理」と同種の行動において経験値が5倍になるとあった。


 この同種の行動というのがミソである。


「タマちゃん?」


「どうしたの?」


 ヒナギクとレンの声が聞こえた。


 タマモはその声でようやく自我を取り戻した。


「あ、えっと、ですね。ちょっと恐ろしい結果が」


「恐ろしい結果?」


「もしかして、「極減」に弾かれちゃったの?」


「いえ、むしろ逆でして」


「「逆?」」


 ヒナギクとレンは怪訝そうに首を傾げていた。


 まぁ、そうなるよなぁとタマモは思いつつ、じっと自分たちのやり取りを見詰めているガルドたちに視線を向ける。


 この話は皆に話してもいいのだろうかと一瞬考えたものの、いまさらかと思った。


 大前提として、すでに「極減」のことは知られているし、「上昇」を取得したのもの知られている。


 であれば、リンク効果について話したところで、痛痒はない。


 むしろ、この先タマモと同じ状態に陥るプレイヤーが現れた際の指標となれる。


 タマモは開拓者であったがために、手探り状態であり、アドバイス云々をしてもらえることはなかった。


 が、この情報が知られれば、タマモ自身がアドバイザーとなれるし、なれかったとしても道しるべとなれる。


 それまでの道程を考えたら、ほんのわずかな光点のようなものだろうけれど、真っ暗な闇の中をなんの目標もなしに突き進むことに比べればはるかにましである。


「……皆さんにも聞いてもらっていいですか?」


 タマモはガルドたちを見やりながら告げる。その言葉にガルドたちはもちろん、そのクランメンバー、そしてこの場に集まるプレイヤーたちはそれぞれに頷いていた。


「ありがとうございます。「鑑定」した結果、ボクが元々所持していた「取得経験値極減」と今回の「取得経験値上昇極」には、リンク効果があることがわかりました」


「リンク効果だって?」


「まずおさらいとして「取得経験値極減」の効果は、「調理」以外のすべての行動において経験値を強制的に1にするというものです。ここまではいいですか?」


「……相変わらず、とんでもねえパッシブだよなぁ」


「聞くだけで冷や汗が出るよ」


「まったくだ」


 おさらいとして、「極減」の効果を改めて口にするタマモ。その内容に場にいた面々が顔を真っ青にしていた。


 MMORPGにおいて、どのような行動でも経験値は取得できるものだ。


 だというのに、「極減」はまともに取得できる経験値を限定化させてしまうという、まさに悪夢のパッシブスキルだ。


 まともな神経をしていたら、そんなパッシブスキルをゲームスタート時から所持していたら、即座に放棄するであろうものだ。


 タマモ自身、何度も放棄したくなりながらも、いまに至っているため、「極減」の効果を改めて口にすると、「本当になんなんだ、これは」と思わずにはいられない。


 若干気が遠くなりそうになるも、どうにか自分を鼓舞して続きを口にした。


「今回の「取得経験値上昇極」は「鑑定」した結果、取得経験値の上昇量は5倍でした」


「5倍、か」


「もうヤケクソレベルだよなぁ」


「普通だったら、うはうはだけどなぁ」


 続けて口にしたのは、「上昇」の効果が5倍であることだ。


 その内容にほぼ全員がざわめいたものの、「極減」が脚を引っ張っている現状を踏まえると、全員が渋い顔を浮かべていた。


 リンク効果がなければ、タマモも若干渋めになっていただろうが、問題はこの先である。


「でも、「極減」があるので、「調理」においては取得できる経験値は5倍となると思っていたのです」


「……その言い方ってことは、リンク効果で変化があったってこと?」


「ええ。リンク効果は、「調理」と同系統の行動においても、「上昇」の効果が見こめるというものです」


「「調理」と同系統?」


「ってことは……生産系の行動?」


「だと思います。今後、ボクは生産系の行動を行うたびに、5倍の経験値を得られるということになるんだと思います」


 リンク効果の文面通りであれば、「調理」と同系統、すなわち生産活動においては5倍の経験値を常時取得できるということになる。


 現時点ではあくまでも考察にしかすぎない。


 だが、少なくとも「調理」における取得経験値が上昇していることはたしかである。


 なにせ、レベル25から26に上がったのは、タマモの感覚では明らかに早すぎたのだ。


「調理」を行っている際は、余裕がなかったのだが、「調理」も終わったいまであれば、いつもよりもレベルアップの速度が速かったことに気づけたのだ。

 

 感覚的には「金毛」時と同じくらい。少なくとも「白金」時よりも明らかに速い。


「七星の狐」は、「白金の狐」のさらに上位の存在だ。


 そして「白金の狐」は「金毛の妖狐」よりもレベルアップのための取得経験値が多い。その上位である「七星の狐」であれば、より取得経験値が多くなるのは容易に窺える。


 それが「金毛」時と同じくらいの速度でレベルアップした。


 いや、もしかしたら「金毛」時よりも速くレベルアップしたかもしれない。


 もはやあからさまと言ってもいいほどだった。


 その理由が「上昇」の効果であることは間違いないし、リンク効果が発動している文面を踏まえれば、ほかの生産活動においても同じ効果が発動する可能性は高い。


 生産活動を行えばすぐにわかることだが、現時点ではあくまでも机上の空論だ。そう、現実感のある空論なのだ。


「……なぁ、タマちゃん」


 誰もが「マジか」と困惑を見せる中、レンが声を掛けてきた。


「なんですか?」


「リンク効果の文面って、「上昇」だけ? それとも「極減」も?」


「あ、それは確認していなかったですね」


 タマモが「鑑定」したのは、あくまでも「上昇」だけだ。「極減」までは確認していなかった。


「リンク効果って、わりとそれぞれに別々の効果があるってこともあるし、確認してもいいと思う」


「ですね。さすがに「極減」の効果がより凄まじくなるとは思いたくないですけ、ど?」


 言いながらも「鑑定」を「極減」にも行うタマモだったが、その言葉は途中で止まることになった。


「……え? マジ、ですか?」


 タマモは目を何度も瞬かせながら、呆然としている。


 その様子に「悪夢がより悪夢になったのでは?」とほぼ全員が青ざめていく。


 が、ほどなくして、メール音が一斉に鳴った。


 メールの送信者はタマモであった。


「七星の狐」のステータス欄を送付したときのように、タマモはスクリーンショットを再び送付したのだ。


 その内容をフレンドコードを交換している面々は恐る恐ると確認し──。


「「「「「は?」」」」」


 ──誰もが唖然とした。


 その内容があまりにもとんでもなかったのだ。というのも、レンの想定通り「極減」にも別種のリンク効果が発動していたのであった。



 取得経験値極減


 武器ないしEKにおいてのみ発動するスキル。効果はふさわしくない行動を取った場合、取得できる経験値を強制的に1にする。

「取得経験値上昇極」を取得すると、リンク効果が発動する。

 リンク効果は「取得経験値上昇極」の効果量の倍増。

 さらなるリンク効果はあるものの「必要経験値量緩和極大」が必要となる。



「鑑定」結果に記されたリンク効果は、あまりにもぶっ飛んだものだった。


 そのうえ、さらなるリンク効果があるともされているのだ。


 あまりにもとんでもない内容に、メールを送付された面々の顔は驚愕としたものになった。


 誰もがあんぐりと口を大きく開けて驚いていた。

「「極」を倍増って」


「それってつまり?」


「10倍の経験値量ってこと、ですかね」


 誰かの言葉を継ぐようにしてタマモが告げる。


「金毛」時よりもレベルアップが速い気がするという、タマモの感覚は正しかったのだった。


 その後、会場内で絶叫が響き渡ったのは言うまでもないだろう。

 

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