52話 チート?
レベルアップのために、「七星の狐」の割り振りポイントの検証のためのレベルアップのために、経験値稼ぎを行うことになったタマモ。
「フィオーレ」席に集まった面々だけではなく、第36サーバーのプレイヤーたちに手料理を振るまっていると、ついにそのときは訪れた。
「あ、来ましたね」
次々に調理を進めていたタマモの手が止まった。
その様子に「来たか?」と誰もがタマモを見やった。
タマモは冷静にそう告げたが、その言葉におやっさんの屋台に集っていたプレイヤーたちは「おぉ!」と声を上げていた。
いわゆる当人よりも周りの方がテンションが高くなるという事例そのものであった。
誰もが「早く早く」と言わんばかりに、目を輝かせている。
あけすけな視線を浴びながら、タマモは苦笑いしながら、ステータス画面を覗き込み、しきりに頷いた。
「とりあえず、スクショ撮って、送りますね。コード交換していない人は、送られた人のメールを見てくれますか?」
タマモはその言葉の通り、ステータス画面のスクリーンショットを撮り、それをメールとして各員に送付していく。
が、メールを送るのは当然全員ではない。
そもそも、タマモのフレンドないしその関係者ばかりが集った第36サーバーと言えども、その全員とフレンドコードを交換したわけではない。
となれば、当然メールを送れる人数には限りがある。
タマモが送ることができたのは、「フィオーレ」席に集まった面々と生産板の面々くらい。
送ることができただけでも結構な人数だが、第36サーバーの総人数には遠くおよばない。
が、そこは送られた面々が、送られていないプレイヤーにメール画面を見せればいいだけのことである。
本来なら他人のメール画面を見ることは、コンプライアンス的に問題だろう。
が、今回に限っては、サーバーのほぼ全員が検証班として頑張ってくれたため、その検証結果の確認を行うことは違法ではない。
むろん、タマモからの画像付きメール以外のものを見ようとすれば、その時点で違法となるものの、そのメールだけであれば問題はない。
メールを送られた面々は、送られていないプレイヤーたちに声を掛けつつ、その内容を表示させていく。
そうして表示された、タマモから送付されたメール、タマモの撮ったスクリーンショットには、レベル26となったタマモのステータスが表示されていた。
そのステータスは圧巻の一言であった。
タマモ レベル26
七星の狐(割り振りポイント7)
職業 略
HP 4469
MP 4469
ステータス 略
ステータス欄には、たしかにそれまでなかったはずの割り振りポイントの残量が表示されていた。その残量は7点。
タマモの言う通り、「七星の狐」の割り振りポイントは7点となるようだ。
つまり、レベルがあがるごとにすべてのステータスを1ポイントずつあげることが可能になったということである。
すべてのステータスを毎回上げられる。
その意味を理解できない者はこの場にはいない。
1ポイントの違いはそこまで大きなものではない。
だが、積もり積もれば大きな差となることは誰でも理解できることであった。
仮にタマモとガルドがそれぞれにレベルを10ずつあげたとして、ガルドの得る割り振りポイントが20点に対して、タマモは70点となり、50点ものが差が生じることになる。
もともとのステータスの差もあるにはあるが、「七星の狐」になった時点で、その差は大幅に縮まったどころか、凌駕しているステータスもある。
そこに差し引き50点もの差が生じれば、タマモがガルドを完全に追い越すどころか、引き離すことは容易に想像できる。
もっとも、レベルを10上げるというのが、タマモにとっては至難の業となるため、実際に引き離せるかどうかは怪しい。
その間にガルドは10どころか20、30と上げられる可能性さえある。
仮に30上げられるのであれば、割り振りポイントは60点となり、差は10点と大幅に縮まることになる。
加えて、ガルドもクラスチェンジを果たし、割り振りポイントが増加する可能性もある。そうなれば、割り振りポイントの差はより縮まるであろう。
それらを考慮すれば、実際は追い越せるかないし若干見劣りするかが関の山になるであろう。
それでも最初期の最高値が3しかなかった頃に比べたら、格段の進化であることは間違いない。
「とんでもねえなぁ」
「完全にチートだろ、これ」
「いや、でも、これ公式だからね」
「公式チートかぁ」
そんな声が次々に上がっていくが、上がる声はそれだけではない。
一番声が大きいのが割りふりポイントについてだが、その次に大きかったのがHPとMPの上昇量であった。
いままでのタマモは一律で1・1倍上昇であった。小数点以下は切り上げて処理されていた。
それは「金毛の狐」から「白金の狐」となっても変わらなかった。
だが、「七星の狐」は違っていたのだ。
レベル25時点のタマモのHPMPは2979であった。元々の993の3倍の数値だったが、今回のレベルアップでタマモは4469となっていた。
これは25時点の約1・5倍増しであった。
プレイヤーたちの中でHPとMPが1000の大台を超えているプレイヤーは多い。ただ、両方が1000を突破している者は少ない。
そして最大のHPとMPの持ち主であっても、せいぜい3000に届かないのが関の山である中、タマモは3000をはるかに超過した4000半ばに到達しているのだ。それもHPとMPが両方だ。
それだけを踏まえてもぶっ壊れである。そこに件の7点の割り振りポイントを加えたら、「公式チート」という言葉は誰もが思うところであろう。
が、重ねて言うが、そのレベルアップまでがはてしなく遠いのがタマモである。
レベルアップ時のもろもろだけを見れば、まごう事なき公式チートではある。
ただし、そのレベルアップに莫大すぎる経験値が必要となると、「チート、なのか?」と首を傾げざるを得ない。
むしろ、レベルアップが遅すぎるからこそ、その分だけ割り振りポイントや上昇の幅が大きいとう方が正しいのではないかと思えてならない。
もしやすれば、タマモがレベルを上げるための経験値があれば、他のプレイヤーであれば、普通に5つか6つレベルを上げられる可能性さえある。
仮に5つレベルを上げられるとすれば、割り振りポイントは10となり、完全に逆転してしまうこととなる。
そう考えると、「むしろ7点は少ないのでは?」と思うプレイヤーも多いのか、最初はチートと騒がれていたが、徐々に微妙そうな顔へと変化しつつあった。
実際に、タマモも「……チート、なんですかね、これ?」と微妙そうな顔をしていた。
同じ1レベルであれば、チートと言えるも、総合的に考えれば、である。
「……まぁ、総合的に踏まえれば、チートとは言えねえんじゃねえか?」
そう言ったのはガルドである。
その言葉に他のプレイヤーたちも一様に頷いていく。
その様子を見て、タマモは「ですよねぇ」と頷いたのだった。
かくして、「七星の狐」のレベルアップ検証は終わりを告げたものの、その内容はなんとも言えない、微妙なものへとなってしまったのだった。




